【試乗記】日産アリアNISMO B9 e-4ORCE プロトタイプ(4WD)

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    日産アリアNISMO B9 e-4ORCE プロトタイプ(4WD)

プロフェッショナルの魂

2023年の「スカイライン」「フェアレディZ」に続いて「日産アリア」にも「NISMO」バージョンが登場。目指したのはストリートチューンドカーの最高峰だ。本格デビューを前に、日産のテストコースでプロトタイプの仕上がりを試した。

新次元のトラクション能力を追求

まずNISMOがうんぬん以前に、今回最も大事なニュースといえば、アリアの全バリエーションが2024年3月8日からディーラーで普通に注文できるようになったということだろう。

今まで納車1年以上待ちだの注文停止だのと、アリアを取り巻くものは検討するにもなえるようなアナウンスばかりだった。コロナ禍からの半導体不足は分からなくもないけど、いくらなんでも……の感があったが、ようやく過去の受注もすべてクリアにしたうえで、これからはまっさらのリスタートになる。ちなみに標準的なグレードについては3月下旬にデリバリーが始まるが、現状での納期は一般銘柄と大差ない3カ月程度が見込まれるという。

そして2024年6月からのデリバリーを予定しているのが、このアリアNISMOだ。電気自動車(BEV)のスポーティネスを運動性能の側できっちり引き出すことに主眼を置いて開発されたこのモデルの肝となるのは、前後モーターの緻密な制御による新たな次元でのトラクションの追求にある。

その味つけにおいては、NISMOが第2〜3世代と長年「GT-R」銘柄を手がけてきたことで得られたノウハウもしっかりフィードバックされている。しかしチューニングの方向性としては、ギリギリの速さを絞り出すというものではない。まずは安心して走れる、気持ちよく振る舞えることを優先事項としたという。

ミシュランの専用開発タイヤを装備

その理由は抱える物量の大きさにある。「プロパイロット2.0」を搭載する「B9 e-4ORCE」であれば2220kgに達する重量や、400PSを軽く超えるシステム出力、「GT-R NISMO」に比肩する600N・mのトルクなど、それらの数値は超日産級だ。これを御するためには何はともあれドライバーに安心感をもたらすことが大事。安心して踏んでいければおのずと速さはついてくると言い方を変えることもできなくはない。

この安心感につながるかたちで追求されたのは、タイヤのたわみやサスストロークをしっかり使いながらしなやかに動く、ストリートチューンドだからこその上質さだ。具体的には足まわりはコイルレートを前で3%、後ろで10%、フロントスタビライザーのレートを15%引き締めたほか、ダンパーストラットの肉厚を上げて筒体の剛性を高めつつ、前後の減衰力を最適化している。

バネ下については専用開発の「ミシュラン・パイロットスポーツEV」を採用。サイズは基準車と同一サイズながら、これまた専用開発のエンケイ製軽量鋳造ホイールを基準車比で0.5J幅広とすることでタイヤを気持ち引っ張り気味に履かせてケース剛性とトレッド面を使い切るなど、定石ながら繊細さを要する調律が加えられた。その走り込みは「スカイラインNISMO」と同じく、日産のトップガンとして実験ドライバーを長年務めてきた神山幸雄さんが中心となって行われ、ニュルやアウトバーンでの確認や煮詰めも含まれている。

フォーミュラEサウンドは挙動認識の一助にも

用いるモーターは前後とも基準車と変わらないが、使用する電流量の上限を高めることで、ベースとなるB9 e-4ORCEに対して41PSアップの最高出力435PSを発生。「B6 e-4ORCE」ベースのモデルでも27PSアップの367PSをマークする。同時に加減速や制動にまつわるマネジメントも見直しを受けており、ドライブモードを「NISMO」に設定すると、アクセルのオンオフ操作による加減速のレスポンスもよりメリハリのある設定へと変更される。合わせて、オプションのBOSEプレミアムサウンドシステムを選択すると、NISMOモード時にはフォーミュラEのサウンドに着想を得た加減速音が走行状態に連動してキャビン内に響くと、そういったギミックも搭載された。

発売前のプロトタイプということで、取材は日産のテストコース「グランドライブ」で行われた。内外装の撮影を終えて走り始めるころには雨粒が落ちてきて、路面は温度も低いうえに降り始めならではのヌルヌル感という相当微妙なコンディションに。そのため高速域でのコーナリングで高負荷をかけるのは避けて、スラロームなどのセクションでGT-R NISMOをも上回るという横力耐性を試すことになった。

それでもスリップは避けられなかったわけだが、気づいたことはいくつかある。駆動輪の細密な電子制御によってアンダーステア的な膨らみやオーバーステア的な張り出しが最小限の作動ショックできれいに抑制されていること。それでもオーバーステア時にはリア側のグリップのインフォメーションが上屋のしなやかな動きを通じてしっかり伝わってくる。そしてくだんのフォーミュラE由来という加減速時の演出音がアクセルのオンオフやタイヤのスリップに対して間髪入れずに反応し、挙動認識の一助となってくれるのもありがたい。

止まる能力もしっかり強化

コーナリングでは旋回時や脱出時に基準車よりも積極的に駆動で挙動を安定させていることが伝わってきた。進入からアペックスにかけては後輪側により蹴りを加えて車体の向きをアクティブに変えながら、脱出方向にアクセルを踏んでいくと前輪の力でぐいっと引っ張りながらラインをトレースしていく様子が、前後駆動配分のインジケーターにもしっかり表れる。ちょっと気になったのは操舵初期のゲインの立ち上がりがやや強めなことだが、それも空力特性込みでスタビリティーががっちりと確保されているとあってのことだろう。ちなみに筑波サーキットのラップタイムは1分8秒台をマークしているという。

0-100km/h加速が5秒フラットといえば速いは速いか……くらいに思われがちだが、BEVの場合、それが発進や低負荷時から一気に立ち上がるところに大きな違いがある。どこからでも得られる加速力には息詰まる重みがあるが、それでもタイヤをかき鳴らすような不作法は極力抑えられている。一方で制動の側も2tオーバーの車体を無理なく止めるために、パッドの摩擦材変更や、ブースターとABSの特性変更などによって基準車よりも制動距離を8%短縮している。フル制動後もブレーキのかっちりしたタッチが保たれるなど、隅々まで抜かりなくブラッシュアップが加えられているところに、安心に対するプロの突き詰めた仕事ぶりが垣間見えた。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

テスト車のデータ

日産アリアNISMO B9 e-4ORCE プロトタイプ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4650×1850×1660mm
ホイールベース:2775mm
車重:2220kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:218PS(160kW)
フロントモーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)
リアモーター最高出力:218PS(160kW)
リアモーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 105W XL/(後)255/45R20 105W XL(ミシュラン・パイロットスポーツEV)
一充電走行距離:--km
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:944万1300円/テスト車=1027万5100円
オプション装備:ボディーカラー<NISMOステルスグレー/ミッドナイトブラック>(8万2500円)/NISMO専用BOSEプレミアムサウンドシステム&10スピーカー<NISMO専用EVサウンド>(13万2000円)/プロパイロット2.0&プロパイロットリモートパーキング&ヘッドアップディスプレイ(44万8800円)/パノラミックガラスルーフ<電動チルト&スライド、電動格納式シェード、リモート機能>(11万円)/NISMO専用フードデカール(6万0500円)

テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

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