【試乗記】マツダ・ロードスター990S(FR/6MT)

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    マツダ・ロードスター990S(FR/6MT)

富士山が目に入らない

マツダロードスター」に「キネマティックポスチャーコントロール(KPC)」なるコーナリング制御が追加された。これでワインディングロードを走ると、時を忘れるほどの楽しさだ。車両重量990kgの特別仕様車「990S」の印象をリポートする。

まだまだ頑張るNDロードスター

2021年末に改良されたマツダ・ロードスター。モデルチェンジは2015年だからもう7年目か。そろそろ次期型のうわさが流れてもよいころだが、マツダはまだまだこのモデルを引っ張るはずだ。スポーツカーとしては販売好調というのが理由その1。やったりやらなかったりほったらかしだったりのスポーツカーと違い、30年間ずっと売ってるロードスターは売れ行きも安定しているのだろう。コロナ騒ぎの初期には北米で例年より売れるという珍現象もみられた。人は先が見えず不安な日々を迎えたとき、真っ先にこういうクルマを頭に浮かべるのかもしれない。

理由その2は自動車全体が変革期を迎えていて、次にどういうモデルをどういうタイミングで出すべきかの見通しが立たないからだ。今の流れからいって、次期型が存在するならBEVか、少なくとも電動車ということになるのだろうが、仮にそうだとして、これまで同様に客を満足させる製品にするのは難しく、決断にも開発にも時間がかかるはずだ。

というわけで、ND型こと4代目ロードスターは、リトラクタブルハードトップの「RF」を含む全モデルに手が加えられた。KPCなる制御が導入されたというのがその内容。

あえてダイアゴナルロールを抑制

走行中に0.3G以上の横Gが発生した場合、Gの大きさに応じて内側の後輪に制動をかけることで、ダイアゴナルロールを抑制するのがKPCだ。ロードスターはもともと制動時にリアサスのリフトが抑えられる設計になっていて、その特性と今回の制御を組み合わせることでダイアゴナルロールを抑制する。

横Gを、Gセンサーやステアリングの舵角によってではなく左右後輪の回転差で検知するため、カウンターステアを当てていても適切に制御が入る。ダイアゴナルロールとは、ターンインで外側の前輪が沈み込み、車体が斜めにロールすること。左コーナーなら左前輪と右後輪を結んだ対角線を軸にロールする動きだ。

このダイアゴナルロールをはじめとする姿勢変化は、連続するコーナーでひらりひらりとした挙動を生み出し、ドライバーを楽しませるロードスターの、特にリアスタビライザーを装備しないベーシックな「S」グレードの持ち味ではあるのだが、一定以上のペースになると不安定な動きの要因となり、ドライバーに不安、あるいは物足りなさを感じさせる原因でもあった。

それを適度に抑制することで、より幅広いペースやコースでドライバーが不安なく気持ちよいと感じる車両姿勢をつくり出すという制御だ。デバイスを加えるわけではなくコンピューターのプログラムを変更するだけなので1gも重くなっていない。

運転がうまくなった気になれる

旋回時に内側の後輪のみにブレーキをかけるため、ヨーを発生させやすく、つまり曲げやすくする効果も追求しているのかと思いきや、その効果は一切狙っていないそうだ。その効果が出るほどのブレーキ圧ではないという。そもそもこのクルマの曲がりやすさに不満を覚えたとしたら、もう乗るクルマはない。

今回の改良を機に加わった990Sという特別仕様車でKPCの効果を確かめた。990SはベーシックグレードのSをベースに、上級グレード向けだった一輪あたり800g軽い16インチアルミホイールと、フロントにブレンボ製の大径ベンチレーテッドディスクブレーキおよび対向4ピストンキャリパーが装着された。リアのブレーキローター&キャリパーも大型化された。足まわりと電動パワーステアリングが専用セッティングとなる。6段MTで289万3000円。

日本有数の走らせて楽しい有料ワインディングロードの伊豆スカイラインに亀石峠からコースイン。連続するコーナーを3速と2速をいったりきたりさせて駆け抜けていくのだが、コーナーに差しかかり、アクセルオフかブレーキペダルを軽く踏んで減速しながらステアリングを切り込むところを想像してほしい。減速しているので前に荷重がかかり、旋回しているので外に荷重がかかる。車体はダイアゴナルロール、つまり斜め前に傾いているはずだが、これがKPC付きだと、ドライバーは前後が同じように、ただじわりとロールしているように感じる。ロール自体は結構するので足を締め上げたクルマとは印象が異なる。運転がうまくなった気にさせてくれる装置だ。

軽さは正義

ロードスターの気持ちよさとは、旋回時のロールの量とスピードが絶妙なところにある。ステアリング操作に応じ、自然に倒れ込むようにロールし、ある角度で安定し、面白いように鼻先が向きを変えてくれる。現実的なペースでそれを味わうことができるのがこのクルマの真骨頂だ。思い出すだけで楽しい。KPCはその気持ちよいペースを、少し引き上げたと思う。伊豆スカイラインはつまらないクルマを走らせると、信じられないくらい美しい富士山ばかりに目がいくが、この日の富士山がどうだったかまったく覚えていない。

ロードスターは最高のスポーツカーだが、同時に街なかをちょこまかと移動するシティーコミューターとしても、エコカーとしても優秀だ。小さくて軽いということは絶対的な正義であり、その効率のよさは人間2人をどこかへ運ぶ乗り物として優秀だ。だって箱根まで行って散々遊んで実測16km/リッターだもの。エネルギーについて深く考えさせられる今、このクルマがもつ身軽さは余計に魅力的だ。

冒頭に書いたとおり、さすがに内燃機関だけで動くロードスターはND型で最後だろう。このまま販売できなくなるまで販売され続けるはずだ。それが一日でも先であることを願う。2025年あたりからカウントダウンが始まるだろうか。しかし“その後”についても心配していない。素晴らしいロードスターEVをマツダは入念に研究・開発しているはずだ。ロードスターEVもきっと走らせて楽しいスポーツカーになる。このクルマに高い最高速や長い航続距離、荷物の積載能力は要らないのだから。絶対的な重量は増えるかもしれないが、その代わり重心をもっと低くできるだろう。素晴らしいフィーリングの手動変速だけは恋しくなるかもしれない。

(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

テスト車のデータ

マツダ・ロードスター990S

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:990kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:132PS(97kW)/7000rpm
最大トルク:152N・m(15.5kgf・m)/4500rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:16.8km/リッター(WLTCモード)
価格:289万3000円/テスト車=292万6000円
オプション装備:ボディーカラー<スノーフレイクホワイトパールマイカ>(3万3000円)

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3058km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:306.6km
使用燃料:19.2リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:16.0km/リッター(満タン法)/15.7km/リッター(車載燃費計計測値)

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