レクサス NX 開発責任者に聞く(3/4) ― コンセプトを体現するデザイン ―

NXを企画から担当

レクサスが掲げるデザインフィロソフィー、L-finesse(エルフィネス)。LはLeading-Edge、先鋭。finesseは日本の文化が生んだ感性や巧みさを意味する、精妙。
レクサスNX誕生に行きつくまでの開発秘話を、真剣に、時には笑顔で語る加藤チーフエンジニア。

2005年に現在の部署に来て、最初に開発に携わったのは日本では初代になるISです。ちょうど日本でのレクサスの立ち上げのときです。当時は社内外の多くの人たちがレクサスに期待し、応援してくれていたのですが、なかにはいじわるな人もいて「ISは型式がアルテッツァと同じじゃないか。そんなものは所詮、アルテッツァだ」「レクサスというのは、どうせトヨタの車をピカピカにして高く売りつけているだけだろう」なんて声が聞こえてきました。アルテッツァも海外ではレクサスISでしたし、2代目ISもとても拘った車だったので、なんともいえず悔しい思いをしたのをいまでも覚えています。
その後、RXの担当になって、チーフエンジニアの下で企画の最初から最後まで携わることができました。すごく面白かったし、勉強にもなり、やり甲斐もありました。あ、そうそう型式はハリアーとは分けましたね。でも当時レクサスに対して「車という工業製品としては申し分ないのだけど、なんかつまんないんだよね」とよくいわれていました。フランスやイタリアなど欧州のディストリビューターを集めての商品研修会に参加したときも、みなさん「この車は売れる」と思っているから、盛大な拍手で迎えてくれる。と同時に「コスメがない、デコレーションがない」「なんか素直すぎて、キレイすぎて面白くない」という声もある。
「レクサスが大事にしているのはそういうコテコテじゃなくて…」と反論しながら、一方ではその気持ちも僕にはよく理解できました。


RXのあと、担当したのが現在のNXの企画です。但しその時点ではまったく将来計画に記載されていない車。つまり、当然まだ作ると決まってないし、プラットフォームやエンジンだってどうするのか? そうした基本的な事柄から検討し企画を煮詰め、全社的にこの車を開発するというオーソライズを取らなければいけないという、海のものとも山のものとも分からないものでした。企画がスタートしたのが2009年前半。当時はリーマンショック後で経営環境も厳しく、コンセプトがよほどしっかり固まらないと新規モデルの企画なんて承認してもらえません。チーム? 技術は私一人。一日のスケジュールは真っ白、って感じでした。
しかし、「自分で新しい車を1つ企画しろ」なんてチャンスはそうそうあるものではありません。これはなんとかモノにしたいと思いました。特に車好きにとってはやりがいのある仕事です。しかし、いろんな人に相談しても、本当にその企画はあるの?となる。みんな忙しいですから(笑)そんな中でも親身になってくれる人もいて、それはそれは涙がでるくらい嬉しかったです。それにこの市場はポテンシャルがあるし、きっとそういう商品がレクサスから出るのを待ってくれるお客様がいる。それならいくらでも苦労して辛い想いをしても頑張ろうと。商品企画部門の事務方、営業からはメンバーを選出いただいていたので、そこにデザインや試作部の協力を取り付け、イメージモデルやワンオフの試作車をつくってパッケージの検討を進めていきました。

RXを小さくすればいいわけじゃない

人との接点のあり方を考え抜いたNXのインテリア。インストルメントパネルを貫く力強いセンターフレーム。継ぎ目のない美しい仕上げを実現し、空間の随所に輝く金属の質感とともに、揺るぎない力強さを象徴している。
手や肌が触れる部分には柔らかな素材を使用し、身体を支えるニーパッドにはレクサススポーツの象徴であるLFAのボルトをあしらい、空間に遊び心を添えている。

企画にあたってはいろいろな調査をおこないました。ライバル車の分析も実施しました。たとえば、アウディ。Q5はこのCセグメントのSUVではメジャープレーヤーになっていましたが、アメリカ市場では人気に火がついていない。一方で、Q7はアメリカでも人気が高い。その背景には、Q5が平たく言えばQ7を小さくしてお求めやすくしただけの車に見えている可能性がありました。しかも、エンジンは共通だから、環境性能も変わらない。つまり、Q7が高くて買えないからQ5という選択肢になっていた。これだと、“プアマンズQ7”ということになりますから人気に火はつきません。これはBMWのX5とX3の関係でも同じことが言えます。


つまり、NXもただ単にRXを小さくして、安くしただけでは駄目ということです。もちろん、NXにはCTと同様にレクサスのエントリーモデルとして、新しいお客様を開拓するという使命もありましたから、価格はできるだけ安くしたい。しかし、だからといって、RXの廉価では誰も買ってくれない。そこに必要なのはターゲットユーザーのニーズに合った走りとデザイン、そしてSUVとしての使い勝手、NXじゃないと得られないもの、すなわち魅力的なNXの個性です。
マーケティングや数々の検討の結果、導き出したコンセプトは「Premium Urban Sports Gear」。都市ユースもこなせる環境時代のスポーティでギアと呼べるプレミアムSUVです。Gearという言葉には“Cool Equipment(カッコよい道具)”という意味合いがあります。それをNXとしては先端の技術で研ぎ澄まされた機能/性能を魅力的なデザインで表現したものと定義しました。たとえば、ロードバイクやMTBはGearでも普通の自転車ではGearとは呼べません。高性能なランニングシューズはGearであっても、単なるスニーカーは違います。腕時計や服であっても同じです。
優れたものには、それを実現するための技術、素材が惜しみなく投入され、コストがかかりそれゆえ高価になりますが、そこは“欲しい”と思わせる、お客様を刺激するデザインやコスメティックな部分があります。
そのGearにPremium、Urban、Sportsという言葉を組み合わせました。Premiumは、レクサスとしてはエントリーSUVでも、お客様が憧れるような質感を持たせたいという想いを。Urbanには、都市ユース、都会に似合う、という想いを。Sportsはアグレッシブな走りや、それを予想させるフォルムを持つ車にしたいという想いを込めました。

コンセプトは大変重要で、これを元にデザインはイメージを膨らませていきます。いわばデザインの方向性の元になる。レクサスデザイン部のメンバーとはそれこそ毎日会話もしましたし、クレイモデルもほぼ毎日見に行きました。車のデザインって、ほんとに難しいんです。いろいろな法規要件、様々な性能要件、生産技術要件、さらにいえば、SUVとしてのスペースを担保することも大切でした。それでもカッコよく個性的にしたい。
デザインに魅力がなければ、それこそお客様の購入候補にも入れないわけですし、やっていてつまらない。逆にデザインからの提案がカッコよければ設計も生産技術のメンバーも結構頑張ってくれるんです。魅力的なデザインは開発する側にとっても、とてもモチベーションがあがるんです。
これはデザインから一番遠いと思われるエンジンなどの開発のメンバーも同じでした。新モデルということもあり、自分たちが開発するエンジンが最初に搭載される車ってどんな車?ってなるわけですから、普段あまり縁のないデザインスタジオに入ってもらい、開発途中のデザインモデルをエンジンやトランスミッションの開発メンバーに見てもらいました。効果は、もちろんデザインに負けない、エンジン、ドライバビリティを目指そうってなりました。
このコンセプトは、開発陣だけでなく、営業/販売企画、生産サイドのメンバーも含めてチームNXが一丸となって実現しようと頑張ってきたものであり、いわばチームNXのスローガンでもありました。
そして、このチームNXが共有してきた想いを完成した車を通じて、お客様にも伝えていきたいと願っています。

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