【試乗記】ホンダ・ヴェゼルe:HEV Z(4WD/CVT)
未来図への第一歩
激変したマーケット
そして、モデルチェンジとほぼ同時に重大な発表があったことで、ホンダの将来を占う存在という意味合いを帯びることになった。2021年4月3日に行われた三部敏宏新社長の就任会見で掲げられたのが、2050年までにカーボンニュートラルを達成するというロードマップである。具体的には、先進国全体での電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)の販売比率を2030年に40%、2035年に80%とし、2040年にはグローバルで100%を目指すというのだ。野心的な取り組みであり、“ホンダが内燃機関から撤退する!”と衝撃を与えた。
このタイミングで販売が始まったヴェゼルには、ホンダが描く未来図の中での位置づけが与えられているはずである。ヴェゼルの主力パワートレインは、ハイブリッドだ。ガソリンエンジン車も用意されているが、5月24日までに受注した約3万2000台の93%がハイブリッドモデルだという。実はガソリンモデルにも短時間乗ることができたのだが、あえて選ぶ理由があるとは感じなかった。
ハイブリッドシステムは前モデルとはガラリと変わっている。現行「フィット」と同じ「e:HEV」が搭載されているのだ。前モデルの「i-DCD」がワンモーター式だったのに対し、発電用と走行用の2つのモーターを使う。ホンダの次世代を担うパワーユニットと位置づけられており、開発陣からは「VTECに代わる今の時代の新しい核心技術」との言葉もあった。大きな期待をかけられていることが伝わってくる。
モーターとエンジンの“いいとこ取り”
モーターとエンジンのいいとこ取りで高効率な走りを実現する、というのがホンダの主張だ。プレス資料では、比較対象として“シリーズ・パラレル方式”と“シリーズ方式”を挙げて説明している。名指ししてはいないが、それぞれトヨタと日産のハイブリッドのことであるのは明らかだ。低速ではモーターのスムーズさを、高速ではエンジンの伸びの良さというメリットを生かす最適のシステムだと考えているのだろう。
フィットに乗った時は、静かでなめらかなモーター走行が長く続いたのが印象的だった。同じシステムでもヴェゼル用にチューニングされており、バッテリーの容量も増やされている。システムの自由度が高く、車型や重量に応じて最適化を図ることができるのだそうだ。システムを起動し、モーターを使って発進する。路上に出てアクセルをゆっくりと踏んでいくと力強さを見せるが、40km/hを超えたあたりでエンジンが回り始めた。
試乗を始めるとすぐにワインディングロードに入り、上り坂では常にエンジンがかかった状態になる。走行コースが違うので厳密な比較ではないが、フィットよりもエンジンの存在を強く感じた。エネルギーモニターを見ると、エンジンドライブになっている時間が長い。上り勾配がきつくアクセルペダルを深く踏み込んでいたので、ハイブリッドドライブにはなりにくかったのかもしれない。
減速感はパドルでコントロール
ドライブモードは「ECON」「NORMAL」「SPORT」の3種類。センターコンソールのスイッチで切り替える。加速の度合いを変えることができるわけだが、減速感もコントロールできる。通常はDレンジで、強い減速を得たかったらBレンジを選択すればいい。Dレンジのままでも、ステアリングに備えられたパドルを使って減速度を4段階に調整できる。最大レベルにしても、一部のEVに見られるようなガツンとくる減速にはならない。燃費だけを考えればなるべく強く減速したほうがいいが、ドライバビリティーを考えてこの程度に抑えているそうだ。
走っていて、ボディーのしっかり感は伝わってきた。ガチガチに固められているという印象ではなく、悪路でもしなやかさは保たれている。ボディー剛性を上げたことで、バネを柔らかくすることができたという。スポーティーな走りができるうえに、乗り心地も改善されたようだ。
先進安全装備のホンダセンシングも進化した。センサーが新しくなっている。以前はミリ波レーダーとカメラだったが、新しいシステムではカメラ1つと前後それぞれ4つのソナーの組み合わせである。画像処理能力の高い処理チップの採用とソフトウエアの改良によって検知機能が向上し、歩行者や自転車、バイクを別々のものとして認識できるようになり、新たに後方誤発進抑制機能なども追加された。先進安全装備は商品力を大きく左右するようになっていて、当然ながら全グレードに標準装備されている。
顔つきの印象は一変
グリルがボディー同色になっていることで、顔つきの印象は一変した。威圧感は薄れ、クールなシンプルさがある。洗練度を高めていると感じるが、前のほうがよかったと思う人も多いかもしれない。ホンダもそう考えたのだろう。ホンダアクセスから純正用品としてメッキで囲まれた黒いグリルが提供されている。もっとギラギラしているほうが好みだというなら、そちらを選べばいい。
