【試乗記】日産ノートX(FF)
荒波を乗り越えて
日産の進む道
人気車種ではなかったノートがコンパクトカー市場で大きな存在感を示すようになったのはe-POWERのおかげである。e-POWERは「セレナ」にも搭載され、好評を博した。EVの「リーフ」を持つ日産にとって、電動化戦略の幅を広げるキーテクノロジーだ。新しいノートは、e-POWERモデルのみである。新世代のシステムに進化しており、新プラットフォームとの組み合わせはこれからの日産車が進む道を示すことになる。
日産は“ホームマーケット日本の再強化”を掲げている。ニューモデルの投入が遅れていた状況を改善するため、2023年度末までにEVを2車種、e-POWERを4車種発売する計画だ。他メーカーでもコンパクトカーはハイブリッドが主流となっているが、それは燃費競争を意味しているわけではない。燃費のよさが大きなアピールポイントだったのは過去の話で、日産の調査では2018年からは安全性が最も重視されているという。先進イメージも大切で、e-POWERはアドバンテージとなるようだ。
第2世代e-POWERの改良点は3つ。「力強さ」「なめらかさ」「静かさ」だ。いずれもモーター駆動が内燃機関より有利なポイントであり、長所を伸ばしていこうという方針なのだ。乗ってみると、確かに先代モデルから着実な進化を遂げていることがすぐに実感できた。
“ワンペダル運転”はできない
先代ノートe-POWERは、モーターで走る楽しさをもっとストレートに表現していたような気がする。新型はパワーコントロールの洗練度が高くなり、重厚ささえ感じられる。先代の軽やかでスポーティーな走りも魅力的だったが、より広いユーザーに向けてチューニングしたのだろう。ハイブリッド車も含めてエンジン駆動のクルマに乗っている人が大多数なのだから、乗り換えても戸惑わないことが大切だ。
加速よりもっと変わったのが減速のフィールである。先代ノートは“ワンペダルドライブ”を掲げていて、発進から停止までアクセルペダルのオンオフだけで操作できることを強調していた。新型ではこれを推奨していない。というより、できないのだ。クリープ機能を付けたので、アクセルオフだけでは完全には停止しない。駐車時などにはクリープがないと不便であり、要望が多かったのだろう。
「ノーマル」「エコ」「スポーツ」の3種類のドライブモードが用意されている。「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の順番が一般的だが、あえてこの並びにしたのはエコがデフォルトであるということを示しているわけだ。エコモードではノーマルに比べてアクセルオフ時の減速力が強くなる。それでもかなりマイルドな設定で、先代モデルで鍛えた停止線にピッタリ止まるというスキルは使えない。
周到なエンジン音対策
ワインディングロードではドライブモードをスポーツに設定。加速力が強まるということだが、体感としてはそれほど変わらなかった。上り坂で負荷がかかると電力供給のためにエンジンはかかりっぱなしになり、モーター駆動のクルマに乗っているという感覚は薄くなる。スピードの伸びは割と早く頭打ちになるので、中高速コースではあまり楽しめないかもしれない。細かいコーナーが連続する道でワンペダル気味にリズムよく走るのは楽しかった。
EVのような大容量のバッテリーを積んでいないので、蓄えられる電気の量は少ない。こまめにエンジンを回して充電する必要があるが、無粋な音が発生するのはイヤだ。新型ノートは周到な対策を用意した。平らな道を静かに走っている時は極力発電しないようにし、ロードノイズが大きくなったらエンジンをかけるという制御を取り入れたのだ。どのくらい効果があったのかはよくわからなかったが、日常使いでは差が出るのだろう。もともとノートは耳障りなエンジン音ではなかったのに、この細やかさが日本のメーカーらしい気配りである。
中身の進化に劣らず、デザインも大きく変わった。外観に先代モデルの面影はほぼない。先代ノートはルックスで引きつけるというクルマではなかったから、一新したのは当然である。エッジの効いた面構成はなかなかダイナミックで、太陽光の当たり方で大きく表情を変えるのが面白かった。ノートのデザインテーマは“タイムレスジャパニーズフューチャリズム”。わかりにくいが、EVの「アリア」と共通のデザイン言語なのだそうだ。泥くささが消えたのは歓迎すべき変化である。
音もつくり込む
伸びやかなフォルムに見えるが、先代より全長が55mm短い。同じプラットフォームを使う「ルノー・ルーテシア」もサイズダウンしていて、コンパクトカーが大きくなりすぎたことを反省する動きが世界的に始まっているのだろう。ホイールベースも20mm縮小されているから室内が狭くならないか心配になる。しかし、後席に座ってみると十分なニースペースが確保されていた。先代ノートの後席はライバルより圧倒的に広かったので、まだまだアドバンテージが残っている。
メーターはモニターと一体になったバイザーレスデザイン。段差があるから「モノリス」と名づけたことには違和感があるが、今風にアップデートされている。センターコンソールの下に広い空間があるのは、ボルボのフローティングセンタースタックに似ているような。「マツダMX-30」も同様の構造で、本家がやめてしまった意匠をなぜか日本のメーカーが相次いで採用したのはなにか理由があるのだろうか。
形状だけでなく、音にもデザインが施されている。プレス向けの資料には“高品質感活動”という項目があって、つくりのよさと演出について詳しく説明していた。バンダイナムコとコラボして警告音の音色を工夫し、ドアを閉める時の音もつくり込んだという。おせっかいなほど丹念にディテールを解説する姿勢に既視感があると思ったら、マツダが技術をレクチャーするやり方とそっくりである。いいところはどんどんマネすればいい。ダッシュボードとドアトリムのつながりなど、まだまだ盗む点はあるはずだ。
さまざまな面に細やかな目配りが行き届き、ノートの魅力は着実に向上した。もともと技術はあるのだ。いろいろあったけれど、日産はいい方向に変わりつつあるのだと思う。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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