【試乗記】MINIクーパー3ドアS (FF/7AT)
独走のプレミアムスモール
BEV仕様とは異なるのは?
そうした今のタイミングで世代交代を行ったのが、ここに紹介する新型MINIである。冒頭に記した“BMWのMINI”となってからは、今度のモデルが第4世代ということになる。
日本では2024年の3月に3ドアが、同年6月に5ドアが発売されたこのハッチバックの新型は、これまでグレードとして用いられてきた「クーパー」の名称が取り込まれて車名自体がMINIクーパーとなった。同時に、3ドア版にはデビュー当初から電気自動車(BEV)仕様が設定されたことも歴代モデルにはなかった大きな特徴。つまり、新型MINIクーパーには純エンジン仕様とBEV仕様が並列でラインナップされたのである。
ただし、一見して大多数が「同じ」と感じるに違いない両者のエクステリアデザインは「実は別もの!」。そう聞いて驚く人は少なくないだろう。純エンジン仕様の骨格が従来型のリファイン版であるのに対してBEV仕様は、専用開発の新作なのだ。
こうして、両者は全く異なるプラットフォームを採用しながらも共に「すでに初代BMW MINI登場の時点で完成されていた」といわれるルックスを実現させるため、あえて「同じに見せる」工夫が施されている。
その差はもはや“間違い探し”レベル
例えば、純エンジン仕様のフロントフードは従来型同様にヘッドライト部分を丸く切り欠いた深絞り形状だが、BEV仕様のそれは見切り線がずっと上方で、ヘッドライト部分を避けて通るオーソドックスなデザイン。また、ウインドシールドとAピラーの傾斜も異なり、フード長の短いBEV版では、そのぶん傾斜角が強まっている。
さらに明確なのにうっかりすると見逃しそうになるのが、これまで伝統的に用いられていたホイールアーチ部分のブラックモール。これがBEV版では未採用となる。そんなBEV仕様の全長が純エンジン仕様よりも15mm短い一方でホイールベースが逆に30mm長い値というのは、やはりその部分の寸法が駆動用バッテリーの搭載可能量と密接に関係しているからでもあるはずだ。
結果として、純エンジン仕様に対してBEV版ではオーバーハングが短くなっていて、プロポーションが異なって見えても不思議はないのに、その差はもはや“間違い探し”レベル。「どちらも間違いなくMINIクーパーに見える」というデザイン手腕は見事と言ってもいい。
そんな似て非なる“二卵性双生児”のMINIクーパーのうち、今回テストドライブを行ったのは純エンジン仕様車。2リッター直4ガソリンターボエンジンを搭載したSグレードである。
要は純エンジン仕様のスポーツバージョンということになるが、そう考えると物議を醸しそうなのが姿を消したフロントフード上のインテークや、これまではセンター2本出しだったテールパイプ。そもそもダミーで機能を持たなかった前者はともかく、ポテンシャルの高さを主張した後者のデザインが拝めないのには一抹の寂しさを禁じ得ない。これも、いずれ来るフル電動化時代に向けての布石ということなのだろうか。
見た目と使いやすさの融合に挑戦
リサイクルポリエステルを用いた布地を連想させる新素材で覆われたダッシュボードの中央部に置かれたのは、MINIのアイコンともいえる円形の有機ELディスプレイ。その直径は実に240mmである。一方で、これまでステアリングホイールの背後にあったメーターパネルは廃止。必要な情報が前出のディスプレイもしくはヘッドアップディスプレイのコンバイナーに投影されるのは、いかにも最新のモデルらしい。
ただ、エクステリアと同様にインテリアでもシンプルさを追いつつも、操作のすべてをタッチ式に置き換えるまでには至っていない。オーディオのON/OFF/ボリューム操作や走行モードの切り替えなどは、残された物理スイッチによってダイレクトに操作できる。これは見栄えのみならず、実際の使いやすさという点でも評価したいポイントだ。
同様に、ステアリングホイール上にレイアウトされたスイッチもタッチ式ではなく操作感のあるプッシュ式なのは歓迎したい。しかし、ここにアダプティブクルーズコントロール(ACC)の車間設定機能が置かれなかった点には注文をつけたい。
現状、ACCの車間設定機能は例の丸型ディスプレイ内に収納され、その操作にはアイコンを3階層ほど掘り下げなければならない。ディスプレイが大きいために必要項目が表示されていればアイコンも大きく操作自体はたやすいのだが、走行環境の変化によって頻繁にその長短を変更したい場合には、前出の理由によって煩雑で不便を強いられる。
ちなみにこれまで左右フロントシート間にあったレバー式のATシフトセレクターはごくコンパクトなトグル式スイッチに変更され、イグニッションスイッチやオーディオボタンが並ぶスペースへと移動している。なお、そのシフトセレクターおよびその周囲にパーキングのポジションはない。走行終了時にレバー横の「P」ボタンを押せば、ワンアクションでパーキングポジションに入り電動パーキングブレーキが作動する。これは慣れればすこぶる使いやすい。
機敏だが過敏にまでは至らず
組み合わされるトランスミッションは7段DCTだが、変速時の挙動はこれがトルコン式ATと言われても疑いようのない滑らかさ。一部のDCT搭載車が苦手としがちな微低速時でも、神経質さは示さない。と同時に、わずかに1450rpmから最大トルクを発生するというデータどおり、アクセルペダルをさほど深く踏み込まない街乗りシーンでも、十分に力強い走りを披露。全幅は1745mmあるが全長は3875mmにすぎず、今の時代なら「コンパクト」と言っても差し支えないそんなボディーのサイズと相まって、狭く混雑する都市部においてもその適応力は高い。
一方、期待が大きかったぶんちょっと興ざめと思えたのは走行音で、空洞音やロードノイズなどタイヤ関係からのノイズが結構なボリュームで耳につき、せっかくの純エンジン車なのに“サウンド”と解釈できる音を楽しむに至れなかったのは残念。また、首都高上の連続する継ぎ目を通過する場面では視線がブレるほどチョッピーな上下動が感じられたのは、ショートホイールベースゆえの“MINIらしさ”と評するべきなのだろうか。
もっとも前述したノイズ面も含めこのあたりの印象には、標準より1インチ増しとなる18インチのシューズをオプション装着していたことも関係がありそうだ。その反面、良路上ではむしろ「MINIも大人になったなぁ」とそんなことを感じる穏やかさも味わえた。
ハンドリングも一時の過激さは影を潜め、「機敏だが過敏にまでは至らず」と紹介できるのが今度のMINIのフットワーク。凝ったグラフィックでさまざまな世界観を表現する巨大で高精細な円形ディスプレイの採用や、単なる走行モードにとどまらない複数の「エクスペリエンスモード」の設定など、プレミアムスモールの世界を独走する姿勢をさらに強めたように思える最新のMINIなのである。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3875×1745×1455mm
ホイールベース:2495mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:204PS(150kW)/5000rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1450-4500rpm
タイヤ:(前)215/40R18 89Y XL/(後)215/40R18 89Y XL(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:15.3km/リッター(WLTCモード)
価格:465万円/テスト車=522万4000円
オプション装備:ボディーカラー<オーシャンウェーブグリーン>(8万2000円)/インテリアカラー<べスキンベージュ>(0円)/フェイバードトリム(16万4000円)/Mパッケージ(24万6000円)/18インチナイトフラッシュスポーク2トーン(8万2000円)/ホワイトルーフ&ミラー(0円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:4555km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:350.0km
使用燃料:20.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:16.8km/リッター(満タン法)/16.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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