【試乗記】トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ(FF/CVT)

  • トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ(FF/CVT)

    トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ(FF/CVT)

さすがの腕前

GRやレクサスのスポーツカーやラグジュアリーカーも元気だが、やはりトヨタの本分は実用車だ。ことに新型「シエンタ」の仕上がりは秀逸で、7人乗車が可能な5ナンバーミニバンとして、まず間違いのない選択といえるだろう。

しかくまるに変身

シトロエンのあれやルノーのあの部分、それに“シカクマル”と称するスタイルのテーマも、フィアットの“スクワークル”とまったく同じじゃないか、と指摘する人が多いと聞く。確かに新型シエンタはそれらを上手に融合させた形に見えなくもない。しかしながら、ストレートに言わせてもらえば、他人と同じことは意地でもやりたくない、と我を張るのではなく、良いものは躊躇(ちゅうちょ)なく(時には臆面もなく)取り入れるのがトヨタの手法である。ほかのクルマのモチーフに似ている部分があちこちに見て取れるとしても驚くには当たらない。

この種のミニバンは限られたサイズのなかで便利第一、経済性優先をいかに実現するかが鍵だから、軽自動車と同様の実用車と考えれば、むしろそれをまとめ上げるさすがの手腕に感心するというものである。マットなアースカラーのボディーカラーやざっくりとしたファブリック地のシートなどもトレンドを取り入れたもので、実際、2022年8月の発売直後から大人気という。

3代目にあたる新型シエンタは車高が従来型よりわずかに増えたが、ボディー外寸はこれまでどおり5ナンバーサイズに収められている。唯一のライバルたる「ホンダ・フリード」とともに、今では貴重なコンパクトミニバンである。2750mmのホイールベースも従来型と同じだが、実はプラットフォームは最新世代のTNGA「GA-B」に一新され、1.5リッター3気筒エンジンも「アクア」などと同じユニットを搭載している。エンジン車とハイブリッド車が用意されるのも従来どおりだが、新型はすべてのグレードに7人乗りと5人乗り仕様が用意されている。ただし4WD(E-Four)はハイブリッド車のみの設定だ。最上級グレードの「ハイブリッドZ」はオプションを含めると軽く300万円を超えるいっぽう、ガソリン車のベーシックモデルは200万円を切る値段設定であり、このあたりも水も漏らさぬ布陣といえる。

中身は一新

1.5リッターエンジンはガソリンおよびハイブリッド用ともに従来型よりもパワーアップしており、ハイブリッド車用は最高出力91PS/5500rpmと最大トルク120N・m/3800-4800rpmを発生(先代は74PS&111N・m)、80PSと141N・mを生み出すモーターと合計したシステム最高出力も先代の100PSから116PSにアップしている。しかも燃費もさらに向上しておりハイブリッドZの7人乗り(FWD)のWLTCモード燃費は、28.2km/リッターへと大幅に引き上げられている。実際にどんな走り方をしても20km/リッターを割ることはなさそうだ。レギュラーガソリン仕様であることは言うまでもないが、駆動用バッテリーはバイポーラ型ではないニッケル水素電池だ。

いまさらではあるが、両側パワースライドドアを持つこの種のミニバンは開口部が大きく、しかも低床フラットフロアが当然と思われているから、ボディー構造としてはそもそも大きなハンディを負っている。にもかかわらず、新しいプラットフォームに加えて構造用接着剤などを多用したというボディーは予想以上にしっかりしており、足まわりも骨太な印象で好ましい。GA-Bプラットフォームの集大成というだけのことはある。

ただしその代わりに乗り心地は洗練されているとは言い難いものの、そのぶんちょっとやそっとでは音を上げない頑健さが頼もしく、無論パワーに限りがあるから痛快というほど飛ばせるわけではないが、山道でも安心して走ることができた。もっとも、高速道路では風切り音やロードノイズなどが耳につくのは否めない。日常の足としては不満はないが、すべてを満足させるのはやはり無理がある。