ホイールベースは前と同じだが、全長と全幅は拡大した。全高は低くなっており、横から見るとウィンドウデザインの効果もあってキャビンが薄くなったように見える。室内空間が狭くなったのではないかと心配してしまうが、後席に座ると圧倒的な広さだった。センタータンクレイアウトの恩恵をフルに生かした設計なのだ。2020年に特許が切れてしまったはずだが、これまでに蓄積したノウハウがあるからアドバンテージは保てるのだろう。
ユーティリティーにも細かい改善が施されている。リアハッチには予約クローズ付きのハンズフリー機能を採用した。エアコン吹き出し口の「そよ風アウトレット」は、地味ながら快適度をアップしてくれそうである。今回は乗れなかったが、最上級グレードの「e:HEV PLaY」にはLow-Eガラスを使ったパノラマルーフが装備される。人気があるようで、注文しても相当に待つことになるらしい。内燃機関撤退というニュースには驚かされたが、ゴールに向けての第一歩となったヴェゼルがユーザーから歓迎されているのは確かである。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4330×1790×1590mm
ホイールベース:2610mm
車重:1450kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:131PS(96kW)/4000-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3500rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:22.0km/リッター(WLTCモード)
価格:311万8500円/テスト車=371万8770円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムサンライトホワイトパール>(6万0500円)/HONDA Connectディスプレイ+ETC2.0車載器+ワイヤレス充電器(27万8300円)/マルチビューカメラシステム+プラミアムオーディオ(12万7600円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(4万2900円)/ドラレコパッケージ(9万0970円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1487km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
最新ニュース
-
-
アキュラの入門SUV『ADX』にスポーティ仕様の「A-Spec」、米国設定
2024.11.19
-
-
-
レクサス『ES』改良新型、新スピンドルグリル採用…広州モーターショー2024
2024.11.19
-
-
-
VW『ティグアン』7年ぶりの新型発売、初のマイルドハイブリッドも 487万1000円から
2024.11.19
-
-
-
「パワーワードすぎる!」史上最強のMモデル、BMW『M5』新型登場にSNSの反応は
2024.11.19
-
-
-
『これはいるのか?』ストリートカーでも使える? ロールバーの選び方と装着のコツ~カスタムHOW TO~
2024.11.19
-
-
-
「クルマファンを増やす」ため茨城のトヨタディーラーが結集! その核となる「茨城ワクドキクラブ」が目指す先
2024.11.19
-
-
-
レクサスの3列シート大型SUV『TX』に「Fスポーツハンドリング」追加
2024.11.19
-
最新ニュース
-
-
アキュラの入門SUV『ADX』にスポーティ仕様の「A-Spec」、米国設定
2024.11.19
-
-
-
レクサス『ES』改良新型、新スピンドルグリル採用…広州モーターショー2024
2024.11.19
-
-
-
VW『ティグアン』7年ぶりの新型発売、初のマイルドハイブリッドも 487万1000円から
2024.11.19
-
-
-
「パワーワードすぎる!」史上最強のMモデル、BMW『M5』新型登場にSNSの反応は
2024.11.19
-
-
-
『これはいるのか?』ストリートカーでも使える? ロールバーの選び方と装着のコツ~カスタムHOW TO~
2024.11.19
-
-
-
「クルマファンを増やす」ため茨城のトヨタディーラーが結集! その核となる「茨城ワクドキクラブ」が目指す先
2024.11.19
-
MORIZO on the Road