【試乗記】トヨタGR86 RZ(FR/6MT)
危ういバランス
あり余るパワー
乗っているのは、GR86の最上級グレードたる「RZ」(6MT)。フロントに積んだ2387cc水平対向4気筒エンジンは、最高出力235PS/7000rpm、最大トルク250N・m/3700rpmのスペックを持つ。従来は207PSと212N・mだったから、389ccの排気量アップによって、最高出力で28PS、最大トルクで38N・mの増大を得たことになる。
モデルチェンジを受けても車両寸法がほとんど変わらなかったこともあり(新型のほうが25mm長く、40mm低い<シャークフィンアンテナを含まず>)、試乗車RZの車重は1270kgに抑えられた。先代の「GTリミテッド」が1240kgだから、パワー・トゥ・ウェイト・レシオでは、6.0kg/PSから5.4kg/PSに向上している。
日常使いでありがたいのはトルクが太くなったことで、2700rpmも低い3700rpmで最大トルクを発生するようになった。街なかで、さしてエンジンを回さなくとも、出足のよさや力強い加速を実感できる。一方、ひとたびフラット4をフルスケール回すようなシチュエーションともなれば、余裕ある排気量を生かして、回転が上がるにつれて素直に伸びていくパワーを堪能できる。素晴らしいですね、新型GR86。
マニュアルが選べる!
最も差別化が図られたのは内装で、シンプルなファブリックシートのSZに対し、RZにはウルトラスエードと本革のコンビネーションシートがおごられる。うーん、ぜいたく。とはいえSZでも、ステアリングホイールやシフトレバー、パーキングブレーキといった頻繁に手が触れるパーツが本革巻きになっているのは良心的だ。
昨今のユーザーにとって、インテリアの違いより気になるのが運転支援システムや先進安全装備の充実度合いだろう。GR86は、最近では珍しい3ペダル式MTを選べるモデルだが、この点においては非常に不利だ。SZ、RZを問わず、6段MT車には、「アイサイトコアテクノロジー」が搭載されないのがイタい。前走車に追従する高機能型のクルーズコントロールやプリクラッシュブレーキ、後退時ブレーキアシストといった機能が装備されない。
言うまでもなく、AT車と比較して、マニュアル車はドライバーを介さずクルマが自らコントロールできる幅が狭いからである。動力、燃費性能の面でATモデルの後塵(こうじん)を拝するようになって久しく、自動運転においても圧倒的に不利な立場にある3ペダル式MT車。いまや設定があるだけで御の字かもしれない。
価格は、SZの6MTが303万6000円。RZが334万9000円。6AT車は、いずれも16.3万円高となる。
「速いは正義」ではあるものの
足まわりのチューンも入念に施され、姉妹車たる「スバルBRZ」とのキャラクター分けもしっかりなされた。発売前にGR86のプリプロダクションモデルに乗った豊田社長から、「これではイカン」とダメ出しされてサスペンションセッティングをやり直した。そのため発売が延期になって……というストーリーも、クルマ好きにはうれしかろう。
ケチのつけようがない新型車でドライブしながら考えるのは、「スポーツカーのインフレ問題」である。具体的には、スポーツカーがひとたび発売されると、以後、段階的に性能が上がっていくことだ。
「モアパワー!」を求めるのがスポーツカー乗りの本能で、スポーツカーにとって「速いは正義」だから、“問題”というには語弊があるけれど、GR86/スバルBRZのような、よくも悪くも大衆向けのベーシックなスポーツモデルにとって、どんどん性能が上がっていくのは、なかなか微妙な要素を含んでいるのではないでしょうか。
思い出すのは「MR2」
いまのGR86/BRZは、けっこうギリギリのところにあるんじゃないでしょうか。というか、冒頭に記した通り、一般ドライバーに向けた「スポーツカーの入門モデル」としては少々速すぎる。ドライビングテクニックにおいて無駄にビギナー歴が長いワタシがそう言うのだから、間違いない。
「スポーツカーのインフレ問題」に関して思い浮かべるモデルのひとつに、「トヨタMR2」がある。初代は、1.6リッターエンジンをドライバーの背後に積んだ国内初の市販ミドシップモデルにもかかわらず、決してスポーツカーと呼ばず、トヨタは街なかを軽やかに駆け抜けるランナバウトだと言い張った。暴走行為と結びつけられるのをいやがったんですね。
2代目は一転、派手なフェラーリルックをまとって本格スポーツカーを標榜(ひょうぼう)。上級グレードの「GT」は、1270kgのウェイトに最高出力245PSの2リッターターボを積んでいた。搭載位置も過給機の有無もGR86とは違うけれど、このあたりの数値が公道上では「いい案配」なのだろう。
当時のトヨタも「そろそろ潮時」と考えたか、次の「MR-S」は、1.8リッターNAをミドに積んだライトウェイトスポーツにキャラクターを変えてきた。気軽に楽しめるお手ごろハンドリングマシンとして個人的には大いに感心したが、あまり売れなかった。「やはりスポーツカーは性能を落としてはいけないのか」と残念に思ったものです。そういえば、トヨタもMR-SをMR2の後継とは呼ばなかったな。
長引くコロナ禍と半導体不足のなか、ようやく新型GR86、BRZを路上で見るようになったタイミングであまりに気が早いハナシだが、今後、両モデルはどうなるのだろう? 次世代のモデルは、プラットフォームを一新してググッと性能を押し上げるか。電動化は避けられないのか。はたまた存在意義が薄れたとしてお取りつぶしに遭うか。気になるところだ。
天が落ちることを心配していると、ますますNAのピュアエンジン車で3ペダル式6MTも選べる現行モデルが貴重に思えてきた。余談ながら、いま注文すると、納期は3カ月程度だそうです。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1270kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.9km/リッター(WLTCモード)
価格:334万9000円/テスト車=376万5020円
オプション装備:ボディーカラー<スパークレッド>(5万5000円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビ<9インチモデル>(24万0350円)/カメラ一体型ドライブレコーダー<ナビ連動タイプ>(4万3450円)/ETC2.0ユニット<ナビ連動タイプ・光ビーコン付き>/(3万3220円)/バックモニター(1万7600円)/GRフロアマット(2万6400円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2540km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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