『ついに"私のクラウン"』―憧れを、より多くの人の感動・幸せに― [クラウン 山本卓 チーフエンジニア](2/2)

クラウンのコアを探求し、革新に挑戦する

まずはクラウンのコアを、「クラウンにとって必要なものは何か?」を明確にする。

そのためにリアルクラウンクオリティ委員会を設立し、性能、装備、デザイン、品質の部会に分かれて「何がクラウンなのか?」を徹底的に研究し、「いるもの/いらないもの」「残すもの/変えるもの/新しく追加するもの」「コスト低減に貢献するもの/価値向上に寄与するもの」を整理し、新しいクラウンに必要なものを、みんなでロジカルに議論して精査しました。

それをしっかり行わないとクラウンはどんどん肥大化していき、お客様が使えないような装備がどんどん増えていきます。その結果、価格が高くなって、買いたくても買えないものになってしまう。「華美で壮麗なだけではいけない」というのはそういう意味です。いつもお客様のことを思い浮かべ、自己本位にならないように、お客様の目線や立場で開発していくことが大切です。

また、クラウンは日本で初めてスーパーチャージャーを搭載するなど、どの時代にもつねに「革新」へと挑戦してきたクルマです。

「つねにその時代のあるべき姿を提案し続ける」ことはクラウンの使命です。ですから、使いにくいもの、使われない装備を徹底的に洗い出し、外したあと、時代が求める新しい装備は積極的に追加していきました。

たとえば、前方車両に対するヘッドランプの光軸エリアを自動調節する「アダプティブハイビームシステム」や上空から見たような視点で周囲の状況をモニターに表示する「パノラミックビューモニター」、シフト操作時や後退時における急発進事故の被害を軽減する「ドライブスタートコントロール」、万一のアクセル踏み違いなどの際に、従来のメーターディスプレイ表示とブザーによる注意喚起だけでなく、エンジン出力を抑制し、自動的にブレーキをかけることで壁などの障害物への衝突緩和・被害低減を図る「インテリジェントクリアランスソナー」など、トヨタブランド初、世界初となる最新装備を追加しています。これらは比較的高齢者が多い現在のクラウンのお客様のことを配慮して、導入した装備です。

そしてデザインについても「新たなる革新」に挑戦しています。
全国の販売店を訪問したとき、一番多く出た要望がデザインに関するものでした。そうした意見を踏まえ、新型クラウンのスタイルに求められるものを「水平基調で低重心であること」「厳格・品格がありながらも新しいクラウンの方向性を示すこと」「ロイヤルとアスリートの差別化が明確であること」の3つに集約しました。
これらを具現化した新型クラウンは、水平基調・低重心で切れのあるサイドシルエットをはじめ、フロントマスク、リアビューに新しいクラウンの方向性を提示していると自負しています。

  • 新型クラウン ロイヤルシリーズ
  • 新型クラウンアスリートシリーズ

6気筒じゃなければクラウンじゃない?

今回のモデルチェンジで、「魅力あるデザインの実現」「先進技術を盛り込んだこだわりの商品力」と並んで、セールスポイントに挙げられるのが、
「低燃費・環境性能を追求した新開発の直列4気筒2.5Lエンジンのハイブリッドの投入」です。

先代モデルにもハイブリッドの設定はありましたが、採用しているエンジンはV6エンジンの3.5Lです。だから値段がものすごく高く、そして、燃費向上にあまり貢献していない。調べてみると高級車でハイブリッドが欲しいというお客様は45%以上いらっしゃいます。
その中には、本当はクラウンに乗りたいのに、価格が高い、燃費性能が低いという理由でプリウスや他のハイブリッドカーを購入されているお客様も多い。それはとても残念なことです。だから、価格を安くし、燃費性能を良くして、その要望のど真ん中、売れ筋のど真ん中の価格帯に、クラウンのハイブリッドを作りたかった。

そのために新しく開発し、採用したエンジンが直列4気筒2.5Lエンジンです。
しかし、これに対しては当初、販売店から猛反対がありました。「6気筒じゃなくて、4気筒のクラウンを作るのか!そんなのはクラウンじゃない」と。
私が「世の中を見てくださいよ。ベンツ、BMW、アウディ…、みんなダウンサイジングしているじゃないですか。ベンツのEクラスだって、BMWの5シリーズだって、みんな4気筒になっているでしょ」といっても「そうはいっても、V6じゃないとお客様がクラウンと認めてくれない」と言い張る。
前述の渡邉技監からも「馬鹿者!」とばかりにしかられました。そして「もし、直列4気筒でやるんだったら、V6以上のものを作らないと、俺が許さん!」とまで言われました。

V6エンジンの置き換えである以上、お客様はV6の加速性能、品質、質感、静粛性を求めます。だったら、直列4気筒エンジンのハイブリッドで、V6に負けない加速性能を持ち、静かで、滑らかな走りを実現するしかない。これは実際にモノを作って証明するしかありません。
そして、車が仕上がって、みなさんに乗っていただいたら、「これだったら売れるね」といっていただいています(笑)

