【試乗記】レクサスLM500h“バージョンL”(4WD/6AT)

  • レクサスLM500h“バージョンL”(4WD/6AT)

    レクサスLM500h“バージョンL”(4WD/6AT)

濃密な時間

レクサスの高級ミニバン「LM」に3列6人乗りの“バージョンL”が登場。先に発売された2列4人乗りの“エグゼクティブ”から椅子が2つ増えたのに500万円も安くなっているのだ。果たしてその仕上がりは?

販売台数アップの原動力

ご立派なブランドのご立派なしつらえであることは分かるけど、2000万円のミニバンってどうなん? ……と、思われていた方も少なからずいらっしゃったのではないだろうか。かくいう自分もその価格的ハードルの高さに懐疑心を抱いてはいた。

果たしてLM、やたらと見かける今日このごろだ。都心をウロウロしていれば間違いなく日に2、3台は遭遇する。東京の常識は地方の非常識であることは重々承知しつつも、もしかしてじゃんすか売れてるんじゃないかと錯覚を起こしてしまうほどだ。

実際には月販データのベスト50に顔を出すこともない……と思って確かめたところ、2024年の6、7月はともに600台近くを売り上げてギリギリながらも圏内に踏み込んでいた。7月の場合、トヨタの「アルファード/ヴェルファイア(アルヴェル)」の合算が1万1000台余りだから、ざっくりその5%くらいの数字ではある。

タイミング的にみて販売増の原動力となっているのは、5月に追加された1500万円のほう、つまり6座の“バージョンL”ではないだろうか。この域になると、価格的な差異というよりは機能的な差異で、6座を待っていたユーザーが結構な数だったということだと読める。少なくはないだろう法人需要においても、さすがに4座の椅子の総裁ぶりは気が引けるということになったのかもしれない。オーナー企業なら話は別だろうが。

2列目シートへのこだわり

機能軸でみれば、“バージョンL”の一番のライバルはもちろんアルヴェルの最上位グレード“エグゼクティブラウンジ”ということになるだろう。最後列を無理繰り3人掛けにはしていないがゆえの定員6人となるが、基本的なしつらえやファンクションもこちらをベースとしている。

とはいえ、中身はまるっと同じというわけではない。フレーム間に防振ゴムをかませてシート揺れを軽減するなどの基本は“エグゼクティブラウンジ”と共通するが、シート本体は頭部の揺れを抑えて腰部のサポート性を高める着座姿勢にこだわり、形状やクッションフォームを最適化しているという。最賓客向けの2列目シートは2種類の衝撃吸収材や柔らかいなめしのLアニリン本革を用いて包まれ感とホールド性とを両立するなど細かなチューニングを重ねている。アルヴェルと同じに見えるシートのステッチも、じっくり見れば異なるパターンだ。音・振動の処理とともに座り心地には相当にこだわったというのがつくり手の推しどころだという。

実際、2列目のシートに座ってみると確かに掛け心地はアルヴェルのそれとは違う。体に触れる部分は表層がしっとり包み込みながら、その奥のアンコは弾性が高く体をピシッと支えてくれる。その適度な硬さからは、寝崩れるような姿勢をよしとはしない意思が感じられる。2列目シートの前後スライド量は3列目シートをチルトアップすることで480mmも稼ぎ出せることもあって、最大フラット時の広さ感は特に足元側において、4座仕様の“エグゼクティブ”にも勝ると感じられた。

が、そんな状態で走るのは救急車じゃあるまいし……ということか、シートアクションに加えてシェードや空調などが統合的にプリセットされている「リラクゼーションプログラム」をオンにしてみても、寝相をさらすほどのあらわな設定はあえて避けたのだろうことが伝わってくる。

鍛え抜かれたボディー

立派なパーティションのおかげで見方によっては護送車のようでもある4座仕様に比べれば、その空間はがぜん民主的だ。6人が等しく会話を交わすこともできる、そんな静粛性も確保されている。が、装備的にはアルヴェルの“エグゼクティブラウンジ”との差別化がもう少し図られてもいいのではと思うところもあった。ビジネスベースでみればエンターテインメントシステムをテレカン対応にするとか、格納式とはいえテーブルはせめてラップトップPCが置けるくらいのサイズにしてほしいとか、そんな物足りなさを覚える。都内をズルズル短時間ではい回る日本の使い方ならさておき、クルマでの移動時間が長く、その間を有効活用したいという欧州ではそういったニーズもあるのではないだろうか。

