トヨタ 燃料電池自動車MIRAI 開発責任者に聞く(3/4)

氷の上を滑るような新しい感覚の走り

​​​​燃料電池車を動かすトヨタフューエルセルシステム。​
​2014年10月の試乗会で走行するMIRAI(プロトタイプ)

​デザインもさることながら、走りの作り込みも開発の初期段階から優先順位を高くして、相当こだわりました。MIRAIではウェイトのある燃料電池をフロントのシートの下、水素タンクをリアシート下と後ろに配置することによって重心バランスを下げ、同時に通常の前輪駆動車と比べて前後の重量バランスが後ろよりになっています。ですから操縦安定性、ハンドリング性能が極めて高い。コーナーを曲がるとき、前輪駆動車はちょっと外側に膨れやすいという特徴がありますが、前輪駆動なのにこのクルマにはそれがありません。実際に乗ってみると、この低重心と前後の重量バランスの良さはすぐにお分かりいただけます。

またガソリンエンジンの場合は振動があるので硬いマウントでがっちり固定すると振動がボディに伝わってしまいます。ですからゴムなどを利用した緩めのマウントで固定しています。FCVではそうした振動の心配はないので、モーターやインバーターなどを硬いマウントでしっかり固定しています。その結果、ねじれ剛性が極めて高くなっています。特に、車両の中央付近に配置された燃料電池の部分は衝撃などからの保護の目的で軽くて強いカーボンファイバー強化樹脂をスタックフレームに採用しているのでガチガチです。さらに、スポット溶接の増し打ちや構造用接着剤の採用、ブレースの設定などにより徹底的にボディ剛性を強化しました。

それは乗っていただければコーナリング時に実感できます。ボディのねじれ、たわみが抑えられ、バネ、アブソーバーがしっかり働く。走り出しから路面の細かな凹凸による振動を吸収し、まるで氷の上を滑るような異次元の乗り心地を実現しました。

モーターの出力は馬力にして150馬力そこそこですが、トルクが太いので応答性能がとてもいい。コーナーの出口での立ち上がりがすごく早い。ワインディングコースもキレイに気持ちよくトレースして走ります。しかもとても静かに。高遮音性ガラスの採用など静粛性にも徹底的にこだわりました。​​この未体験の走りにはきっと感動していただけるはずです。

トヨタの本気を示す

​細部にまで高い質感と美意識にこだわった内装。
​肩・腰・脚部を温めるシートヒーターを全席に採用している。内装色はウォームホワイト。

​デザイン、走りのほかにも、即暖性に優れ、消費電力も大幅に抑えるステアリングヒーターやシートヒーターの採用をはじめとする快適装備や最新の安全装備も惜しげもなく投入、さらには広くて使いやすい荷室、FCV専用のナビサービスの開発まで、考えられる限りのあらゆる手を尽くし、細部に至るまで徹底的にこだわり抜いて、クルマとしての魅力を磨き上げたつもりです。

MIRAIの開発にあたってはFC技術部をはじめ、生産技術や調達、設計など色々な部署が本当に良くがんばってくれました。時には衝突もし、膝を突き合わせて納得がいくまで議論を重ね、知恵を出し、汗を流して、一緒に苦労しながら作り上げてきました。その分だけ、いいクルマに仕上がったと自負しています。迷惑な話かもしれませんが、本当にいいものを作り上げるには、どうしてもそういうプロセスが必要なんだと勝手に思っています。

2015年に市販車を発売することはトヨタとして社会に約束したことでした。しかし、だからといって右から左に何でも企画が通るということはありません。むしろ逆で、だからこそ、しっかりした企画でないと会社としてOKは出さない。開発提案が正式に承認されたのは2013年の2月。開発スタートから実に2年以上の月日が過ぎていました。

さらに車名の決定に関していえば、2013年の6月頃にいったん別の車名で決まりかけていました。しかし、「本当にこれでいいのか?」と再度、見直しをおこない、最終的にMIRAIという車名に決まったのは年末でした。それくらい会社としてもこだわって開発したクルマなのです。そしてこの「MIRAI」という車名は全世界共通の車名なっています。

MORIZO on the Road