【試乗記】スバル・インプレッサスポーツSTI Sport(FF/CVT)
大人だったら響くはず
モータースポーツの頂点を極めたSTI
現在ではニュルブルクリンク24時間レースや日本のSUPER GTなどで活動を続けているSTIだが、モータースポーツで磨いてきたクルマづくりの技を、コンプリートカーやパフォーマンスパーツといったプロダクト開発にも生かしている。
なかでも「Sシリーズ」と呼ばれる究極のコンプリートカーは、STIが開発からパーツの装着までを担当し、エンジンのパワーアップと、それにふさわしいシャシー性能で得たエキサイティングな走りが、ファンの心をつかんできた。ただ、こだわりの詰まったSシリーズの開発や生産には多くの時間を要し、生産台数が限られるという悩みがあった。
そこで、より多くの人にSTIの魅力を届けるために生まれたのが「STI Sport」というコンプリートカーだ。開発はスバルとSTIが共同で進め、生産はスバルの工場で行われる。スバル車のいちグレードとして販売され、手の届きやすい価格設定も手伝って、より幅広いファンにアピールするモデルとなっているのだ。
FFモデルもラインナップ
初めて実車を目の当たりにした印象は、「派手さこそないものの、キリッと引き締まったクールなハッチバック」というものであった。明るいアイスシルバーメタリックのボディーに、ダークメタリックの18インチアルミホイールやブラックのエクステリアパーツが、精悍(せいかん)さを際立たせている。スポーツモデルでありながら、やりすぎ感のない、大人のコーディネートがうれしい。ブラックのフロントグリルに配されるチェリーレッドのSTIエンブレムがアクセントだ。
それに比べると、インテリアはわりと華やかだ。黒を基調としたインテリアは、落ち着いたレッドをあしらったシートをはじめ、レッドステッチが施されたステアリングホイールやダッシュボード、つやのあるブラックのパネルなどにより、グレードアップした印象だ。
もちろんSTI Sportをうたうだけに、走りにかかわる部分にも手が入れられている。目玉は、専用開発のフロントダンパー。ショーワ製のSFRD(Sensitive Frequency Response Damper=周波数応答型ダンパー)を、STIがこのクルマにあわせてチューニングしているのだ。さらにリアダンパーも専用のチューニングを施すことで、意のままのハンドリングと、滑らかで質感の高い乗り心地を目指したという。
エンジンはノーマルのまま
それだけに、パワーアップを果たしたスポーツモデルのような期待を抱くのはお門違いということになるが、1350kgのボディーにこのパワーとこのトルクだから、冷静に考えれば十分なエンジン性能であるのは想像に難くない。
実際、CVTの「リニアトロニック」と組み合わされたフラット4は、低回転から余裕ある加速をみせる。パワーユニットの制御が切り替えられる「SIドライブ」は、燃費に配慮したという「インテリジェントモード(I)」ではややおとなしい印象だが、「スポーツモード(S)」を選ぶとエンジン回転が上がり、アクセルペダルに対するレスポンスも向上する。
アクセルペダルを踏み込むと、シャーというCVTからの金属音を控えめに発しながら、乾いたフラット4のサウンドを楽しめるのもうれしいところだ。154PSの“使い切れるパワー”は圧倒的な速さこそないが、このクルマを気持ちよく走らせるには十分な実力といえる。
珠玉のシャシー性能
この日は高速道路やワインディングロードのほか比較的荒れた舗装の一般道も走ったが、しなやかに動くサスペンションがフラットな姿勢を保ちながら、路面からの細かいショックをカットし、思いのほか乗り心地は快適。目地段差を越える際もショックを軽くいなしてくれる感じだ。前述のSFRDは、電子制御の力を借りずに、伝わる振動の周波数に応じて減衰力を自動的に調整するといい、路面からの微振動を感じさせないのはこのSFRDが貢献しているようである。
一方、ワインディングロードを走る場面では、ステアリング操作にすぐさま呼応して、すっと向きを変える軽快なハンドリングを示す。コーナーを通過する際のロールの動きはしっかり抑えられ、しなやかさが際立つサスペンションが路面をしっかりと捉えてくれる。その一連の動きは、ドライバーの意図したとおりのものだけに、運転がうまくなったような気にさせてくれるのだ。
乗り心地が快適なぶん、運転しても疲れ知らず。耐久レースで勝つには、楽に運転できるマシンづくりが不可欠といわれるが、そのノウハウは、STI Sportのそういう部分にも息づいているということだろう。
絶対的な速さではなく、操る楽しさを加速させるチューニングが気持ちいいSTI Sport。酸いも甘いもかみわける大人におすすめしたい一台である。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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