【試乗記】トヨタ・ヴォクシーS-G E-Four(4WD/CVT)

  • トヨタ・ヴォクシーS-G E-Four(4WD/CVT)

    トヨタ・ヴォクシーS-G E-Four(4WD/CVT)

令和のなまはげ

日本を代表するミニバン「トヨタヴォクシー」が8年ぶりにフルモデルチェンジ。今回の4代目モデルで初設定されたハイブリッドの4WD車「S-G E-Four」に試乗し、最新の運転支援装備や走行性能、進化した機能性やホスピタリティーの仕上がりを確かめた。

ヴォクシーはこの顔で勝負

日本のミニバンはなぜ、コワい顔をしているのか? この件については諸説あるけれど、家族や仲間を大事にするヤンキー文化の名残ではないかという声も多い。家族や仲間を守るためにイカつい外観で相手にナメられないようにしているという意見は、的を射ているようにも思える。

確かに、道路でオラった運転をするミニバンを見かけることもある。けれど、それはほんの一部で、海老名サービスエリアでメロンパンを手にミニバンに乗り込むファミリーを観察すると、チェックのネルシャツを着たおとうさんにも、ボーダーのロンTが似合うおかあさんにも、GAP Kidsのお子さんにも、ヤンキーの雰囲気はない。

夜の校舎の窓ガラスを壊してまわることもなければ、『積木くずし』とか『スクール☆ウォーズ』のモチーフになることもなさそうだ。もう、昭和は遠くなったのかもしれない。では、ヤンキー文化と無縁だとするならば、なぜ日本のミニバンはコワい顔をしているのか。

2022年の1月に、8年ぶりとなるフルモデルチェンジを受けたトヨタ・ヴォクシーも、やはりなかなかのコワモテで登場した。兄弟車の「ノア」が標準とエアロの2種類のデザインを用意するのに対して、ヴォクシーは一本勝負だ。

従来型の標準モデルに比べて全幅が35mm広がったヴォクシーの周囲をぐるっと回ってから、やはりミニバンは2列目シートの広さと使い勝手を確認するのが大事だと思い、助手席側のスライドドアを開いて驚いた。

すーっとステップが伸びて、乗車をアシストしてくれるのだ。顔がコワいだけに、親切さがひときわ身にしみる。ちなみにこの「ユニバーサルステップ」(助手席側)は3万3000円のオプションで、これを選ぶ方は、きっと心のやさしい方だろうと想像する。

トヨタらしいキメ細かな改良

試乗したのはハイブリッドの4輪駆動車「S-G E-Four」(7人乗り)というグレード。左右が独立したキャプテンシートになる2列目シートはそもそもスペースに余裕があるうえに、745mmもスライドできるから足を組むことなんか朝飯前。しかも従来型は、一度横にスライドしてから後方にスライドする“2段階スライド”だったのに対して、新型は一発の動作で完了するように進化している。キメ細かく改良を続けているのだ。

左右のキャプテンシートの間には、ドリンクホルダーが備わるセンターテーブルを引っ張り上げることもできる。キャプテンシートを後方にスライドして、リクライニングして、オットマンを引き出して体を委ねれば、こりゃもうショーファーカーとしても十分使えると感心する。

3列目シートにもキメ細かな改良が施されていた。3列目シートを格納する際に、左右にはね上げるスタイルになるのは従来型から変わらない。ただし、はね上げた後にストラップで固定する作業が不要になっており、片手のワンアクションでカチッとロックまで完了する。コツ要らずで、力も要らない。地味ながら、一歩ずつ前に進んでいる。

2列目、3列目に感心してから、運転席に座る。運転席からの眺めが明るく開けているように感じるのは、従来型に比べてAピラーがスリムになっているからだろう。試乗車には、標準の8インチに代わってオプションの10.5インチの液晶ディスプレイが備わっているから、カーナビやオーディオといったインフォテインメント機能が見やすい。また、小物を置くスペースも豊富で、“至れり尽くせり”という言葉が頭に浮かぶ。

滑らかで上質な走行フィール

ハイブリッドシステムを起動。発車する前に、荷室に積み込んだ機材の一部を取り出したいというカメラマンの花村さんを降ろすために、スライドドアを開ける。すると、ぴぴっと警告音が鳴って開きかけたドアが止まった。

斜め後方を走る車両を検知するBSM(ブラインド・スポット・モニター)のセンサーを活用する、安心降車システムが作動したのだ。これは、斜め後ろから自転車やクルマが来ていることを察知すると、スライドドアが開くのをストップして、人が降りないようにする仕組み。こういうシチュエーションって結構あるよなと、実効性がある安全装置に感心する。

いざスタート。走りだして、力強いのに洗練された発進加速に驚く。1.8リッターガソリンエンジンを軸としたハイブリッドシステムは、従来型に比べてモーターもリチウムイオン電池も大幅に出力が上がっている。結果、モーター走行、エンジン走行、モーターとエンジンの連携走行がシームレスに切り替わるトヨタが誇るハイブリッドシステムの特徴はそのままに、モーターと電池の存在感が大きくなった印象を受ける。モーターの関与が増えることは、省燃費に寄与するのとともに、静かで滑らかな、上質な走行感覚にもつながっている。

正直、ドライの舗装路では、コーナーで多少頑張ったくらいでは4駆であることの利点は感じない。それでも画面表示を見ると、臨機応変に後輪へトルクを配分していることがわかる。雪道やゲリラ豪雨といった場面で4駆が強みを発揮するのはもちろん、高速道路やワインディングロードでの安定した振る舞いにも、4駆システムは貢献しているのだ。

