【試乗記】ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite(4WD/7AT)
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ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite(4WD/7AT)
千里の道も一歩より
“レベル3”に行き着くまでが難しい
そもそも今回の取材は、レジェンドに初搭載された先進安全運転支援+自動運転機能システム「ホンダセンシングエリート」を体験するメディア向け試乗会だった。設定された試乗ルートは、東京・台場にある会場を拠点として、まずは臨海副都心入口から首都高速湾岸線を西に向かい、大黒PAでUターン、その後は同じく湾岸線を使って戻る……というものだ。このあたりを走った経験のある人ならお分かりのとおり、このルートの復路(=首都高速湾岸線・東行き)では高い確率で渋滞が発生するのだが、その渋滞こそが、当試乗会のキモである。
現時点で世界唯一となるレベル3機能は「トラフィックジャムパイロット」という商品名で、前記ホンダセンシングエリートの一部として提供される。その名から想像できるように、世界で初めて型式指定(≒市販・実用化)されたレジェンドのレベル3は、あくまで渋滞時専用となる。もう少し詳しくいうと、それは「高精度3D地図が対応している高速道路および自動車専用道路」上で「渋滞に遭遇して車速30km/h以下」まで落ちた状態で初めて作動し、以後は車速50km/hまで作動状態が維持される。実際はほかにもいくつか条件があるのだが、おおざっぱにはそういうことだ。
さらにいうと、レジェンドのそれは「しばらく順調に高速で走っていたのに、渋滞にハマってしまった」という状況でないと作動しない。つまり、まずは渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線維持支援システム(LKAS)を作動させた“ハンズオフ高速走行”を一定時間続けたうえで渋滞にハマらないと、レベル3にはたどり着けないのだ。われわれ取材班は今回、1時間半という試乗時間内に、この条件に当てはめることに失敗したわけだ。自動運転レベル3への道は、かくも遠いのであった……。
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車体後部に貼られた、自動運転車であることを示すステッカーに注目。「ホンダ・レジェンド」は、自動車の側が運転の主体を担う「レベル3」の自動運転を実現した、世界初の市販モデルとなる。
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インテリアでは「ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite」専用のデジタルメーターや各部のイルミネーション、機能の拡充に伴い変更された、ステアリングスイッチのアイコンなどが特徴だ。
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「トラフィックジャムパイロット」の作動画面。ハンズフリー走行中に渋滞に遭遇し、車速が30km/h以下に低下し……と、その作動には複数の条件があるのだが、今回の試乗ではそれに合致したシーンに遭遇せず、「レベル3」の自動運転を体験できなかった。(写真:本田技研工業)
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試乗車に採用されていた「シーコースト・アイボリー」のインテリア。内外装における標準車との違いは控えめで、6色のボディーカラーや3種類のインテリアコーディネートも共通である。
既存のハンズオフ機能との決定的な違い
レジェンドのトラフィックジャムパイロットも、実際の走行形態はこれらレベル2の機能と大差ない(とは、レベル3体験に成功した同業者の弁)。しかしこちらのシステムでは、ドライバーは前方から目を離して「ナビ画面でのテレビやDVDの視聴、目的地の検索などのナビ操作をすることが可能」(プレスリリースより)となる。「ドライバーが前方から目を離す」ということは、運転の主体と周囲の監視責任が、ドライバーからクルマに移ることを意味する。いろいろと条件がつくとはいえ、これこそが従来の「運転支援」から「自動運転」になる記念すべき瞬間でもあるのだ。
このレベル2と3の差は、乗っている人間にとっては「ちょっとしたヨソ見が許されるかどうか」程度のものにしか感じられなかったりもするのだが、それを提供する側に必要とされる技術と責任には、天と地ほどの差がある。現実に起こりえるあらゆる事態を想定し、わずかでもリスクがあれば、即座に運転の主体をドライバーに(きちんとそれを気づかせたうえで)投げ返す必要があるし、その時点でドライバーが“それ”を受け取れないと判断した場合には、緊急自動停止まで実施しなければならない。レジェンドはそのために、5つのミリ波レーダーと5つのライダー、そして2つのフロントカメラを備える。
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「レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite」には、レベル3の自動運転機能「トラフィックジャムパイロット」に加え、その“前段階”である各種ハンズオフ運転支援機能も装備される。
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レベル2のハンズオフ運転支援機能も、レベル3の「トラフィックジャムパイロット」も、自動操舵に自動での加減速と、起きる事象そのものに大きな違いはない。ただレベル3では、(限定的とはいえ)ドライバーが周辺監視の任から解放される。
