【試乗記】日産フェアレディZバージョンST(FR/9AT)
長く付き合える相棒
新しいのか? 古いのか?
その一方、センターコンソールの左脇に屹立(きつりつ)するのは、ギリギリっとやる昔ながらの機械式サイドブレーキである。試乗車は最上級モデルの「バージョンST」。しかしシートの電動スイッチが見当たらない。右ももの下にはダイヤル式の座面調整がある。エッ、まさか手動!? と、シート下に手を突っ込んだら、何かの電線に手が触れた。
シートスライドとリクラインの電動スイッチはシート座面の左側に発見された。調べたらこれは先代「Z34」型以来だった。リング状のドアレバーも同じだ。内装の基本レイアウトも変わっていない。
「マツダ・ロードスター」でも「ポルシェ911」でも、歴代モデルを特定するのに、通の人は「NA」とか「NB」とか、「992」とか「964」とか、それぞれの型式名で呼ぶ。新型Zのそれは「Z35」ではなく、「RZ34」。アタマの“R”は“リファイン”の略だという。つまりZ34“改”。プラットホーム(車台)をキャリーオーバーするビッグマイナーチェンジ案件としてそもそも開発されたのが今度のZである。
とはいえ、13年半ぶりのモデルチェンジだから、外形デザインとパワートレインは新調されている。果たして新しいのか古いのか、ちょっとワケありの新型Zに乗ってみた。
街なかでも感じられる快適さと軽快感
乗り心地がいい。想像していたより足まわりがかろやかだ。バージョンSTはフロントに255/40、リアに275/35の19インチホイールを履くが、バネ下の動きにドテッとしたところがない。ステアリングも重くない。1620㎏の車重は先代より大人ひとり分重くなったが、身のこなしはむしろシェイプした感じだ。シャシーのリファインだけでなく、新しい3リッターV6ツインターボの高トルクとレスポンスのよさが自然吸気3.7リッターV6の先代をしのぐ軽快感に効いていると思う。
エンジンは「スカイライン400R」初出のVR30DDTT。初めて400Rで味わった時には、BMWの6気筒をスポーツ性でも官能性でもしのぐ! と思った。Z搭載にあたっては、よりレスポンシブな方向にリファインが施されているというが、405PSの最高出力や475N・mの最大トルクは変わらない。とはいえ、車重は400Rより140㎏軽い。
騒音規制で新しいクルマほど静かになるが、実際、エンジン音は車内でも車外でも400Rより控えめに感じた。左右2本出しテールパイプからはいかにもイイ音がしそうだが、コールドスタートでもほえたりはしない。
パワフルなだけの退屈なクルマではない
高速道路の100km/h巡航だと、Dレンジでは8速までしか上がらない。MTモードに入れて9速トップに上げると100km/h時は1400rpm。パドルでシフトダウンしてゆけば1700、2000、2300、2800、3900と細かく回転を上げ、3速5400rpmまで落とせる。Dレンジのまま軽いスロットルペダルを床まで踏み込むと4速に落ちる。
MTモードは基本的にギア固定で、自動シフトアップもキックダウンも起きない。レブリミットの7000rpmに至っても、右パドルを引かなければシフトアップしない。そういうところは蛮カラな設計だ。
400PSオーバーだから、加速は言うまでもなく強力だ。パワー・トゥ・ウェイト・レシオを考えれば、文句なしにZ史上最速だろう。だが、普段使いで見せる表情は決して「踏め! 踏め!」タイプではない。むしろ落ち着いている。
ATモデルはこのSTにのみ機械式LSDが標準装備される。もちろんシャシーの限界は高いが、“高いの一語に尽きる”と言いたくなるような退屈なキャラクターではない。峠道でペースを上げると、ボディーを小さく感じるタイプのクルマである。後輪がすぐ後ろにあって、そのトラクションを実感できるのがうれしい。べつにまなじりをつり上げて飛ばさなくたってFRのダイナミズムが味わえる。
“速すぎない”“新しすぎない”という魅力
「400馬力!」と気負って乗ったら、この405PSは実によく調教されていて、むしろ大人のスポーツカーという感じがした。これならふだんのアシとしても、デートカーとしても無理なく使える。それでいながら、スポーツカーとしてのフィジカルは先代よりプレーンで“素な感じ”がした。
車高の低いスポーツカーが数売れる時代はとっくに終わった。しかも最近は増殖するSUVに押し込まれるばかりだ。投資リスクを下げるため、トヨタは新型「スープラ」をBMWとの共同開発でつくった。日産は単独開発にこだわったが、型式認定を取り直さない先代“改”というかたちで2008年末以来のモデルチェンジを敢行した。
ドライブモードはスタンダードとスポーツのふたつだけで、スポーツモードにしたからといって、液晶計器盤の色やデザインが変わったりもしない。足まわりにアダプティブなんとか的な電子制御は入っていない。予算が許せば開発者はもっといろいろやりたかったに違いないが、結果として盛りすぎず、新しすぎなかったところが新型Zの魅力だと思う。速いけど、ちょっと遅れたところがイイ。相棒として長く乗れそうなZである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1845×1315mm
ホイールベース:2550mm
車重:1620kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:405PS(298kW)/6400rpm
最大トルク:475N・m(48.4kgf・m)/1600-5600rpm
タイヤ:(前)255/40R19 96W/(後)275/35R19 96W(ブリヂストン・ポテンザS007)
燃費:10.2km/リッター(WLTCモード)
価格:648万2500円/テスト車=678万5035円
オプション装備:ボディーカラー<セイランブルー/スーパーブラック 2トーン>(17万6000円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア DH5-S>(8万4800円)/ウィンドウはっ水 12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面はっ水処理>(1万1935円)/フロアカーペット<ラグジュアリー、消臭機能付き>(4万9800円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3043km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:409.9km
使用燃料:46.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.8km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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