【試乗記】マツダ3セダンX Lパッケージ/マツダ3ファストバックXD Lパッケージ
着実に 確実に
複数の主力パワートレインを手直し
今回はさすがに内外装デザインには手をつけていないが、4種のうち3種のパワートレインに、なにかしらの変更が加えられている。
まずは2リッターガソリン車にも、筋金入りのマニア待望のMT仕様が追加された。この設定は5ドアの「ファストバック」のみで、4ドアセダンが全車ATであることは変わらずだが、これによって、ディーゼル以外のすべてのFF車で(スカイアクティブXでは4WD車でも)MTを選べるようになった。
そして、1.8リッターディーゼルと最上級となる2リッタースカイアクティブX(以下、X)の両エンジンでは、ピーク性能の向上と味わいの熟成が図られている。どちらもハードウエアはそのままでの“制御のみでの改良”となるが、ディーゼルは「ディーゼルらしいトルクの太い走りを幅広いシーンで強化」、Xは「ドライバーの意図に応える瞬発力を高めた自在感を洗練」と資料にうたわれている。
さらには全車でシャシーチューンに手が入れられた。乗り心地がちょい硬め……が、これまでのマツダ3に対する一般評価と思われるが、開発陣は「ピッチング方向の動きが出やすいクセがある」との着目から、主にフロントサスペンションを見直すことで改善を目指したのだという。
さらにはアダプティブクルーズコントロールの使用時に、操舵支援によって車線中央付近の走行や前走車の軌跡にそった走行をアシストする「クルージング&トラフィックサポート」の作動範囲を拡大した。これは「CX-30」に続く改良で、上限速度を従来の55km/hから高速域(速度は未公表)まで広げた。
高回転域で感じられる確かなちがい
まずは1.8リッターディーゼルに乗る。試乗車はファストバックの4WDだ。まず改良前モデルに乗って、そのまま改良後モデルに乗り換えたのだが、市街地での走りだしの印象は「1000-2000rpmでのエンジン反応がリニアになった気がしないでもないが、気のせいかもしれない」といった程度である。アクセルペダルの踏みはじめの応答性を高めた=ツキをよくした……というのが開発陣の主張だから、気のせいではないだろうし、この部分に敏感なドライバーには有益な改良と思われる。とはいえ、良くも悪くも、激変というほどではない。
ただ、交通量多めだが順調な速度で流れている首都高速での合流などで、アクセルを大きく踏み込んでATのキックダウンを誘発した場合には、今回の改良はちがいが歴然である。こうした場合はエンジンの回転数が3000rpm台に乗るわけで、最高出力アップ(116PS/4000rpm→130PS/4000rpm)の効果が如実に表れるのだろう。
改良前は全域でフラットに去勢された感が強く、3000-4000rpmの高回転域で期待するほどパワーが出なかった。そのせいもあってか、「マツダの1.8リッターディーゼルはちょっとネムい」との印象を抱かざるをえなかったが、改良後はその領域で、スカッと抜けたようにパンチが出るのが心地よい。2リッターガソリンより上級……という1.8リッターディーゼルの立ち位置は、改良後のほうが分かりやすい。
最新技術に合わなくなりつつある型式認証制度
数値上も、最高出力で10PS、最大トルクで16N・m上乗せとなっているが、よりツキがよくなったアクセルレスポンスやパンチ力は、体感的にはそれ以上のものがある。
また、エンジン音もこれまでよりツブがそろった心地よい音に変わっていたが、この点は「エンジン音については特別に調律したわけではありません」とことわりをいれつつ、開発担当氏が「今回はディーゼルもスカイアクティブXもEGRの制御精度を上げましたが、Xでは各サイクルの自着火燃焼の強さがそろったことで、音の変動が少なくなっています。排気音の変化も燃焼がそろってきたことによる副次的なものです」と説明してくれた。
繰り返しになるが、両エンジンの改良はすべて制御プログラムの変更によるものだ。技術的には既納車のアフターアップデートが可能であり、マツダとしてもそうしたサービスを考えているというのは、すでに報じられているとおりだ。その内容は現在のところ検討中とのことだが、アーリーアダプター的な役割を担った改良前Xユーザーのアップデートは無償、ディーゼルは有償……といった条件になる可能性もあるらしい。
ただ、いずれにしても国内の現行法規では、パワートレインの制御だけであっても、出力・トルクや燃費の性能値が変わると型式認証は再審査となる。同サービスは、国によるそのあたりの規制緩和とも無関係ではない。われわれとしてはこれを機に、こうした時代に合わない規制は撤廃して、新しいサービスの可能性をぜひ前に進めてほしいところだ。
よりフラットかつしなやかな乗り味に
ピッチングの原因を、相対的に突っ張り気味のリアサスペンションにありと解析した開発チームは、サスペンションの前後バランスを“フロント高め”にして、リアをより滑らかに動かすようにした。フロントのバネレート引き上げと、伸び側を弱く、縮み側を強くしたダンパーにより、リアにより明確にカツが入るようにしたということか。
新旧を比較すると、なるほど、全体に姿勢はフラットに保たれるようになっている。この点は多くの人が乗り心地の改善ととらえるだろう。フロントがわずかに硬くなったことと、初期部分でよりしなやかに当たるバンプストッパーのおかげか、ステアリングの反応も少し俊敏になったきらいがある。ただ、ブレーキングで適度にノーズダイブしてくれた改良前モデルも、そのぶんステアリングの接地感は濃厚だったりして、個人的にはドライバーズカーとして捨てがたかった気もする。贅沢をいえば、改良後の乗り心地と改良前の接地感の両立を目指してほしいところだ。
また、マツダ3のフロントサスペンションストロークは、バンプストッパーに当たるまで約10mmだそうで、こう聞くとやけに短く思える。しかし、実際には「フォルクスワーゲン・ゴルフ」も含めた最新の欧州車では、これが常識的な設計思想だという。具体的には橋のジョイントなどの大きな目地段差を乗り越えたとき、あるいは0.2〜0.3Gの制動(≒コーナリングのための強めのブレーキング)でフロントがストッパーに当たりはじめるそうだが、その付近をいかに優しく、同時にしっかりと受け止めるかが、最新の操安技術の世界的なキモになっているのだとか。
フェンダーバッジにみるマツダの“変化”
そんなGVCの相乗効果もあるXのスポーツモードは、なるほどパワートレインだけでなく、ハンドリングも明確に活気を増す。ターボ車や可変ダンパー車ほどに激変はしないが、好事家なら自分の運転のテンションをいつもより1段階上げるためのスイッチとして活用できそうだ。それくらいには変わる。
初代「CX-5」以降のマツダの商品群では、この種の可変アイテムや、グレードを示すバッジなどを否定することで、「理想はひとつ、うわべの差別化は無意味」との独自の美学を打ち出してきた。ただ、いっぽうでは「もうちょっと体感しやすく」とか「せっかく高価な上級モデルを買っても自慢できない」といった市場の声もあったという。今回のスポーツモードの改良も、そんな市井の声にこたえたもののひとつで、XのGVCはベルト駆動マイルドハイブリッドのモーターをコントロールに使っていることもあり、より緻密で明確な制御が可能だからこそ実現したものだという。
今回の改良もマツダらしく「念」みたいな領域のものも多いが、まあ着実に前に進んでいることも事実。高価なXには目立ちやすいフロントフェンダーに「SKYACTIV X」バッジもつくようになったので、今度は黙っていても上級マツダエンスーとして一目置いてもらえることだろう。
(文=佐野弘宗/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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