トヨタ 燃料電池自動車MIRAI 開発責任者に聞く(4/4)

日本の水素社会をリードする

​​​​​​​​​​FCV専用T-Connectナビ(販売店装着オプション)の水素ステーション表示画面。最寄りの水素ステーション情報を確認したり、FCVのシステムにウォーニングが発生した場合にメッセージを表示するMIRAI専用サービスを搭載。写真はイメージ。
​MIRAIは将来の水素社会の一翼を担い、エネルギー多様化への 対応をさらに加速されるものと期待されている。​

2013年10月には東京の晴海埠頭で内外のジャーナリストを招待してのFCV試作車の試乗会を開催しました。開発中のクルマを公開するなんてことは異例中の異例です。なぜそれに踏み切ったかというと、当時は「トヨタがどこまで本気でFCVに取り組んでいるのか、世間では半信半疑だ」と感じたからです。水素ステーションの数を増やしていく上でも、実際に開発中のクルマをお見せすることによって、トヨタの本気を示す必要があると判断したからです。その反響はとても大きく、この試乗会が一つの大きなターニングポイントとなりました。

FCVはプリウスのように年間数十万台も売れる段階ではありません。しかし、だからといって、発売にかかる手間が少なくて済むなんてことはありません。むしろ、まったく新しいクルマですから販売もサービスもFCVを一から勉強し、今まで経験していないことをたくさんやる必要があります。それにはある意味で、国産大衆車の発売に向けて全社一丸となって取り組んでいたトヨタの創業期のそれに匹敵するくらいの努力と情熱が必要です。

2014年の春に放送されたTBSのドラマ『LEADERS リーダーズ』では発売したクルマに不具合が生じたときはとにかく現場に駆けつけて修理し、問題を一つひとつ解決していったという話が紹介されていました。また、初代プリウスが発売されたときはお客様に迷惑をかけないようにと、万一のときは24時間以内に駆けつける体制を整えていたという伝説が語り継がれています。

MIRAIの発売にあたっては、とにかく問題が起こらないように最大限のケアをすることは当然ですが、同様のスタンスでしっかりやっていかなければいけないと思っています。

加藤副社長もこの話を引き合いに出して「こういうチャレンジをするのがトヨタのDNA」と語っていましたが、私にはそのときの加藤副社長の顔がドラマの主人公と重なって見え、熱い気持ちが涌き上がってきました。

水素を燃料とする燃料電池の技術は家庭用燃料電池(エネファーム)として一部、普及が始まっていますが、まだまだ広く一般の人には正しく理解されていないと思います。「水素ってなんだか得体が知れない危険なもの?」というイメージもあるように感じます。

しかし、水素がクルマで普通に使われるようになれば、きっと身近なエネルギーとして理解が進み、同時に水素エネルギーが普及するトリガーになる。日本が水素エネルギー社会に一歩踏み出す大きなきっかけになるはずです。その意味でもMIRAI が担う使命と期待は大きいと感じています。

先ほどMIRAIの開発を担当することは「20年以上に渡る駅伝の最終走者」と言われた話を紹介しました。MIRAIというクルマ開発にとってはそうなのかもしれませんが、社会においては、最終走者どころか、いまやっとスタートライン立ったばかり。私たちは次の100年に向けて、一歩目を踏み出したに過ぎない。私自身はそんな気持ちでいます。そして、これからもスピードを緩めることなく、全力疾走で走り続けていきたいと思っています。

取材・文:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)​

MORIZO on the Road