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システムの作動状態は、デジタルメーターに加え、ヘッドアップディスプレイにも表示される。
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標準車との分かりやすい識別点ともなっている、ライダーとターコイズブルーのイルミネーション。ライダーは右前・左前・右後ろ・中央後ろ・左後ろと、5カ所に装備される。
レベル2の運転支援機能にみる“恩恵”
このレジェンドでいつものようにACCで走っていて、ある条件が整うと、ステアリングホイールに内蔵されたLEDが青く点灯する。そうするとホンダセンシングエリート独自の「ハンズオフ機能付き車線内運転支援機能」が作動して、手ばなしのハンズオフ運転が可能になる。さらにハンズオフ走行中に自分より遅い前走車に追いつくと、「高度車線変更支援機能」によってハンズオフのまま自動で車線変更して前走車を追い越し、追い越しが終われば再び走行車線に自動で戻る。また、ナビで目的地が設定してあれば、分岐の手前から適切な車線への車線変更も自動でおこなう……という芸当まで見せてくれる。しかも、そうした一連の走りが驚くほどスムーズなのだ。
この状態はレベル2の運転支援に相当するため、他の“ハンズオフ各車”と同じく、システムはインストゥルメントパネルに仕込まれたカメラよってドライバーの顔の向きや視線の方向をモニタリングしているのだが、そのカメラの監視精度もこのホンダセンシングエリートではすさまじく高い。これまでのハンズオフ車であれば、顔をだいたい前方に向けてさえいればOKのケースが多かったが、レジェンドでは顔は真正面か、ちょい左方向のセンターディスプレイに向いていないと即座に注意される。右方向に長時間顔を向けているとヨソ見と判断されるし、顔はそのままに目線だけ外すようなインチキ(?)も、レジェンドはほとんど見逃してくれない。別にクルマをだます必要もないのだが、こういうところまで踏み込んだレベル2運転支援機能の仕立てにも、その先にあるレベル3というのがいかに壮大な技術なのかが垣間見える。
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首都高速湾岸線を走行する「レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite」。「レベル3」の自動運転を実現するセンサーや制御は、ACCやLKASの性能向上にも寄与している。
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ハンズフリー走行が可能な状態では、ステアリングホイールやダッシュボードの照明が青に点灯。逆に人間の操作が求められる状態ではオレンジに点灯し、ドライバーにハンドル操作を促す。
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システムの作動状態によっては、前走車の追い越しや、分岐に際しての車線変更もシステムが実行。その挙動がスムーズなことにも驚かされた。
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インフォテインメントシステムの画面が収まるパネルの左脇には、ドライバーをモニタリングするカメラを搭載。わき見や居眠り運転をしていないか、常に監視している。
このお値段でも採算はとれない
すでに報じられているとおり、このレベル3の自動運転を可能としたレジェンドの価格は1100万円。普通のレジェンドが724万9000円だから、ハンズオフ走行機能とレベル3自動運転機能の代金は、単純計算で約375万円となる。絶対的にはとんでもなく高価だが、レベル3=自動運転を実現するために、約1000万通りのシミュレーションと日本全国のべ130万kmの実証走行をおこない、まだまだ高価なライダーを5個も使っていることを考えると、この価格(や後述する販売台数)ではまったくもうからないのは容易に想像できる。
1100万円のレジェンドはリース販売のみの100台限定で、3年のリース期間終了後はすべて回収されるという。ホンダセンシングエリートとトラフィックジャムパイロットがいかによくデキていても、こうした価格や販売条件では、さすがに軽々しく「あなたも1台どうぞ」とはいいづらい。それでも、発売から3週間ほど経過した3月下旬現在で、約半分のオーダーが入っているとか。そうした皆さんの献身があってこそ、明日の自動車技術の地平は切り開かれる。ここは四の五のいわずに、これをつくったホンダと、それを購入する奇特な皆さんに感謝である。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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渋滞の解消などで「トラフィックジャムパイロット」機能が終了する際には、メーターパネルやナビ画面の表示で“運転を代わる”ようドライバーに注意を促す。それでもドライバーが反応しなかった場合は異常事態と判断し、自動で減速。場合によっては路肩へ移動し、車両を停車する。
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ホンダは「レベル3」の自動運転を開発するにあたり、のべ130万kmの実証走行を含む膨大なシミュレーションを実施。システムの商品化にこぎ着けた。
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先進的な運転支援システムに確かな恩恵を感じられた「レジェンド ハイブリッドEX・Honda SENSING Elite」。ただし、その販売台数は100台限定で、かつ販売の仕方も「3年間のリース販売のみ」となっている。
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