トヨタ クラウンマジェスタ 開発責任者に聞く(2/4)
トップ・オブ・クラウンとしての位置づけ
聞き手:「いつかはクラウン」から「ついに私のクラウン」をスローガンに昨年発売された第14代クラウンは「ReBORN クラウン」のキャッチコピーのとおり、それまでちょっと元気を失いかけていたクラウンを見事に再生させ、現在も大ヒットが続いています。一方、6代目となる新型マジェスタでは、フロントグリルに第4代、第5代にはなかったクラウンの象徴である王冠のエンブレムが与えられ、クラウンファミリーになりました。そこに至る経緯について教えてください。
山本:それにお答えする前に、そもそもマジェスタというクルマは「どんなクルマなのか?」という原点についてお話したいと思います。1987年に第8代クラウンが誕生したとき、従来の5ナンバーボディに加えて、新しく3ナンバーボディがラインナップされました。そして、2年後のマイナーチェンジの折りに、当時新しく開発していたV8エンジンを初代セルシオ/LSに先駆けて搭載し、クラウンV8ロイヤルサルーンというクルマをつくった。これがマジェスタの前身です。
そして、さらに2年後の1991年、第9代クラウンがデビューするタイミングで、当時チーフエンジニアだった渡邉浩之技監がフルモノコックボディをクラウン史上初めて採用し、クラウンの最上級モデルとして「クラウンマジェスタ」の名前で世に送り出しました。そして10代目からはロイヤルにもフルモノコックボディが採用されます。
つまり、マジェスタは誕生した時から「クラウンを極めるトップ・オブ・クラウンとして、日本のお客様を第一に考えたクラウンブランドの最高峰」であり、同時に、V8エンジンやフルモノコックボディなどの最新技術を採用し、常に新しい時代をリードし、開拓していくクルマでした。そして、2代目、3代目とモデルチェンジを重ね、ロイヤルとともに進化していきました。しかし、4代目で大きな転機を迎えます。
聞き手:4代目は2004年のデビューですね。
山本:2005年に国内においてレクサス店が導入されます。それによってトヨタブランドの最高峰であったセルシオがなくなり、その役割をマジェスタが引き継ぐことになりました。トップ・オブ・クラウンからトップ・オブ・トヨタブランドへと立ち位置が変わりました。4代目以降、フロントグリルから王冠のエンブレムが消えたのもそれが理由です。同時に、ボディも大きくなり、装備も豪華となり、価格も高くなりました。それまでマジェスタに乗っていたお客様からすれば高いクルマになった。一方で、世界の高級車市場で強力なライバルとしのぎを削っているLSと比べると中途半端な位置づけのクルマになっていました。
聞き手:思うように販売台数が伸びなかったわけですね。
山本:社内では「もうマジェスタはいらないのではないか」という意見も出ていました。しかし、少数かもしれないけど、次のマジェスタを心待ちにしているお客様は確実にいる。そのお客様の選択肢を自分の手で奪ってしまうわけにはいかない。そこで、約半年の歳月をかけて役員に掛け合い、粘りに粘って社内を説得し、やっと開発のGOサインを得ることができました。
マジェスタという車名の重圧
聞き手:再びトップ・オブ・クラウンとして存続が決まったわけですね。そうした経緯を踏まえ、具体的にはどんな風に開発をしていったのでしょうか?
秋山:マジェスタの原点に立ち返り、新しい時代のプレステージを切り拓くクルマをつくる。そして、お乗りいただくお客様のことをいつも念頭に置いて、威厳と落ち着きのある風格を兼ね備え、日本のお客様を第一に考えたクラウンというブランドの最高峰のクルマをつくることに注力しました。レクサスとは異なる好みのお客様が、日本の道路を走るのだから、レクサスとは違った乗り味や静粛性などがマジェスタには求められます。
例えば日本の道路事情を考えるとスタート&ストップが多いし、低速で走る機会が多くなる。だから停止時やスタート直後の静粛性をしっかりみていく必要があるのです。ハンドリングもレクサスのお客様とマジェスタのお客様では好みが違います。欧州メイクのようにトルクがきっちり立ち上がる比較的固いハンドリングじゃなくて、低速での取り回しや操作のし易さを充分に考慮したスムーズでコントロールしやすい。安心して乗れて、運転して疲れないことがより一層重視されます。さらに、後部座席に乗り込んだ時のおもてなし、リヤの静粛性、穏やかに過ごせる空間づくりなど、ロイヤルとは違ったつくり込みも必要になってきます。
岩月:開発の要所要所で、山本さんからは「これじゃあ駄目だ。マジェスタのお客様に、こんなものを許して頂けるはずがない」とずっといわれ続けていました。動力性能、ハンドリング、静粛性、デザインなど、ありとあらゆる部分で、駄目出しが続きました。私は現場で最初の段階から関わっていますから、苦労の末、当初の低いレベルからここまで持ってきたという"向上シロ"を知っているわけですが、「お客様にとってはそんなものは関係ない」とばっさり。たしかに、お客様の立場に立てば、そのとおりです。
出来上がったものがすべてであって、その過程でいくら苦労したからといって、納得していただけるわけはありません。言い訳はできない。私はこのクルマの開発を通じて、マジェスタという名前の重みを嫌という程、思い知らされました。
聞き手:それだけマジェスタというクルマが特別なのですね。
岩月:動力性能や静粛性などはもちろんですが、外装や内装のつくり込み、塗装のツヤ、メッキ部分の色の変わり具合など細部の仕上げに至るまで、ありとあらゆる開発の現場でその名前の重みを感じました。反面、だからこそ「マジェスタだから、やるしかない」といって、開発チームにはすごく協力してもらえました。みんなの目線や意識を一つにして、「よしやろう!」となるクルマでもありました。
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