量産車の責任 [プリウスPHV 田中義和 開発責任者](1/2)

プラグインハイブリッド燃費61.0km/L。圧倒的な燃費性能を示すこの数値を前にすると、「プラグインハイブリッド(以下、PHV)って、なんか中途半端じゃないの?」という声はどこかに吹き飛んでしまう。プラグインハイブリッド燃費とは国土交通省が定めたプラグイン燃料消費率とハイブリッド燃料消費率を複合して算出する代表燃料消費率である。プリウスPHVのEV走行時の燃費は∞km/L。一滴のガソリンも必要としない。そしてハイブリッド走行時の燃費だけみても31.6km/L(JC08モード)。新型プリウス(30.4km/L)をしのぐ高い燃費性能を有している(いずれもSグレードで比較)。だからこそ、プリウスPHVはHV(ハイブリッド車)とEV(電気自動車)の中間に位置する存在ではない。HVの居住空間や荷室の広さ、使い勝手のよさ、走りの楽しさなどの魅力はそのままに、そのHV走行燃費性能に一段と磨きをかけ、そしてガソリン代替エネルギーが利用できるというEVのメリットをプラスし、逆に「いつも電池の残量を気にしなければいけない」というEVのデメリットを取り除いた次世代のクルマ。いわば、HVとEVのいいところだけをとり出し、高次元で結実させ、しかも、それを手ごろな値段で提供可能にした。つまり、HVやEVの一つ上のレイヤーにあるクルマ、それがプリウスPHVといっても過言ではない。
また、PHVの開発は単なる車両の開発にとどまらない。プリウスPHVの開発段階からトヨタは青森県六ケ所村や豊田市でのスマートグリッドの実証実験に参加してきた。PHVの開発は同時に、新しいクルマと社会の関係をデザインすることでもあるのだ。プリウスPHVはその高い環境性能とともに、エネルギー効率の高いスマートなライフスタイルを提案する。しかし、そのためにクルマ本来の魅力を犠牲にはしない。むしろ、もっと楽しく、快適なものに。「充電しなくてはいけない」というMUSTさえFUN(楽しさ)に変える。プリウスPHVはまさしくトヨタが掲げる「FUN TO DRIVE, AGAIN」のスローガンに込められた「もう一度、新しいクルマの楽しさを創造したい」という思いを具現化したクルマなのである。
そんなプリウスPHVの開発を企画・コンセプト策定の段階から一貫して担当してきた田中義和開発主査をトヨタテクニカルセンターに訪ねた。

次世代の環境車の大きな柱に

田中義和
田中義和
1961年生まれ。大学院で機械工学を修め、1987年、トヨタ自動車に入社。オートマチックトランスミッションのハード開発、制御開発を担当。初代vitzの新型4AT開発、FR用多段A/Tの開発を担当。2006年3月、製品企画部門に異動。プラグインハイブリッド車の開発を担当する。2007年よりプリウスPHVの開発責任者としてプロジェクトのとりまとめを担当。

PHVというのはいままでなかった新しい技術のクルマですから、一般の人にはなかなか理解してもらいにくいものです。数年前までは「HVに充電できる機能をつけてどんなメリットがあるの?」「少しくらいEV走行ができてなにが嬉しいの?」というような声を、世の中だけでなく社内でもしばしば耳にしていました。それがここ数年の間に、にわかに評価が変わり、次世代の環境車の大きな柱として注目されるようになりました。とくに今年3月に発生した東日本大震災とそれに伴う節電意識の高まり、そしてそれをきっかけに電力の需要と供給のバランスについての知識が急速に世の中に広まったことも大きいと思います。
私は2006年に製品企画部門に異動して以来、ずっとPHVの開発に携わってきました。2007年7月には2代目プリウスをベースに充電用ニッケル電池を2つ搭載し、家庭用電源から充電できる試作車を作成し国土交通大臣の認定を取得して公道での実用実験を開始。そして2009年12月には日米欧で限定600台ながらプリウスPHVのリース販売を開始。電力会社や自治体などに納入し、実際に使ってもらってきました。
そうした経験から、PHVの本当の魅力が世の中の人たちに正しく理解され、浸透するには実際にPHVを使ってもらい、体験してもらうしかない。そのためには、ある程度の時間が必要と思っていたので、最近のこうしたPHVの評価の急速な変化に驚くとともに、正直なところ、ちょっと戸惑っています。もちろん開発の初期段階から「PHVは次世代の環境車の柱になる。いや、自分が柱にしてみせる」という確固たる信念と自信を持って取り組んできましたから、今日の評価は嬉しいかぎりです。

田中義和
田中義和
1961年生まれ。大学院で機械工学を修め、1987年、トヨタ自動車に入社。オートマチックトランスミッションのハード開発、制御開発を担当。初代vitzの新型4AT開発、FR用多段A/Tの開発を担当。2006年3月、製品企画部門に異動。プラグインハイブリッド車の開発を担当する。2007年よりプリウスPHVの開発責任者としてプロジェクトのとりまとめを担当。
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