【試乗記】トヨタ・ヴォクシーS-G E-Four(4WD/CVT)
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トヨタ・ヴォクシーS-G E-Four(4WD/CVT)
令和のなまはげ
ヴォクシーはこの顔で勝負
確かに、道路でオラった運転をするミニバンを見かけることもある。けれど、それはほんの一部で、海老名サービスエリアでメロンパンを手にミニバンに乗り込むファミリーを観察すると、チェックのネルシャツを着たおとうさんにも、ボーダーのロンTが似合うおかあさんにも、GAP Kidsのお子さんにも、ヤンキーの雰囲気はない。
夜の校舎の窓ガラスを壊してまわることもなければ、『積木くずし』とか『スクール☆ウォーズ』のモチーフになることもなさそうだ。もう、昭和は遠くなったのかもしれない。では、ヤンキー文化と無縁だとするならば、なぜ日本のミニバンはコワい顔をしているのか。
2022年の1月に、8年ぶりとなるフルモデルチェンジを受けたトヨタ・ヴォクシーも、やはりなかなかのコワモテで登場した。兄弟車の「ノア」が標準とエアロの2種類のデザインを用意するのに対して、ヴォクシーは一本勝負だ。
従来型の標準モデルに比べて全幅が35mm広がったヴォクシーの周囲をぐるっと回ってから、やはりミニバンは2列目シートの広さと使い勝手を確認するのが大事だと思い、助手席側のスライドドアを開いて驚いた。
すーっとステップが伸びて、乗車をアシストしてくれるのだ。顔がコワいだけに、親切さがひときわ身にしみる。ちなみにこの「ユニバーサルステップ」(助手席側)は3万3000円のオプションで、これを選ぶ方は、きっと心のやさしい方だろうと想像する。
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8年ぶりにフルモデルチェンジされたトヨタのミニバン「ヴォクシー」。これまで5ナンバー車もラインナップしていたが、2022年1月に発売された4代目で全モデルが3ナンバー車となった。
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「先鋭かつ独創的なスタイル」を追求したという「ヴォクシー」のエクステリアデザイン。薄型のアッパー部と分厚くスクエアなロア部の組み合わせによって、コントラストの強い個性的なフロントマスクが構成されている。
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左右の端がはね上がったリアコンビランプが採用される姉妹車「ノア」に対して、「ヴォクシー」は水平基調のデザインで差異化を図っている。
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パワースライドドア装着車の助手席側に備わる「ユニバーサルステップ」。ドアの開閉に合わせ“からくり”を用いて、機械的にドア下部のステップを展開・格納する。ステップ高は、子供から高齢者までが使いやすいという200mmに設定されている。
トヨタらしいキメ細かな改良
左右のキャプテンシートの間には、ドリンクホルダーが備わるセンターテーブルを引っ張り上げることもできる。キャプテンシートを後方にスライドして、リクライニングして、オットマンを引き出して体を委ねれば、こりゃもうショーファーカーとしても十分使えると感心する。
3列目シートにもキメ細かな改良が施されていた。3列目シートを格納する際に、左右にはね上げるスタイルになるのは従来型から変わらない。ただし、はね上げた後にストラップで固定する作業が不要になっており、片手のワンアクションでカチッとロックまで完了する。コツ要らずで、力も要らない。地味ながら、一歩ずつ前に進んでいる。
2列目、3列目に感心してから、運転席に座る。運転席からの眺めが明るく開けているように感じるのは、従来型に比べてAピラーがスリムになっているからだろう。試乗車には、標準の8インチに代わってオプションの10.5インチの液晶ディスプレイが備わっているから、カーナビやオーディオといったインフォテインメント機能が見やすい。また、小物を置くスペースも豊富で、“至れり尽くせり”という言葉が頭に浮かぶ。
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トヨタ車として初めてパワーバックドアの開閉スイッチが、車両後部の両サイドに配置された。クルマの横に立ちスイッチ操作を行うことで、バックドアの開度を確認しながら任意の位置で止められる。
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ハイブリッドの4輪駆動車「S-G E-Four」には、セパレートタイプの2列目シートが備わる。前輪駆動車では7人乗りと2列目がベンチシートとなる8人乗りを選べるが、ハイブリッドの4輪駆動車は7人乗りのみの設定となる。
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3列目シートを使用した際の荷室の様子。床下に「スーパーラゲージボックス」と呼ばれる容量104リッター(スペアタイヤ非搭載時)のサブトランクが設置されている。この容量は、ガソリン車でもハイブリッド車でも変わらない。
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3列目シートは50:50の分割はね上げ式。軽い力でスムーズに折りたため、簡単にロックできる新開発の「ワンタッチホールドシート」が採用されている。
滑らかで上質な走行フィール
斜め後方を走る車両を検知するBSM(ブラインド・スポット・モニター)のセンサーを活用する、安心降車システムが作動したのだ。これは、斜め後ろから自転車やクルマが来ていることを察知すると、スライドドアが開くのをストップして、人が降りないようにする仕組み。こういうシチュエーションって結構あるよなと、実効性がある安全装置に感心する。
