【試乗記】レクサスRZ450eプロトタイプ(4WD)

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    レクサスRZ450eプロトタイプ(4WD)

かつてない味

2022年末の発売に向けて開発の進む、レクサス初の電気自動車(BEV)専用モデル「RZ」。その先進性を象徴するステア・バイ・ワイヤ(SBW)システムとはどのようなものか? 搭載車両に試乗し、その仕上がりを確かめた。

開発期間は10年以上

レクサスにとっては初めての専用車台によるBEVとして市場投入されるRZ。2035年には販売車両の100%BEV化を目標に掲げたブランドの姿勢を示す先駆けとして、2022年内には日本でも上市される予定だ。

去る2022年4月、そのプロトタイプの試乗の機会に恵まれた際には、内燃機とは次元の異なるモータードライブの特性を至って自然にしつけて、上質の側に振り向けていたことに好感を抱いた。一方でこの丁寧さが、ほかでもないレクサスのBEVを選ぶという誘引要素としてきちんと伝わるだろうかという点には、疑問が拭えなかったのも事実だ。

それを補えるものとなるだろうと踏んでいたのがSBW搭載グレードの存在。しかし、漏れ伝わる情報ではその開発は難航しているという。今までシャフトとギアを介して物理的に回していた、その支持物がないというだけでもかなりの難産であることは素人アタマにも想像できる。

そして今回、ようやくそのSBWモデルに触れる機会を得た。現在も市販に向けてさまざまなテストを重ねている最中ながら、ひととおりまとまってきたということで、舵をとらせていただくことになった格好だ。

「SBWのテクノロジーはコーポレートとして、かれこれ10年以上前から先行開発していました。でも、それを世に送る出口がなかなか見当たらない。そこにBEVの話が出てきたことで、場が整ったという側面はあります」

RZの開発を取りまとめた渡辺 剛チーフエンジニアによれば、RZへの実装に向けたSBWの開発が始まったのは2018年の頭くらいだったという。

「開発はとにかく大変でしたね。ようやくめどが立ってきたというところです。先行開発でハード側は技術的な土台もありましたが、まずソフト側のパラメーターがあまりに膨大、かつ路面側からのフィードバックを信号化するなど、車両側の処理速度や能力に性能が依存するところもあるんです。この辺のバランスをみながら開発していくなかで、当初はSBWであるがゆえのクルマの動きの違和感を許容しようという空気がわれわれの側にはありました。それこそがSBWの個性だろうということで」

いかに路面の様子を伝えるか?

その空気を一変させることになったのが、レクサスのマスタードライバーである豊田章男社長のひと言だったという。

「2021年秋にわれわれの下山テストコースで、マスタードライバーにSBW搭載車に試乗してもらう機会があったんです。その日は時折小雨が降るウエット交じりのコンディションだったので微妙だなぁと思っていたのですが、1周目で建屋に戻ってきまして『走る気がしないね』と」

雨なのに路面からの情報が伝わってこない。路面がわからないからクルマが信用できない。指摘された最大の課題は“インフォメーションのとぼしさ”だったという。

「その指摘を受けて、いったんはSBWだからありだろうとしていた違和感も無視せず、ともあれコンベンショナルなスペックに限りなく近づけてみようということになりました」

SBWを実装するにあたって、EPS(電動パワーステアリング)からのセンシングを介して路面からのフィードバックを電気的に伝えるための振動周波数の解析が進められていた。加えて、そのなかから何を伝えて何を除くかという解像度を高めるための取捨選択が、実験部のエンジニアやレーシングドライバーらの泥臭い走り込みによって施されている。このデータクリーニングによって精緻に数値化されたフィードバックが、路面状況や運転状況などの入力に応じてモーターを介して周波数的に再現されるというわけだ。

また、ステアリングコラムとラックの間に物理的接続がないということで当然ながら冗長性には気を配られており、万が一に主電源が落ちても独立電源が操舵をバックアップするなど、操舵システムは完全2系統のリダンダンシー化(二重化)を果たしている。ちなみに「トヨタbZ4X」に搭載されるSBWも、レクサス側が開発したこの基本構成を基に、トヨタ側が調律を加えることになる。

将来性も見込める技術

RZのSBWモデルの舵取りはワンモーショングリップと呼ばれる長楕円(だえん)の輪を用いたもので、その作動量は左右に約150度と、ロック・トゥ・ロック的な話になれば300度、つまり1回転以下ということになる。この角度は120度〜180度以上までさまざまな検討がなされたなかから導かれており、持ち替えては回すというステアリング操作の既成概念と一線を画するために練られたものだ。

