新しい時代が求める“高級”とは? [SAI 加藤亨チーフエンジニア](1/2)

排気量2,400cc。そしてクラスの中では群を抜く低燃費 23.0km/Lの実現。
ハイブリッドの「環境性能」の魅力だけでなく、先進的でオシャレ、シックな新しい高級感をもったクルマ(新上級ハイブリッドセダン)として登場したSAI(才/彩)。
ハイブリッド専用車として先行するプリウスが「ハイブリッドカーを世の中に認知・定着させること」が使命であるならば、SAIの役割は「大人が満足できる上質さをもったクルマとして、ハイブリッドカーの選択肢を広げること」といえる。しかし、それはハイブリッド専用車というSAIの一つの側面でしかない。そもそも、SAIは“ハイブリッド”ありきで開発されたクルマではない。ハイブリッドの採用は“小さな高級車”というコンセプトを追究した結果にすぎないのだという。その開発の経緯を聞き出すべく、チーフエンジニア加藤亨をトヨタテクニカルセンターに訪ねた。

加藤亨
加藤亨
1955年三重県生まれ。大学では機械工学を専攻。大学院修了後、1981年トヨタ自動車工業入社。ボディ設計部に配属。1985年製品企画セクションに異動。総括担当やNCC委員会の事務局を担当した後、車両担当として、センチュリー、プログレ、ソアラ(SC)、ランドクルーザープラドなどの開発に関わる。トヨタ第2乗用車センター チーフエンジニア。 趣味は音楽。中学時代にギターを始め、高校1年からロックバンドを結成してギタリストとして活動。現在も活動継続中。ハードロックから歌謡曲までを幅広くたしなむ一方でオリジナル曲も多数という。

オシャレな現代版“小さな高級車”

2005年3月、ちょうどチーフエンジニアとして、ハイラックスサーフ、ランドクルーザープラドなどのマイナーチェンジの企画がひと段落して一息ついていた頃、私は技術担当役員に呼び出されて、新しく発売するSAIのチーフエンジニアを命じられました。SAIという名前は聞いたことはありましたが、具体的にはどんなクルマか分かりません。あらためて尋ねると返ってきた答えは「小さな高級車だ!」ということでした。

“小さな高級車”といえば多くの人が真っ先に、1998年に発売されたプログレを思い浮かべることでしょう。実はこの“小さな高級車”というコンセプトは1980年代の後半にトヨタから新しいクルマを生み出す仕組みを作るべく発足したNCC(ニューコンセプトカー)委員会の中で生まれたものです。
この頃のトヨタは、日本車初のミッドシップであり、しかも量産を狙ったMR2(1984年発売)や、世界でも例を見ないアンダーフロア型ミッドシップレイアウトを採用し、その卵をイメージする未来的なスタイルで注目を集めた初代エスティマ(1990年発売)など、次々と新しいクルマを生み出していました。
NCC委員会はそうした流れの中、製品企画セクションとデザイン部、商品企画部の合同で立ち上げた新しいプロジェクトでした。今から約20年前、“小さな高級車”と同様にこのNCC委員会の中で生まれた新しいコンセプトには、後にRAV4となって世の中に出た“ミニ・ラギッド(小さくて・いかつい、ゴツゴツ、丈夫)”や、ハリアーに結実していく“ワゴンを宙に浮かべましょう”などがありました。

そしてちょうどその頃、ボディ設計部から現在の製品企画部署に異動してきた入社4年目の私は、部の総括の仕事をする傍ら、この新しくできたNCC委員会の事務局の仕事を担当することになりました。
NCC委員会は3年くらい活動した後、手一杯になってカタチ上は解散となり、“小さな高級車”というコンセプトにはベテランチーフエンジニアの野口さんをチーフエンジニアとして迎え、セルシオやセンチュリーの開発の傍ら、ずっと手塩にかけて育んでもらいました。私も晴れて(?)総括担当から車両担当に異動となり、野口さんの下で引き続き“小さな高級車”の開発を担当しました。
1991年の東京モーターショーにはプログレの前身とも言えるコンセプトカー「AXV-Ⅲ」を出品。 このクルマは「安全」「快適」「環境」をコンセプトの柱とし、“LKA” “エレクトロシフトマチック” など現在につながる新技術を世界に先駆けて搭載した意欲作でした。
その後、FFをFRにするなど、さまざまなトライと苦労の末、1998年5月に念願の“小さな高級車”プログレの発売にこぎ着けました。野口さんとともに情熱を傾けること足掛け約8年。この間、私はずっと野口さんの下で“小さな高級車”が実際に量産ラインにかかり、それが世に出るまでの一部始終を見るとこができました。

そんなこともあって、技術担当役員からSAIの企画を命じられたとき、「プログレのモデルチェンジじゃあないぞ!新しいクルマを作れ」と念を押されました。私たちに求められているのはいわば“現代版の小さな高級車”でした。私はそれ以降しばらくの間、前任者と一緒になって、「新しい時代にあった小さな高級車って何だろう?」と頭を悩ますことになりました。 また、別の技術担当役員からは「オシャレなクルマを作れよ」という指示をいただきました。部位毎に色・デザインがオシャレというのではなく、クルマの存在自体がオシャレで、また、オシャレに乗れるクルマを作る。この宿題にも私たちは大いに悩み苦しみました。

加藤亨
加藤亨
1955年三重県生まれ。大学では機械工学を専攻。大学院修了後、1981年トヨタ自動車工業入社。ボディ設計部に配属。1985年製品企画セクションに異動。総括担当やNCC委員会の事務局を担当した後、車両担当として、センチュリー、プログレ、ソアラ(SC)、ランドクルーザープラドなどの開発に関わる。トヨタ第2乗用車センター チーフエンジニア。 趣味は音楽。中学時代にギターを始め、高校1年からロックバンドを結成してギタリストとして活動。現在も活動継続中。ハードロックから歌謡曲までを幅広くたしなむ一方でオリジナル曲も多数という。

* LKA:レーンキープアシストの略 車線をカメラで認識し、車線内走行がしやすいようステアリング操作をサポートする機能
* エレクトロシフトマチック:軽い力でシフト操作を行える小型シフトレバー

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