パワートレインは4座仕様と同じ、2.4リッター4気筒ターボの「T24A-FTS」をベースとしたハイブリッドで、ドライブトレインは後軸側も大型モーターで駆動する「DIRECT4」となっている。走行中でもミシリともいわない4座仕様の立派なパーティションがないぶん、剛性やそのバランスは異なるはずだが、試乗を通してその影響はほとんど感じられなかった。

レクサスは直近の「NX」「UX」「LBX」などで骨格の立体的な補剛を採り入れ、乗り味にしっかりその成果を出しているが、LMでもベースの40系アルヴェルに対して、ラジエーターサポート周辺やリア床下およびサイドメンバー、クオーターピラーなどにブレースやガセットの補強を加えている。さらに高減衰シーラー構造用接着剤やレーザースクリューウェルディング溶接の採用、スポット打点の短ピッチ化など、生産側の工夫もあって、初代比で1.5倍のねじり剛性向上を実現しているという。

自分でドライブしても楽しめる

ミニバンといえば高重心かつ開口部だらけのハコということで、乗せてもてなすパッケージとしての矛盾が動的なところで圧倒的に露呈してしまうわけだが、TNGA世代のアルヴェルはアーキテクチャーが刷新されたこともあって、前型に対して快適性や操縦安定性が著しく改善された。LMはそこにさらなる磨きをかけており、特に入力減衰からくる不快感が徹底的に封じ込められている。

具体的には街なかで普通に出くわす路肩やマンホールといった段差をはじめ、高速道路の橋脚ジョイントや舗装のうねりなどの凹凸に至るまで、バネ下の突き上げをすっきりといなしながら車内を無駄に揺さぶらない。天板や床板の残響の小ささや軸物の動きの精度もキリッとした乗車感を生み出している。ドライバーであれば操舵応答を介して前セクションのかっちりとした建て付けをクルマの動きから察せられるだろう。そしてアルヴェルの“エグゼクティブラウンジ”に対して150kg増の重量と、それを押し出すターボハイブリッドのトルクの厚みとが、常速域でのいかにも高級車的にムッチリとしたライドフィールにひと役買ってもいる。ただし燃費ばかりはアルヴェルのハイブリッドのようにはいかない。上質な走りへの相応の対価はガソリン代に求められることになるだろう。

走ってナンボのLMの優位は、6座仕様であっても、それこそ走り始めの日常域でもしっかり享受できる。4座仕様に比べればファミリーカーとして用いるオーナードリブンユースの比率も高い、そうしてステアリングを握るオーナーが、日々扱うなかでアルヴェルとの差を折につけ感じる機会は多いだろう。それでも筆者のような民草には、アルヴェルとの価格差を補って余りあるほどの違いとまではいえないが、LMを求める向きは乗れた運べたという実よりも、過ごす時間の濃度や解像度という質を大事にしているわけで、そこから先はブランドエクスペリエンスがしっかり補完してくれればいいのだと思う。

(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)

テスト車のデータ

レクサスLM500h“バージョンL”

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5125×1890×1955mm
ホイールベース:3000mm
車重:2440kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:275PS(202kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:460N・m(46.9kgf・m)/2000-3000rpm
フロントモーター最高出力:87PS(64kW)
フロントモーター最大トルク:292N・m(29.8kgf・m)
リアモーター最高出力:103PS(76kW)
リアモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)
システム最高出力:371PS(273kW)
タイヤ:(前)225/55R19 103H XL/(後)225/55R19 103H XL(ミシュラン・プライマシーSUV+)
燃費:13.8km/リッター(WLTCモード)
価格:1500万円/テスト車=1510万4500円
オプション装備:ドライブレコーダー<前後方>(4万2900円)/デジタルキー(3万3000円)/寒冷地仕様<LEDリアフォグランプ、ウインドシールドデアイサー等>(2万8600円)

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1861km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:267.4km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.8km/リッター(車載燃費計計測値)

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