【試乗記】ボルボV60 T8ポールスターエンジニアード(4WD/8AT)

  • ボルボV60 T8ポールスターエンジニアード(4WD/8AT)

    ボルボV60 T8ポールスターエンジニアード(4WD/8AT)

意志あるところに道は開ける

ボルボV60」の高性能バージョン「T8ポールスターエンジニアード」に試乗。全車の電動化戦略を着々と進めるボルボ。その旗振り役を務めるように電気の力でハイパフォーマンスを手にしたコンプリートモデルの仕上がりは?

前回は即日完売

2019年末に30台限定で発売された「ボルボS60 T8ポールスターエンジニアード」は、その日のうちに完売してしまった。919万円という価格は障害にはならなかったようだ。“特別なボルボ”を手に入れたいと思っていたユーザーは、想定以上に多かったのである。プレミアムブランドとしてのボルボが広く浸透した証しだろう。ようやく再発売が決まり、しかも今回はS60だけでなくV60と「XC60」もラインナップされている。それぞれ15台、20台、30台の計65台で前回の2倍以上だが、十分な数ではないだろう。

試乗したのはステーションワゴンのV60 T8ポールスターエンジニアード。ボディーの形が違うだけで、仕様はS60と同じだ。V60は2018年に2代目となった新世代モデルで、ガソリンエンジン車に加えて「Twin Engine(ツインエンジン)」と呼ばれる2種類のプラグインハイブリッド車を用意していた。現在では「Recharge Plug-in hybrid(リチャージプラグインハイブリッド)」という名称になっていて、このほうが電動化戦略を進めるボルボの姿勢をわかりやすく表現している。

T8ポールスターエンジニアードは、プラグインハイブリッドのハイパフォーマンスモデルである。電動化とチューニングという2つの役割を担うのがポールスターだ。どちらも得意分野である。これまでの歴史を振り返るとわかるのは、ポールスターがその両方の分野でボルボを支えてきたことだ。もとをたどれば、ボルボのオフィシャルパートナーとしてツーリングカーレースなどで活躍してきたレーシングコンストラクターである。

その後、レースだけでなく、ボルボの高性能モデルの開発を担うようになる。日本では2012年にエンジンのパフォーマンスを向上させるプログラム「ポールスターパフォーマンスパッケージ」が発売された。当時はポールスターの手がけたモデルの試乗車は「レベルブルー」と名付けられた鮮やかなブルーのエクステリアカラーが与えられていて、派手な見た目とスポーティーな走りに感心した記憶がある。

華麗なる転身

2014年からはポールスターの名を冠したコンプリートモデルが販売されるようになった。ボルボオーナーの間でスポーツブランドとして定着していったが、2017年に新たな方向性が発表される。ポールスターを高性能エレクトリックカーを扱うブランドとして独立させるというのだ。実際に、初のモデルとなるスポーツカー「ポールスター1」が発表された。この年、ボルボは全モデルを電動化していくと宣言していて、その方針に基づいた決定だったのである。

それからもポールスターパフォーマンスパッケージは提供されていたが、2020年10月で販売終了。道路運送車両法の改定で、プログラム改変による改造に規制が加えられたからだ。20万円弱で燃費や排ガスを悪化させることなく性能を向上させることができていたのに、腑(ふ)に落ちない話である。今どきソフトウエアアップデートを認めないのはどうかと思うが、ボルボ公認のロムチューンはできなくなってしまった。

T8ポールスターエンジニアードには、もちろんポールスターのエンジンマネジメントプログラムが組み込まれている。2リッター直4 DOHCエンジンにはターボ+スーパーチャージャーが与えられ、最高出力は333PS。フロントには同46PS、リアには同87PSのモーターが配されていて、システム出力は420PSにも達する。EV走行の時はリアモーターだけを使うのでFRになるが、通常は4WDである。バッテリーの残量が少なくなると発電が行われるので、バッテリー残量を理由にFF走行になることはない。

