【試乗記】アウディQ3 35 TFSIアドバンスト(FF/7AT)

  • アウディQ3 35 TFSIアドバンスト(FF/7AT)

    アウディQ3 35 TFSIアドバンスト(FF/7AT)

漂うエースの風格

フルモデルチェンジで2代目となったアウディのCセグメントSUV「Q3」。ラインナップの中核をなすと目される「Q3 35 TFSIアドバンスト」を郊外に連れ出し、最新のシャシーやパワーユニットの出来栄え、ユーティリティー性をチェックした。

2つのボディースタイル

2005年秋に発表された初代「Q7」、2008年春に発表された初代「Q5」に続いて、Qの文字とひと桁の数字の組み合わせでネーミングされるアウディSUVラインナップの第3弾となったのが、「Q5」よりもひと回り小さいボディーをまとうことで“アウディ初のプレミアムコンパクトSUV”と銘打ちつつ登場した初代Q3だ。

Q5は北京、それから3年遅れとなったQ3は上海でと、お披露目の場はいずれも中国のモーターショーだった。昨今、さまざまなブランドがこぞってSUVに力を入れているのは、世界最大市場となって久しい中国が「特にこの種のモデルを好む」ということも大きな要因と考えられる。

かくして、もはや「ヒットは確実」という状況下で投入された初代のQ3は、兄貴分であるQ5と共に発売早々にしてQシリーズの中核といえる存在へと成長。ここに紹介するのは、そんな初代での成功をステップに初のフルモデルチェンジを行い、2代目となった新型である。

実は、新たな燃費測定モード(WLTP)への対応などもあって、新型Q3の日本導入は、欧州での発表から2年ほどのタイムラグが生じていた。そうした時間が経過するなか、新たなバリエーションとしていわゆる“クーペSUV”といわれるボディー形状のQ3スポーツバックも登場した。

結果として日本では、2020年8月の導入開始時点で、従来型のイメージを強く残したQ3と前出のQ3スポーツバックという2モデルが同時にデビュー。相乗効果が期待できるという点では“結果オーライ”といえるかもしれない。

身近に感じるサイズと価格設定

よりスタイリッシュであることを売り物とする新バリエーションの追加を見越して開発されたゆえか、Q3のスタイリングは「従来型のイメージを強く踏襲した、正統的なSUVルック」という雰囲気が強い。Cピラー部分に小窓を食い込ませる特徴的な処理なども従来型と同様である。「代わり映えしない」とまでは言えないものの、安全策を選んだデザインという印象であることは確かだ。

標準グレードで4490mm、専用デザインのバンパーを採用する「Sライン」で4495mmという全長は、従来型比で100mm近く長い。ホイールベースも75mm長くなった一方で、1840mmの全幅はわずか10mmの拡大にとどめられた。いずれにしても、全長が4.7m近く、全幅も1.9mに達するQ5との間には明確なる差が存在する。5.4mという最小回転半径の値も含めて、日本でも何とか“コンパクトSUV”とアピールできそうなディメンションをキープしている。

さらにそのようなボディーサイズに加え、Q5と比べた場合、より身近に感じるのは、210万円以上も低価格というQ3のスターティングプライスの影響でもありそうだ。

実は現在の日本仕様ラインナップでは、アウディが「クワトロ」とうたう4WDモデルを選択できるのは2リッター直4ディーゼルエンジンとの組み合わせのみ。もちろん、本国にはガソリンエンジンと4WDの組み合わせも存在し、日本でもいずれ選択できる可能性は残しているが、1.5リッター直4ガソリンエンジンはFWDのみという現状が、相対的に全車がクワトロとなるQ5に対する割安感を印象づける結果となっていることは間違いない。