ADASの分野でも先頭に立った

2015年に現行の「トヨタ・アルファード」が登場した時に、もうミニバンのステアリングホイールを握る人はかわいそうな運転手さんじゃない、と感じた。アルファードでしか味わえない、ファン・トゥ・ドライブがきちんと存在したからだ。

8年ぶりにフルモデルチェンジしたヴォクシーにも、同じ思いを抱く。ステアリングフィールはしっかりしているし、ワインディングロードでも、スポーツカーやスポーツセダンとは異なるものの、しっとりとした身のこなしを見せるから気持ちよく走れるのだ。トヨタは、ミニバンの走りを、完全に自家薬籠中のものにしたようだ。

また、高速道路やワインディングロードを走ると、静粛性の高さがハイブリッドシステムだけに起因するわけではないことが理解できた。タイヤのロードノイズもボディーの風切り音も抑えられているということは、つまり、クルマ全体が静かになっていることの証左だろう。

従来型ヴォクシーが発表された2014年当時は、まだADAS(先進運転支援システム)という言葉が一般的ではなかった。従来型のデビュー以来、建て増しを重ねる老舗旅館のようにADASの機能を追加してきたけれど、今回のフルモデルチェンジのタイミングでADASの分野でも先頭に立った。

新型ヴォクシーが標準装備するプロアクティブドライビングアシスト(PDA)は、簡単に言うと危険を先読みしてハンドルとブレーキの操作をアシストするもの。例えば、自車の前に割り込まれてドライバーがアクセルをオフにすると、車間距離が近づき過ぎないように減速してくれる。

カーブを曲がる時も同様で、「いかん、進入速度が速すぎる」とドライバーが思ってアクセルをオフにするとPDAが作動し、ゆるやかに減速してくれる。しかもこの減速が自然で、システムが介入していることを感じさせないほど、よく練られている。

日本文化に深く根ざしたスタイル

ヴォクシーに乗りながら感じるのは、シートアレンジの使い勝手から安全装備、そしてハイブリッドシステムから4駆システムまで、隅々まで繊細につくり込まれているということだ。家族が安全、快適に過ごせるためのクルマづくりを徹底している。顔はコワいが、家族に吉事をもたらすクルマなのだ。

試乗を終えてヴォクシーを眺めながら、この存在感は何かに似ていると思った。それはなにか……? そうだ、なまはげだ。日本のミニバンの顔がコワい理由は、なまはげに通じるのではないかと思い至る。

「悪いゴはいねがー」「泣ぐゴはいねーがー」と各家庭を練り歩くなまはげは、豊作や豊漁をもたらす来訪神だ。異界から神がやって来る「まれびと信仰」は日本中に存在するようだけれど、共通するのはどれもコワい顔をしていること。男鹿半島のなまはげも、宮古島のパーントゥも、みんなコワいお面をかぶっている。

日本のミニバンがコワい顔をしているのは、なまはげと同様、コワい顔で厄災をはらって家族を守ってくれるからではないか。ミニバンは、日本の文化に深く根ざしたスタイルなのだ。

(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

テスト車のデータ

トヨタ・ヴォクシーS-G E-Four

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1730×1925mm
ホイールベース:2850mm
車重:1690kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/3600rpm
フロントモーター最高出力:95PS(70kW)
フロントモーター最大トルク:185N・m(18.9kgf・m)
リアモーター最高出力:41PS(30kW)
リアモーター最大トルク:84N・m(8.6kgf・m)
システム最高出力:140PS(103kW)
タイヤ:(前)205/60R16 92H/(後)205/60R16 92H(トーヨー・プロクセスJ68)
燃費:22.0km/リッター(WLTCモード)
価格:366万円/テスト車=467万1120円
オプション装備:ボディーカラー<グリッターブラックガラスフレーク>(3万3000円)/快適利便パッケージMid<ハンズフリーデュアルパワースライドドア[挟み込み防止機能付き]、ナノイーX、左右独立温度コントロールオートエアコン+リアオートエアコン[リアクーラー+リアヒーター]、快適温熱シート[運転席&助手席]、独立型コンソールボックス[フロント、リアボックス付き、充電用USBタイプC端子×2]>(17万8200円)/ディスプレイオーディオ コネクテッドナビ対応プラス<4スピーカー、コネクテッドナビ[車載ナビあり]、FM多重VICS、10.5インチHDディスプレイ、DVD、CD、AM/FMチューナー[ワイドFM対応]、テレビ[フルセグ]、USB入力[動画&音楽再生&給電]、HDMI入力、スマートフォン連携[Apple CarPlay&Android Auto&Miracast]、T-Connect[マイカーサーチ、ヘルプネット、eケア、マイセッティング]、Bluetooth接続[ハンズフリー&オーディオ]、ETC2.0ユニット[VICS機能&光ビーコンユニット付き]>(30万2500円)/Toyota Safety Sense<緊急時操舵支援[アクティブ操舵機能付き]、フロントクロストラフィックアラート[FCTA]、レーンチェンジアシスト[LCA]、ブラインドスポットモニター[BSM]+安心降車アシスト[ドアオープン制御付き SEA]、パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]、トヨタチームメイト アドバンストドライブ[渋滞時支援]>(13万4200円)/トヨタチームメイト アドバンストパーク<リモート機能付き>+パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>+パノラミックビューモニター<床下透過表示機能付き>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>(14万3000円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W×2、非常時給電システム付き>(4万4000円)/ユニバーサルステップ<助手席側>(3万3000円)/デジタルキー(1万6500円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー+PTCヒーターなど>(2万4000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<TZ-DR210>(4万4220円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>(6万3800円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1234km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:315.4km
使用燃料:16.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.7km/リッター(満タン法)/18.2km/リッター(車載燃費計計測値)

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