いざスタート。走りだして、力強いのに洗練された発進加速に驚く。1.8リッターガソリンエンジンを軸としたハイブリッドシステムは、従来型に比べてモーターもリチウムイオン電池も大幅に出力が上がっている。結果、モーター走行、エンジン走行、モーターとエンジンの連携走行がシームレスに切り替わるトヨタが誇るハイブリッドシステムの特徴はそのままに、モーターと電池の存在感が大きくなった印象を受ける。モーターの関与が増えることは、省燃費に寄与するのとともに、静かで滑らかな、上質な走行感覚にもつながっている。
正直、ドライの舗装路では、コーナーで多少頑張ったくらいでは4駆であることの利点は感じない。それでも画面表示を見ると、臨機応変に後輪へトルクを配分していることがわかる。雪道やゲリラ豪雨といった場面で4駆が強みを発揮するのはもちろん、高速道路やワインディングロードでの安定した振る舞いにも、4駆システムは貢献しているのだ。
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ボディーサイズは全長×全幅×全高=4695×1730×1925mm、ホイールベースは2850mm。全長やホイールベースは先代モデルと同じだが、全幅が広がったことにより全車が3ナンバーサイズとなった。
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システム最高出力140PSを発生する新開発の1.8リッター直4ハイブリッドシステムを搭載。駆動用バッテリーには、先代のニッケル水素電池に代えて、スペース効率に優れるリチウムイオンバッテリーが採用されている。
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「S-G」グレードにはミディアムグレーメタリック塗装の16インチアルミホイールが標準で装備される。タイヤは205/60R16サイズの「トーヨー・プロクセスJ68」が組み合わされていた。
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新型「ヴォクシー」のプラットフォームは、TNGAの思想に基づいて開発された「GA-Cプラットフォーム」。フロントサスペンションはマクファーソンストラット式、リアサスペンションはトーションビーム式となる。
ADASの分野でも先頭に立った
8年ぶりにフルモデルチェンジしたヴォクシーにも、同じ思いを抱く。ステアリングフィールはしっかりしているし、ワインディングロードでも、スポーツカーやスポーツセダンとは異なるものの、しっとりとした身のこなしを見せるから気持ちよく走れるのだ。トヨタは、ミニバンの走りを、完全に自家薬籠中のものにしたようだ。
また、高速道路やワインディングロードを走ると、静粛性の高さがハイブリッドシステムだけに起因するわけではないことが理解できた。タイヤのロードノイズもボディーの風切り音も抑えられているということは、つまり、クルマ全体が静かになっていることの証左だろう。
従来型ヴォクシーが発表された2014年当時は、まだADAS(先進運転支援システム)という言葉が一般的ではなかった。従来型のデビュー以来、建て増しを重ねる老舗旅館のようにADASの機能を追加してきたけれど、今回のフルモデルチェンジのタイミングでADASの分野でも先頭に立った。
新型ヴォクシーが標準装備するプロアクティブドライビングアシスト(PDA)は、簡単に言うと危険を先読みしてハンドルとブレーキの操作をアシストするもの。例えば、自車の前に割り込まれてドライバーがアクセルをオフにすると、車間距離が近づき過ぎないように減速してくれる。
カーブを曲がる時も同様で、「いかん、進入速度が速すぎる」とドライバーが思ってアクセルをオフにするとPDAが作動し、ゆるやかに減速してくれる。しかもこの減速が自然で、システムが介入していることを感じさせないほど、よく練られている。
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ブラックアウトしたスリムなフロントピラーや水平基調で低くワイドなダッシュボードが特徴的な「ヴォクシー」のインストゥルメントパネル。今回の試乗車に装着されていた10.5インチのディスプレイオーディオは30万2500円のオプションアイテムで、ナビやテレビ、T-Connect、スマホ連携機能などが組み込まれている。
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「ヴォクシーS-G E-Four」のフロントシート。今回の試乗車では、オプションの「快適利便パッケージMid」が選択されており、快適温熱シート(運転席&助手席)が備わっていた。
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「パノラミックビューモニター(床下透過表示機能付き)+パーキングサポートブレーキ(後方歩行者)」装着車は、シフトセレクターが「エレクトロシフトマチック」となる。駐車操作を支援してくれる「トヨタチームメイト アドバンストパーク」やドライブモードの選択スイッチがセンターコンソールパネルに設置されている。
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今回試乗した車両のボディーカラーは「グリッターブラックガラスフレーク」と呼ばれる3万3000円の有償色で、これを含め外装色は全6種類から選択できる。
日本文化に深く根ざしたスタイル
試乗を終えてヴォクシーを眺めながら、この存在感は何かに似ていると思った。それはなにか……? そうだ、なまはげだ。日本のミニバンの顔がコワい理由は、なまはげに通じるのではないかと思い至る。
「悪いゴはいねがー」「泣ぐゴはいねーがー」と各家庭を練り歩くなまはげは、豊作や豊漁をもたらす来訪神だ。異界から神がやって来る「まれびと信仰」は日本中に存在するようだけれど、共通するのはどれもコワい顔をしていること。男鹿半島のなまはげも、宮古島のパーントゥも、みんなコワいお面をかぶっている。
