【試乗記】日産エクストレイルAUTECH(4WD/CVT)/セレナe-POWER AUTECH(FF)
こだわりがクルマを変える
ボディーカラーは“湘南の青”
神奈川県茅ヶ崎市、湘南と呼ばれる地域で創業したオーテックジャパンは、自社ブランドのイメージカラーに相模湾の色を想起させる青を採用した。デザイナー陣の青へのこだわりは、同じ青でもモデルによって色のニュアンスが微妙に異なることからも伝わってくる。AUTECHのデザイナーは、春夏秋冬、さまざまな時間帯、あらゆる天候の湘南の海を眺めることで、青という色へのイメージをふくらませるのだという。青といっても1色ではなく、各モデルのキャラクターを表現するのにふさわしい、さまざまな青を生み出しているのだ。
そしてフロントとリアのバンパー下のキラリと光る装飾パーツは、陽光を受けて輝く白い波頭をイメージしたもの。ブラックを基調としながらも、シートやステアリングホイール、それにシフトセレクターのノブなど、あちこちに青い差し色が効果的に使われる車内に乗り込む。
試乗車は2リッターのガソリンエンジンを搭載する四駆モデル。現行エクストレイルのガソリン車には3列シート仕様もラインナップされるけれど、今回試乗したのは2列シートの仕様だった。
足まわりの改良で大人のSUVに
AUTECHというブランドのコンセプトは「プレミアムスポーティー」で、開発陣によれば、それはデザインだけでなく走りでも表現しているという。エクストレイルのAUTECH仕様は、特に以下の3つに留意して開発されている。ひとつは上質でフラットなボディーの動き。ふたつめがコーナリング時のロール(横傾き)の抑制。そして最後が操縦性の向上、具体的にはアンダーステアの低減だ。
試乗しながら、確かにこの3つはクリアしていると感じられた。そしてロールやアンダーステアを減らしながら、乗り心地も悪くなっていない点に感心した。ガチガチに固めるのではなく、しっかりサスペンションを動かしながらフラットライドを実現している。
資料を見ると、チューニングの内容はパワーユニットによって異なっており、2リッターガソリン車の場合、スプリングは標準仕様と共通ながら、専用の19インチタイヤ(タイヤサイズは225/55R19)と、それに合わせるショックアブソーバーを吟味したとのことだ。ショックアブソーバーは、最終的にはザックス製に落ち着いたという。結果的に、適度に引き締まりつつ粗さは感じさせないという、大人のSUVに仕上がっている。
実際、オーナーの来歴を見ても、大型SUVやビッグセダンから乗り換えるダウンサイジング組が多いという。子育てを終えた方が、必要にして十分なサイズの上質なクルマを求めているということだろう。昔は食べ放題や飲み放題がうれしかったけれど、最近はおいしいものを少しずつ、いい日本酒でちびちびとやっている。そんなライフステージにはこんなクルマが似合いそうだ。
本格的なチューニングで走りを引き締める
実際、このクルマに施されたチューンは本格的だ。ご存じのようにe-POWERはエンジンが発電に専念して、そこで生まれた電気でモーターを駆動する電動パワートレイン。従来のマイルドハイブリッド仕様よりも重心が低くなるので、そこに合わせて操縦性と乗り心地を最適化したという。
具体的には、フロアに補強材を追加することで車体の剛性を強化。これによって車体のねじれが減り、操舵時の応答遅れを減らすことができた。コイルスプリングのバネ定数やショックアブソーバーの減衰力も徹底的に見直し、タイヤにグリップと乗り心地の両立で定評のある「ミシュラン・パイロットスポーツ4」を採用することとあわせて、走って楽しいミニバンを狙った。
ミニバンというよりグランドツアラー
e-POWERには、専用にチューニングしたコンピューターが採用される。「S(Smart)」「ECO」「NORMAL」の3つが用意されるドライブモードで「S」を選ぶと、レスポンスが一段と切れ味鋭いものとなり、胸のすくような加速が味わえる。エンジンとは種類が違う、モーター駆動ならではの新しいファン・トゥ・ドライブが存在する。
前述した日産エクストレイルAUTECH iパッケージ同様、エクステリアとインテリアも上質に仕立てられているから、クルマ好き、運転好きはもちろん、家具やガジェットにこだわる人にも受けるだろう。
日産セレナという定番車種の可能性を、さらに広げるのがAUTECH仕様だ。特にe-POWERとスポーツスペックが合わさった今回の試乗車は、モーター駆動ならではの静粛性と滑らかさ、そして高速域でのフラットな乗り心地から、クールなグランドツアラーだと感じられた。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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