今回テストドライブを行ったのは、ガソリンモデルの「35 TFSIアドバンスト」グレードで、464万円というのがその本体価格である。

もっとも、思わずチョイスしたくなってしまうようなオプションが、多数用意されているのはプレミアムブランドの常。今回のテスト車も、よりハイスペックなADAS(先進運転支援システム)やゴージャスなオーディオ、設定があれば絶対欲しくなりそうなパワーテールゲートなど91万円分ものオプションアイテムを加えることで、結果的には総額550万円を超える仕様となっていた。

計算し尽されたパッケージング

前述のように長さ方向にひと回り成長した新型で感心させられたのは、そうした寸法の変化に加えパッケージングにおいてさまざまな工夫がなされていること。「欧州発のSUVならでは」と言えそうなユーティリティー性の高さもこのモデルの特徴だ。

そもそも後席使用状態でも530リッターと、必要にして十分な容量が確保されているのが新型Q3のラゲッジスペース。さらにリアシートに前後130mmのスライド機構や7段階のリクライニング機構、40:20:40の分割可倒機構が加えられていることで、人と荷物が占有するスペースを巧みに融通させることができるようにもつくられているのだ。

例えば、居住スペースが多少窮屈になることを承知で後席を前方にスライドさせると同時にシートバックを垂直近くにまで立てれば、後席を使用しながらも通常時よりはるかに多くの荷物を積み込むことができるし、シートバックの中央部分を前倒しすれば、4人乗りの状態でスキー板などの長尺物をキャビン内に積載することも可能。もちろん2人乗り状態ならば、リアシートすべてをアレンジし最大1525リッターという広大なラゲッジスペースを生み出すこともできる。

一方、そんなユーティリティー性を手に入れるべくリアシートにスライド機構を加えたことで、ホイールハウスとの干渉を回避するためにリアシート幅がわずかに狭められているのは数少ないマイナスポイント。

もっともそれも、現実には大人3人が横並びにでもならない限りは、ほとんど影響を感じない。すなわち、大人4人であれば長時間の連続移動でも十分なゆとりを味わえるキャビン空間を提供してくれるのが、新型Q3の計算し尽されたパッケージングということだ。

想像以上に軽快でスポーティー

アウディ車ならではといえる上質さとモダンなデザインを兼ね備えたキャビン空間に身を委ね、早速走り始める。と、蹴り出しの瞬間からその加速感は思った以上に軽快だ。

ディーゼルエンジンに4WDシャシーを組み合わせたクワトロに比べれば、車両重量は170kgも軽い。しかも、1.5リッターのガソリンエンジンは、実はその最大トルク値を1500rpmからとディーゼルユニット以上に低い領域から発生させる。加速が軽快なのも「むべなるかな」なのである。

主にエンジン違いがもたらすと思われる前輪荷重の差もあってか、以前テストドライブを行った可変ステアリングギア比を用いる「プログレッシブステアリング」システム搭載のディーゼルモデル「Q3スポーツバック35 TDIクワトロSライン」に対しても、ハンドリングの軽快感はこちらのほうが上。フットワークテイストも同様で、スポーツサスペンションと、より大径の19インチシューズを組み合わせたSラインよりもしなやかで好印象だった。

結果として、「見た目から想像する以上に走りは軽快でスポーティー」というのが、新型Q3のガソリンFWD仕様の評価である。

185mmもの最低地上高があればFWDであっても問題ナシとする声もあれば、もちろんこの先には「ガソリンモデルにもクワトロを設定してほしい」という要望も出てきそうだ。逆に、「高いオフロード性能は必要としないので、ディーゼルのFWD仕様を待っている」というユーザー予備軍も少なくはないだろう。

前述した通りいずれも本国ではすでに存在している仕様だけに、“ないものねだり”には該当しない。そんな将来的な発展性や、同時デビューのスポーツバックのスタイリッシュなデザインの魅力なども踏まえれば、「今後のアウディラインナップにおいて主役となり得るポテンシャルを秘めている」と実感させる新型Q3シリーズなのである。

(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

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