トヨタ クラウンマジェスタ 開発責任者に聞く(4/4)

技能、精神の伝承

左から:山本(エグゼクティブチーフエンジニア)、秋山(開発主査)、岩月(開発主幹)

聞き手:秋山さんはクラウンでただ一人の開発主査ですし、岩月さんにしても優秀で、お二人は将来、クラウンのチーフエンジニアにふさわしいだろうと、山本さんはおっしゃっています。最後に、今回のマジェスタの開発を通じて学んだことなどについてお話しください。

秋山:いまはとにかく、持てるものをすべて出し切ったという思いでいっぱいです。開発においては、クラウンだからこそ助けてもらえたということがたくさんありました。とにかく四六時中、クラウンのことを考える日々でしたが、そこで行き詰まるとどこからか手を差し伸べられてくるという感じでした。すごく感謝しています。いまの部署に来るまでは実験部の立場でクルマの開発には参加していましたが、その時はクルマの性能だけ見ていればよかった。

しかし、開発主査という立場になるとクルマ全体をみる。プレッシャーは大変大きいです。また、僕らは仕事を各部署に頼む立場。だから指揮棒を降るのをちょっと間違うと無駄な工数を使わせて大変迷惑をかけてしまう。すごく気を使いました。そして、出来上がったものにも責任を持たなければいけない。しかし、だからといって、あちこち、ゆらいではいけない。こっちだと決めたら、ずどーん と幹を通していかないといけない。僕がゆらいだら開発陣が不安になる。

さらには、性能でもデザインでも妥協してはいけない。志を高く持って目標を決めて、それに突き進んでいく。その役割を各部署に割り振る。その場合、なぜその仕事が必要かというその仕事の背景を理解してもらった上で、一緒にやって行く。そしてチームで仕事を仕上げていくことの大切さを再確認しました。

岩月:マジェスタの開発では、想いを共有することの大切さを学びました。「マジェスタに乗って頂くお客様のことを考えると、こうするべきである」と。静粛性、動力、ハンドリング、乗り心地などの性能にしろ、灰皿のノブにしろ、マジェスタのお客様を思い描いたとき、「これはやらねばならない」という共通の認識、想いを共有することが大切だと痛感しました。最初は皆で悩んだとしても、最終的には「なんとかしよう」と純粋にみんながそこに集中していく。その意識の変化が興味深かった。そして、つねに、目線を高く持つこと。最初の目線を高くしておかないといけないということも学びました。

山本:クルマの開発においてはチームワークが大切。お互いが親しくならないといけないし、時には怒ったり、ほめたり、議論したり…。普通に接しているだけではなにも進まない。いろんな人と話して、議論して、仲間になっていく。そうすればチームになれる。そうすればいいクルマが出来る。秋山くんは主査という立場でロイヤル、アスリートも含めてオールマイティにみてもらった。岩月くんにはロイヤルの仕事も少し絡んだけれど、ほとんどはマジェスタ専任。それを任せて、報告を受ける。ある意味一人でやってもらいました。

困っているのを見かけてもあえて知らない顔をしていた。本当に困ったときに助ければいい。そうすれば人は育つものです。

秋山:山本さんのことをじっと見ていると、チーフエンジニアはすごく孤独だと思いました。誰が反対しようが、自分の意志を貫いていかないといけない。そして、チームが開発する環境をつくり、それを守っていかなければいけない。たとえ誰が攻めて来ても守り抜く。ときには鬼になることもいとわない。自分たちの開発を守るためなら、そういう覚悟、厳しさが必要だと思います。今後、僕も覚悟を決めて臨みたいと思いました。怒る時は本気で怒らないといけない。じゃないと伝わらないということも学びました。

岩月:チーフエンジニアになるためには、クルマのことはもちろんですが、クルマ以外のことに対する見識を深めなければならないと思っています。研鑽が必要だと、山本さんの下で働いていて、そう思いました。たとえば「懇篤(こんとく/思いやりの意)」なんて言葉がぱっと出る。これは日々の仕込みが如何に大事であるか、ということだと思っています。

聞き手:では、山本さん、最後に一言お願いします。

山本:繰り返しになりますが、みんなの「マジェスタで最上級の満足とよろこびをお届けしたい」という想いと努力が結実し、新型マジェスタは威厳と落ち着きのある風格、クラウン伝統の格式とおもてなしと兼ね備えた日本を代表する環境性能車になりました。ぜひ、乗って、それを堪能してください。

聞き手:ありがとうございました。

左から:山本(エグゼクティブチーフエンジニア)、秋山(開発主査)、岩月(開発主幹)

文:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)

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