限界を自分で決めてはいけない [レクサスLS600h、LS600hL 定方理チーフエンジニア](2/3)

研究開発から、商品開発へ。

そのようにして、ずっと振動騒音に携わってきたのですが、入社して14年経ったとき、この分野では自分なりにやれることは一通りやった、他の仕事もやってみたい、と思うようになったんです。
そこで自ら社内異動を希望しました。後から聞いたら、上司も私の将来を案じていろいろと動いてくれたらしく、おかげで念願かなって、クルマ全体の開発を担当する商品開発部門に異動となりました。
でも、最初はショックを受けましたね。
商品開発部門内で上司のCE(チーフエンジニア)へ、自分の担当する技術や部品を説明するのですが、初回からいきなり、「きみはこのクルマにその技術を採用すべきだと思うか?」などと自分の意志を問われるのです。
それまで振動騒音の研究開発部門にいた私は、要素技術を開発して商品開発部門に提案する立場。一方、商品開発部門は、クルマづくり全体を考えながら、各部門が開発した技術や部品を検討し、採用するかどうか"決める"立場。スタンスを180度変える必要があったのです。

不可能を可能にした「RX400h」の開発。

いくつかのクルマに携わった後、私が初めてCE(チーフエンジニア)として開発に携わったのは、海外向けの「RX400h」、日本で言えばハリアーハイブリッドに当たるクルマでした。当時、ハイブリッド専用車種のプリウスこそ世に出ていたものの、既存の人気車種であるハリアーをハイブリッド化するのは、まったく新しい試みでした。私がCE(チーフエンジニア)に選ばれたのには、「定方は"新しいもの好き"だから、向いているだろう」といった話があったとか、なかったとか。
実際、私は、「面白そうだ」と飛びつきましたよ。だってハイブリッドの開発なんて、知らないことばかりですから。まず最初にしたのは、書店に行ってモーターの教科書を買うこと(笑)。本当に基礎の基礎から始めました。
私は、ハイブリッド車のような新しいクルマを開発するのに適した方法は、"その時点で存在する要素技術を使って最良のクルマを創る"のではなく、"あるべきクルマの姿を思い描き、そのために必要な技術を検討することから始める"方法だと考えています。
RX400hの場合、それをやっていくと、バッテリーがネックになることが分かりました。ご存じの通り、ハイブリッド車にはモーターを動かすための高出力のバッテリーが必要です。われわれの創りたいクルマを実現するには、もっと小型で高出力のバッテリーを開発する必要がありました。
当時、それだけの性能を持つバッテリーは次世代型と目されていて、実用化にはしばらく掛かると言われていました。それを何とか前倒しにして開発できないか、協力してくれたバッテリーの技術者と毎晩のようにミーティングをして注文を出しました。後から聞いたら、初めは無茶な話だ、できるわけがないと思ったらしいです(笑)。
他にも多くの分野で、さまざまな技術者が、あきらめずに不可能を可能にしていきました。「これをやる」と決めたとき、トヨタの開発チームがものすごい集中力を発揮することには、身内ながら感心しましたよ。