日本のミニバンがコワい顔をしているのは、なまはげと同様、コワい顔で厄災をはらって家族を守ってくれるからではないか。ミニバンは、日本の文化に深く根ざしたスタイルなのだ。
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3人掛けとなる3列目シートは、先代のものよりもかなり薄型になっていた。頭上には十分な余裕があり、2列目シートを適切な位置に設定すれば、足元のスペースも十分に確保できる。
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3列目シートを左右にはね上げて固定した荷室の様子。この状態でも、荷室の左右幅は1100mm確保されている。荷室左側には、3列目シート中央のヘッドレストを外した際に固定するホルダーが備わっている。
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非常時給電システム付き100V・1500Wの電源コンセントは4万4000円のオプションアイテム。センターコンソールボックスの後方(写真)と荷室にコンセントを配置する。
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新型「ヴォクシー」は、先行車や前方のカーブに対して減速操作をサポートしてくれるプロアクティブドライビングアシストを標準装備している。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1730×1925mm
ホイールベース:2850mm
車重:1690kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/3600rpm
フロントモーター最高出力:95PS(70kW)
フロントモーター最大トルク:185N・m(18.9kgf・m)
リアモーター最高出力:41PS(30kW)
リアモーター最大トルク:84N・m(8.6kgf・m)
システム最高出力:140PS(103kW)
タイヤ:(前)205/60R16 92H/(後)205/60R16 92H(トーヨー・プロクセスJ68)
燃費:22.0km/リッター(WLTCモード)
価格:366万円/テスト車=467万1120円
オプション装備:ボディーカラー<グリッターブラックガラスフレーク>(3万3000円)/快適利便パッケージMid<ハンズフリーデュアルパワースライドドア[挟み込み防止機能付き]、ナノイーX、左右独立温度コントロールオートエアコン+リアオートエアコン[リアクーラー+リアヒーター]、快適温熱シート[運転席&助手席]、独立型コンソールボックス[フロント、リアボックス付き、充電用USBタイプC端子×2]>(17万8200円)/ディスプレイオーディオ コネクテッドナビ対応プラス<4スピーカー、コネクテッドナビ[車載ナビあり]、FM多重VICS、10.5インチHDディスプレイ、DVD、CD、AM/FMチューナー[ワイドFM対応]、テレビ[フルセグ]、USB入力[動画&音楽再生&給電]、HDMI入力、スマートフォン連携[Apple CarPlay&Android Auto&Miracast]、T-Connect[マイカーサーチ、ヘルプネット、eケア、マイセッティング]、Bluetooth接続[ハンズフリー&オーディオ]、ETC2.0ユニット[VICS機能&光ビーコンユニット付き]>(30万2500円)/Toyota Safety Sense<緊急時操舵支援[アクティブ操舵機能付き]、フロントクロストラフィックアラート[FCTA]、レーンチェンジアシスト[LCA]、ブラインドスポットモニター[BSM]+安心降車アシスト[ドアオープン制御付き SEA]、パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]、トヨタチームメイト アドバンストドライブ[渋滞時支援]>(13万4200円)/トヨタチームメイト アドバンストパーク<リモート機能付き>+パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>+パノラミックビューモニター<床下透過表示機能付き>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>(14万3000円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W×2、非常時給電システム付き>(4万4000円)/ユニバーサルステップ<助手席側>(3万3000円)/デジタルキー(1万6500円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー+PTCヒーターなど>(2万4000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<TZ-DR210>(4万4220円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>(6万3800円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1234km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:315.4km
使用燃料:16.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.7km/リッター(満タン法)/18.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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