数字を見れば、豪快な加速が可能なように思えるが、このクルマからは粗暴な振る舞いがていねいに排除されている。ボルボは全車を最高速度180km/hに抑えることを決定したほどで、やみくもにスピードを求めるようなことはしないのだ。あくまでも穏やかに加速していくのだが、実際には強力なパワーを秘めているのだから瞬発力はある。いざという時にはアクセルを踏み込めば危険回避は容易だ。

内外装を飾るゴールドパーツ

充電が十分であれば、ゆっくり走るにはモーターだけで足りる。メーターにはEV走行が可能な範囲がブルーのラインで示されていて、その中に収めるように右足の力を調節すればエンジンはかからない。深夜に帰宅する予定がある時など、後でどうしてもEV走行をする必要があるのなら、「チャージ」モードを選択して充電を早めることもできる。

「インディビジュアル」を含めた5つのドライブモードが用意されていて、通常は「ハイブリッド」モードで走ればいい。状況に応じて駆動力を最大化する「コンスタントAWD」モードとモーター走行を最優先にする「ピュア」モードを選ぶこともできる。このモデルの実力を最大限に発揮するのは、「ポールスターエンジニアード」モードだ。アクセル、ステアリング、トランスミッションのレスポンスが向上し、トルク配分がリア寄りになる。ESCもスポーツモードに変更されるので、腕に自信がなければ意気がってコーナーを攻めるのはやめたほうがいい。

サスペンションもポールスターエンジニアード専用装備だ。オーリンズ製DFVダンパーが用いられている。マイルドハイブリッドのV60と乗り比べると、明らかに乗り心地が違った。雑味がなく、滑らかさが上質なのだ。ブレンボ製の6ピストンブレーキも専用で、踏み始めのフィールがナチュラルでコントロールしやすい。前後のキャリパーはゴールドに塗られていて、特別感をアピールしている。

内外装は「R-DESIGN」ベースだが、ポールスターエンジニアードだけの装備もある。ブラッククローム仕上げのエンドパイプには、小さく「Polestar Engineered」ロゴが刻まれていた。以前はブルーだった「Polestar」バッジはホワイトに変わったので、新世代モデルであることがひと目でわかる。内装にはもっと特別感がある。ステアリングホイールに装備されたシフトパドルは専用装備だ。目立っているのはシートベルト。ゴールド仕様で、かなり派手である。

ダイヤルで減衰力を調整

意表を突くのは、ダンパーの減衰力調整の方法である。ダッシュボードのスイッチで操作する電子制御式ではなく、手動調整式なのだ。ボンネットを開けるとストラットタワーバーの左右端にゴールドのダイヤルが見える。それを指で回すことによって減衰力を変える仕組みだ。数字が書いてあるわけではないので、一度左に回しきってから一段ずつ数えて右に回していく。22段階もあるから、慎重に操作しないと間違えてしまいそうだ。リアも同じシステムになっているが、ジャッキアップしないとダイヤルに手が届かない。

試乗車は推奨値の「6」に設定されていたが、せっかくなので変更してみた。フロントを硬めの「2」にすると……あまり変化を感じない。本当はリアも一緒に調整しなければならないので、バランスは悪くなっているはずである。限界に近い走りをすれば、違いに気づくのだろう。15年ほど前にハイパフォーマンスモデルの「S60R」に乗って「アドバンストスポーツ」モードを試した時はガチガチの硬さに戸惑ったが、今のボルボははるかに洗練されている。

ボルボV60は、素のままでも優れたステーションワゴンだ。低い構えはアグレッシブでありながらエレガントさをたたえていて、スカンジナビアンデザインの到達点を示している。後席のニースペースや荷室容量は、ライバルたちに対して優位に立つ。そこにポールスターの手が加えられてさらに魅力を増したのだから、少々値が張っても手に入れたくなるのだろう。

そして、T8ポールスターエンジニアードはボルボの企業姿勢を体現したモデルなのだ。ボルボは全モデルにプラグインハイブリッド車と48Vマイルドハイブリッド車を導入し、2020年中に全車を電動モデル化する。2021年には「XC40」のEVバージョンを導入予定で、2040年までにクライメートニュートラルを実現すると宣言した。ボルボファンなら、電動化に向けた決意をまとうT8ポールスターエンジニアードに強い興味を抱くはずである。

(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

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