そういうアウトラインを理解していても、ぽんと乗せられて面食らうのは、その特異な操縦感覚だ。本来操舵3回転くらいで得る舵角が左右300度の中に集約されるわけだから、普通の感覚で舵をあてれば間違いなく切りすぎてしまう。僕自身もまずはテストコースの建屋のまわりを何周か回ってみたが、切りすぎによる内輪差の感覚をつかむのに慣れを要した。

思い起こせば2000年の頭、「ホンダS2000」やE60系「BMW 5シリーズ」に可変ギアレシオステアリングが採用された時にも同じような経験がある。最初は想定よりも切れすぎることに戸惑い、それに慣れてしまうと普通のクルマを走らせる際に手アンダーが頻発してしまう。そういう厄介な一面があった。もっとも、RZのSBWモデルは操舵トラベルや舵の形状そのものからして異なるため、従来型ステアリングのクルマとの挙動の混同は少ないのかもしれない。

と、この時点で「SBW、それなんの意味があるん?」とお思いの方がいるかもしれない。その答えは、トヨタがコーポレートとしてSBW技術に取り組む理由ともつながるところだろう。

例えば想定されるレベル4以降の時代、自動運転技術を搭載した車両においては、挙動制御や車内空間の多様性を追求するうえで操舵機能を信号化できれば、ステアリングの固定や格納といった機能が付与できることになる。現状を鑑みても左右通行の仕向け地に応じた設計の共有や、衝突安全要件の達成しやすさなどが挙げられるだろう。

さらには、障がいがある、上肢の可動域が小さいといった身体的事情を抱える人の自律的移動を支えるうえでも、それは画期的な要素技術になり得るかもしれない。特性をプログラムによって変えられるということは、例えば異なるキーフォブを持つことで異なる操舵感覚を1台のクルマで共有できるということでもある。そういう社会的な貢献の可能性も含めての新たな技術という見方もできる。

確かな安定感と安心感

そういう前提もありつつ、SBWにはレクサスにとって肝心な動的質感の向上においても福音をもたらしていることが試乗を通じて確認できた。雑みをきちんと取り除き、操縦実感に必要な情報をしっかり伝える、そんなフィルタリングが効いているのだろう、操舵フィールはとにかく清涼かつ鮮明だ。長い間、清濁併せのんでいた路面情報をデジタルリマスタリングして解像度を高めたような、そんな高精細感がSBWでは手のひらに伝わってくる。

試乗コースにはわだちや溝、波状のような凹凸や逆バンクによるグリップ抜けなどの意地悪なポイントが随所に設けられていたが、そういった外乱に対する強さも印象的だった。特に凹凸をまたいで通過する際や波状路でのブレーキングなどの安定感、そしてバネ下からのフィードバックのクリアさは、やはり中間軸を完全に廃したSBWの効能がみてとれる。

RZのSBWはステアリングギア比が100km/h付近を境に、通常モデル比でクイック側からスロー側へと移行するように制御されている。加えて前述のとおり外乱を隔てた舵感のチューニングも可能ということもあって、直進時の据わりは旧来のクルマとは一線を画する盤石(ばんじゃく)さで安心感をもたらしてくれる。ちなみにADASのレーンキープや緊急回避支援、あるいは駐車支援システム「アドバンスドパーク」の作動時などにステアリングを動かさないようにプログラムできるのもSBWの効能のひとつだが、現状はドライバーのオーバーライド時の方向感覚をサポートする意味で、あえてステアリングは動かしているという。

そういう特性を理解したうえでさまざまな運転パターンを試してみるにつけ、目慣れないステアリングの形状が相当考え抜かれたものであることも実感させられた。素早く回すにしても軽く保持するにしても指先にちょっと力を加えるにしても、保持や入力しやすい絶妙なポイントがこの形状のなかに込められている。

来るべき未来への先駆けというだけではなく、社会的な意義やレクサスらしい新たな質感といったところも注目に値するSBWは、2022年度中に予定されるRZの投入に合わせて、さらなる熟成を重ねているところだという。

(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)

テスト車のデータ

レクサスRZ450eプロトタイプ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1895×1635mm
ホイールベース:2850mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:204PS(150kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:109PS(80kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:--PS(--kW)
タイヤ:(前)235/50R20/(後)235/50R20(ダンロップSPスポーツマックス050)
一充電走行距離:450km前後(開発目標値)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--

テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

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