メリハリしっかり

Zグレードともなると装備は十分で、実に考え抜かれていると実感するが、いっぽうで省くところはしっかりと省く、というかコストを抑えるところは抜かりなく手配りする姿勢がうかがえる。例えば、今どきパーキングブレーキが足踏み式であるところ(しかもかなり奥にペダルがある)。最初に乗った時に当然電動式だと思ってスイッチを探したのだが見つからず、なかなかスタートすることができなかった。最上級グレードのハイブリッドZは最新の安全運転支援システムを標準装備し、全車速追従式のACCに停止保持機能まで備わっているにもかかわらず、パーキングブレーキだけ機械式の足踏みタイプというのはどうも腑(ふ)に落ちないが、こういう抜き方(コスト抑制)がまたトヨタらしい。

さらに前席シートバックには地図や雑誌を入れるポケットが備わらず、運手席側背後にスマホホルダーとUSBポートだけが装備されるのも今風だ。すべてスマホひとつで済ませてしまう昨今ではシートバックポケットなどは必要ないという見切りなのかもしれない。物入れが豊富そうで意外に使い勝手が良くないと思われるのも同様。もちろんアクセサリーカタログにはあらゆるものがそろっているからそちらから選べ、ということだろう。

意外に使える3列目シート

パイピング付きの落ち着いた風合いのシートは手触りもいいが、2列目はちょっと平板でちょこんと乗っかる感じなのが惜しいところ。畳んで格納することを考慮するとどうしてもこのような形状になってしまう。普通なら非常用になる3列目シートだが、シエンタは大人2人でもなんとか普通に座れる、それ以上のものだ。座面とフロアの間の高さ、いわゆるヒール段差が確保されており、狭いけれども自然な姿勢で座れるのが特長だ。

ただしその3列目シートは体重をかけたらフレームが折れるんじゃないか、と不安になるぐらい薄っぺらできゃしゃなつくりで、その点は横に跳ね上げるタイプのフリード(ただし体育座りの姿勢となる)のほうが安心できるかもしれない。2列目シートの下に巧妙に格納されるためには薄くなければならないのだろうが、いかに徹底的に考え抜かれているとはいえ、5ナンバーの7人乗りミニバンの限界も使う側が承知しておかなければならない。

という私は日常の足として、近場で使うセカンドカーとして新型シエンタが大いに気になる。これさえあれば、ほかはクラシックカーでいいんじゃないか、と妄想も膨らむ。生活の役に立つクルマをつくらせるとやはりうまいとうならざるを得ないのである。

(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

テスト車のデータ

トヨタ・シエンタ ハイブリッドZ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1695×1695mm
ホイールベース:2750mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
システム最高出力:116PS(85kW)
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:28.2km/リッター(WLTCモード)
価格:291万9000円/テスト車=339万3100円
オプション装備:185/65R15タイヤ+15×5 1/2Jアルミホイール<切削光輝+ブラック塗装/センターオーナメント付き>(5万5000円)/トヨタチームメイト アドバンストパーク+パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>+パノラミックビューモニター<床下透過表示機能付き>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>(9万3500円)/ディスプレイオーディオ<コネクティッドナビ>Plus(8万9100円)/天井サーキュレーター+ナノイーX(2万7500円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W/2個/非常時給電システム付き>(4万4000円)/ドライブレコーダー<前後方>+ETC2.0ユニット(3万1900円)/コンフォートパッケージ<UVカット・IRカット機能付きウインドシールドグリーンガラス[合わせ・高遮音性ガラス]+スーパーUV・IRカット機能付きフロントドアグリーンガラス+スーパーUV・IRカット機能付きプライバシーガラス[スライドドア+リアクオーター+バックドア]+シートヒーター+ステアリングヒーター+本革巻き3本スポークステアリングホイール[シルバー加飾付き]>(7万9200円)/ファンツールパッケージ<カラードドアサッシュ+カーキ内装>(0円) ※以下、販売店オプション フロアマット<デラックスタイプ>(4万2900円)/ラゲージボード(1万1000円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2597km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:336.2km
使用燃料:16.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:20.6km/リッター(満タン法)/20.4km/リッター(車載燃費計計測値)

[提供元:(株)webCG]Powered by webCG

試乗記トップ