トヨタ クラウンマジェスタ 開発責任者に聞く(1/4)
「式年」とは定まった年という意味である。伊勢神宮では20年ごとにさまざまな祭をおこないながら、新たに建て替えた正殿にご神体を遷す。2013年(平成25年)はちょうどその遷宮が執り行われる年にあたる。その意義(目的)については諸説があるが、20年という期間については10~20歳代の見習いや下働きの大工が30~40歳代で中堅や棟梁となり、50歳を超えて後見となる。人生の中で2度の遷宮を経験すれば技術の伝承をおこなうことができる。式年遷宮の大きな目的の一つに、こうした技術の伝承があるということは広く知られている。
これを自動車メーカーに当てはめて考えてみると、スポーツカーのように、確実に熱望しているコアなユーザーは存在しているものの、ニッチで商業的に旨味が少ないと思われるクルマを継続してつくり続ける意義もまた、この技術の伝承にあるのではないかと考える。一度、つくるのをやめてしまうとそこで技術の伝承が断たれてしまうからである。日本市場だけに投入されてきた高級サルーンであるマジェスタもまたそういったニッチなクルマである。
もっともクルマの場合、「式年」は神宮よりずっと短期間だし、神宮はそっくりそのまま同じものをつくることに意義があるのに対して、クルマの場合は時代の変化に合わせて進化させていかなければいけない点で大きく異なる。ご神体ともいえるクルマのDNAを引き継ぎつつも、環境性能に代表されるような時代のニーズに合わせ、最新の技術をふんだんに盛り込んで、新しいクルマをつくりあげる必要がある。ユーザーの期待をいい意味で裏切り、期待を超えるものを開発する。常にユーザーや市場を一歩リードするプレステージ性が求められる。
今回で6代目となる新型マジェスタの開発に、主幹、主査、チーフエンジニアという立場で携わった3人から、その開発裏話も含めて、お話をお聞きした。トヨタブランドの最高峰、そしてトップ・オブ・クラウンとして「最上級の満足とよろこびを提供する」をスローガンに開発された新型マジェスタには、世界最高水準の燃費性能、最新装備とともに、脈々と伝承されてきたトヨタのエンジニアたちの技能やおもてなしの精神などが余すことなく盛り込まれている。
- 山本卓(エグゼクティブチーフエンジニア)
- 左:秋山晃(開発主査)/右:岩月健一(開発主幹)
山本卓(エグゼクティブチーフエンジニア)
1982年トヨタ自動車工業に入社。ボデー設計を経て、1984年から製品企画部門に異動。初代LS400(セルシオ)、第2代LS400、第11代クラウンの開発に従事。第12代クラウン(ゼロクラウン)では開発主査として、初期の企画から開発を担当。その後、初代マークX、第3代アベンシスのチーフエンジニアを務めた後、09年からクラウンのチーフエンジニアとして、第13代クラウンのマイナーチェンジ、そして、第14代クラウン(“ロイヤル”シリーズ、“アスリート”シリーズ、そして“マジェスタ”シリーズ)のフルモデルチェンジを担当。13年よりエグゼクティブチーフエンジニア・常務理事。趣味はゴルフ、旅行。
秋山晃(開発主査)
1986年トヨタ自動車入社。実験部に配属。ノイズや振動関係を専門に第10代クラウン、アリスト、セルシオなどを担当。その後、先行車両企画部に異動し、カローラなどで使用されているMCプラットフォームを開発、そして再び、実験部に戻り、このMCプラットフォームベースのRAV4の開発などに参加。2007年に製品企画部門に異動。第13代クラウンの開発に途中から参加。そして第14代クラウン(“ロイヤル”シリーズ、“アスリート”シリーズ、そして“マジェスタ”シリーズ)では開発主査として最初から開発全般を担当してきた。
岩月健一(開発主幹)
1996年入社。シャシー設計部に配属。スターレット、ターセル、初代ヴィッツ、アイゴ(欧州販売のコンパクトカー)などのサスペンション開発を担当。特にアイゴは先行部隊として計画から担当し、ちょうど工場で量産試験をするタイミングでTME(トヨタモーターヨーロッパ)のR&Dのシャシー設計に異動、その立ち上げまでを担当した。現地でアベンシスの開発を担当した後、2010年に製品企画部門へ。第14代クラウン(“ロイヤル”シリーズ、“アスリート”シリーズ)の開発提案のフェーズから参加する。2011年から“マジェスタ”シリーズを担当し、現場の最前線で関連部署やサプライヤーと共に新型マジェスタをつくりあげてきた。
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