またハイブリッドの開発にあたって、私がこだわったことは「トランクにゴルフバッグが4セット入ること」です。先代のクラウンハイブリッドでは電池のスペースが邪魔をして、4セット入りませんでした。
私がゴルフ場に1人で行った際に先代クラウンハイブリッドのオーナーの方と一緒にラウンドさせていただいたことが何回かあったのですが、「これクラブが入らないんだよ」という不満をお聞きすることがよくありました。
プライベートのゴルフであれば、ゴルフバッグを4セット入れることはまずありませんが、接待ゴルフなどでは取引先のお客様を乗せて4人でゴルフ場に行くのはよくあることです。

「V6じゃないとクラウンじゃない」とみなさんがおっしゃるのと同じように、ゴルフを愛する私としては「ゴルフバッグが4セット入らなければクラウンじゃない」のです(笑)
これについては、駆動用バッテリーやリアクーラーを前方に移動し、補助バッテリーの床下配置により、フラットなデッキ面を実現しました。さらにパンク修理キットを採用し、荷室床下に収納スペースを確保。コンパクトに折り畳める折り畳み式ラゲージボードを開発し、床下の荷物の出し入れも容易にしています。
この開発には1年を要していますが、そこまでこだわったのは「きっとハイブリッドが売れる」という確信があったからでもあります。

新旧のハイブリッドモデルの比較

  新型クラウンのハイブリッド 先代ハイブリッド
エンジン 直4 2.5L V6 3.5L
燃費(JC08モード) 23.2km/L 14.0km/L
システム最高出力 162kW(220PS) 254kW(345PS)
ゴルフバッグの積載個数 4 2
価格帯 410~543万円 540~620万円

ReBORN クラウン

ゼロクラウン(12代)の開発をしているとき、ある人の紹介で加藤チーフエンジニア(当時)と一緒に人間国宝の三代徳田八十吉さん(故人)にお会いする機会がありました。三代 八十吉さんは伝統的な九谷焼の色絵技法に飽き足らず、研究を重ねて新しい作品の創作に挑戦し、家に伝わる釉薬・古九谷5彩のうちの4彩を組み合わせて数百もの色を創り出し、独自のグラデーション表現による採釉(さいゆう)磁器の焼成に成功し、九谷焼を見事に再生させた人です。

その三代 八十吉さんから教えてもらったのが
「伝統とは形骸を継ぐものにあらず。その精神を継ぐものなり」というロダンの言葉です。
この言葉はゼロクラウンのとき、加藤チーフエンジニアもいろいろな場で引用されていましたが、まさにクラウンの開発姿勢そのものを表現している言葉であると思います。引き継いでいくものはカタチではなく、そのコアの精神。カタチは世の中の変化に合わせて、どんどん変えていく。つねにひとつ先の未来を見据え、クラウンが何かを自らに問い、いくつもの挑戦を続け、新たな道を示していく。この「伝統」と「変革」こそがクラウンの誇りです。

私は新型クラウンの開発においてもずっとこの言葉を大切にしてきました。
新型クラウンのCMのキャッチコピーは「ReBORN クラウン」です。「ReBORN(再生・生まれ変わる)」はこれまで「FUN TO DRIVE, AGAIN」をスローガンとするトヨタの企業広告キャンペーンで使われているキーワードであり、ヴィジュアルアイデンティティです。今回、そのキーワードをはじめてクルマに落として、使用します。
原点に回帰して、クラウンのコアとなる精神をとことん探求し、必要なものだけ残し、必要のないものは切って、削ぎ落す。そして、時代が求める新しいものを追加する。その結果、「ReBORN」を冠するに値するクラウンができたと自負しています。

そしてもう一つ、私がずっと言い続けてきたことは、
「いつかはクラウン」を、「ついに私のクラウン」にすることです。
「いつかはクラウン」というキャッチコピーには、高度経済成長時代に係長、課長、部長と昇進をしていくにつれて、クルマをパブリカ、カローラ、コロナとグレードアップして最後にクラウンにたどり着く。クラウンに乗ることは自分へのご褒美であり、終着点にあるクルマという意味があります。いわばクラウンは高嶺の花、憧れのクルマでした。
一方では、購入した本人の満足度は極めて高いけど、奥さんや子どもは「クラウンなんて、あんな古くさいオジンクルマを買うのはやめてよ!」と思っている。私はそんなクラウンのイメージを一新したかった。
若い人を含めて、幅広い層の方にファンになってもらえるように、デザインを変更し、環境対応、安全対応、商品力、価格といったあらゆる面で満足していただくクラウンを作りたい。購入した本人だけでなく、家族全員が「良かったね」と幸せを感じていただけるクルマ。そこに高度成長時代とは異なる、いまの時代にあった新しい「ご褒美のクルマ」としてのクラウンのあるべき姿を見出したのです。「私のクラウン」にはそんな想いが込められています。

長引く不況、日々、刻々と変化する社会情勢の下、日本のお客様の価値観は大きく変化し、「真に必要なもの」だけが生き残ることができる時代になっています。
ロダンの言葉に始まり、「新たなる革新」に挑戦し、「ついに私のクラウン」にたどり着いた「ReBORN クラウン」。 それはお客様、そして環境性能、安全、安心といった現代社会を取り巻く問題に対する真摯な態度をカタチにしたものです。
このクルマがより多くの人に感動を与え、満足していただき、クラウンを愛するファンが一層拡大することを期待しています。

( 文:宮崎秀敏 (株式会社ネクスト・ワン) )