【試乗記】マツダCX-5 XDエクスクルーシブモード/CX-5 XDブラックトーンエディション
進化は続くよ どこまでも
4年間で実に5回
そうではあっても、現行CX-5はそもそも初代CX-5から基本骨格がキャリーオーバーされた改良版であり、新世代商品群としては初代ともども第1世代(マツダ社内では歴代通算で“第6世代”と呼ばれる)に分類される。基本骨格が完全刷新された「マツダ3」や「CX-30」などの第2世代(同じく通算第7世代)ならともかく、「さすがに今のCX-5はもうやり尽くされた!?」とも思うのだが、それでも改良の手は緩められない。もはや執念めいたものすら感じる。
今回の改良のポイント……というか、明確な変更点は全部で4つ。分かりやすいものとしては、ホイールやドアミラー、インテリアの加飾パネルなど、内外装の要所を黒色で統一した、いかにも売れ筋になりそうな「ブラックトーンエディション」の設定。そしてインフォテインメントシステム「マツダコネクト」の改良と、それにともなうコネクテッドサービスの導入があげられる。
マツダのコネクテッドサービスは、緊急コールやクルマの位置情報確認、ドア/トランクの閉め忘れやハザードの消し忘れなどの通知、ドアロックなどのリモコン操作、スマホで行ったナビ設定のクルマへの送信……といった内容で、マツダ3から順次導入中のものだ。合わせて、センターディスプレイのサイズも8.8インチと10.25インチ(従来は8インチ)に拡大されたが、こちらは画面サイズもさることながら解像度のアップが著しい。従来と比較すると、家のテレビが地デジ化(笑)されたくらいの喜びがある。
アクセルペダルにささやかな改良
キモとなるアクセルペダルについては、マツダが公開したプレスリリースには「操作力を最適化することで、SKYACTIV-D 2.2の強力なトルクを精度よく、加減速コントロール性をより意のままにコントロールできるように改善しました」とあるが、具体的にはアクセルペダルユニットに内蔵されるスプリングのレートを引き上げた≒硬くしただけだという。本当にレートを変えただけで、スプリングそのものを改良したわけでもないし、スプリング以外はすべて従来のアクセルユニットそのものだそうだ。また、そのアクセル開度とエンジンのトルク供出のセッティングも、まったく変わっていないという。
最高出力を10PSアップしたのも「さすがにアクセルペダルが重くなっただけでは、販売現場も営業しにくかろう」との配慮からのリップサービス用? ……と意地悪にたずねると、パワートレイン開発担当の井上氏も強くは否定しなかった。さらには「新旧2台ならべて加速競争すれば、新型がちょっと前に出ますけどね」とほほ笑んだかと思えば、CX-5の現開発主査である松岡氏も「10PSは4000rpm以上回さないと気づかないでしょう」と加えた。マツダの人たちは正直である(笑)。実際、今回は従来型との乗り比べもできたが、合計2時間程度の公道試乗では、少なくとも私自身は10PSアップを体感することはなかった。
小さな変更で大きな効果
マツダ広報担当はさらに「なぜか、ブレーキタッチも向上したように感じませんか?」との誘い水もかけてきたが、私もこの道30年と経験だけはそれなりに長い。よって、さすがにダマされはしなかった(笑)が、前出の井上氏によると、開発中の実験からもそう感じる人は少なくなかったのだという。
ただ、今回さらに以心伝心度が増した速度微調整性には、アクセルペダルだけでなく、ATの新しい制御も効いていることは間違いないだろう。「いざ加速!」といった気持ちでアクセルペダルに力をこめた次の瞬間、絶妙なタイミングで1速だけギアを落としてくれて……といったシーンが、今回の短時間試乗でも数回あった。
その後、再び従来型に乗ってみたが、「アクセルペダルが軽すぎて、どうしてもペタペタ系の操作になってしまいがち」などと、以前はこれっぽっちも思わなかったくせに、生意気にもツッコミを入れたくなった。われながら人間の感覚とは曖昧で、クルマ好きというのはチョロイ人種である。そして、クルマづくりはやはり奥が深い。
もはややり残したことはない?
井上氏によると、重いアクセルペダルとディーゼルとの相性がいいのは「ディーゼルエンジンの加速特性というより、絶対的なトルクの大きさに主に関係しているようです」ということらしい。なるほど、CX-5の車格には2.2リッターディーゼルのトルクはもともと過剰気味である。重いアクセルペダルによって、おのずと上品で穏やかな操作が促進されることが奏功しているのだろうか。
それにしても、あらためて乗ったCX-5は、さすがに新鮮味はないが、とてもいいクルマではあった。新しいパワートレインはもちろん、フラットで快適な身のこなしと乗り心地にはほぼ文句のつけようがない。このあたりは前回までの改良で到達した味わいである。
そんなマツダならではの商品改良も、今回のCX-5ではいよいよ神がかった領域(笑)に足を踏み入れたということかもしれない。冒頭の「やり尽くされたのでは!?」との質問に、開発主査の松岡氏も「そうですねえ」と半ば同意してくれた。マツダの人たちはやはり誠実だ。ただ、CX-5はいまだに最重要市場のアメリカでは最量販モデルであり、わが日本市場でも「マツダ2」やCX-30とならぶ3本柱のひとつであり続けている。なんだかんだいっても、フルモデルチェンジの瞬間まで改良し続けるんだろう。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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