トヨタ アルファード/ヴェルファイア 開発責任者に聞く
GRANDELUXEー最高の質的贅沢を極めるクルマ
初代アルファードがデビューしたのは2002年。豪華でゆったりとした後部座席の空間を特徴とするこの新しいタイプの大型ミニバンは爆発的なヒットを記録し、このジャンルで一躍トップとなり、「キング・オブ・ミニバン」とも呼ばれた。さらに2008年のフルモデルチェンジでは兄弟車としてヴェルファイアが登場。上品で洗練された正統派デザインのアルファードと精悍なマスクが特徴の個性派のヴェルファイアの2車種の体制となり、若い世代を含む幅広い層から支持を集め、その地位はより一層、盤石のものとなった。
そして約6年が経過し、2015年、アルファード/ヴェルファイアがフルモデルチェンジを迎えた。これまで大成功を続けてきたクルマをフルモデルチェンジするのは大変難しく、とても勇気がいるものである。持続的な成功のためには「さらなる革新」と「ブレークスルー」が必要となる。特に2代続けて成功した後の3代目のフルモデルチェンジは鬼門である。単純に強みをより強くするだけの正常進化ではお客様には満足してもらえない。
新型アルファード/ヴェルファイアの開発責任者となった吉岡憲一氏は開発を始めるにあたって「これまでの延長線上でミニバンの頂点を極めるのではなく、高級サルーンの新しいカタチを創り出す」という決意で開発に取り組んだという。それはすなわち、ミニバンという常識にとらわれない、同時にミニバンを言い訳にしない、圧倒的な広さと使い勝手を持ちながら、ラグジュアリー・サルーンに匹敵する乗り心地、性能、質感を持った新しい高級サルーンを創り出すということであり、いわばアルファード/ヴェルファイアを再定義する、という勇気ある挑戦であった。開発コンセプトは「GRANDELUXE」。最高の質的贅沢を極めるクルマを作るということである。
2014年12月、富士スピードウエイに吉岡氏を訪ね、お話を伺った。
若い時代に海外で鍛えられた
就職にあたって「これからきっと、クルマはメカトロニクス化が進む。電気工学の知識と技術を持って電機メーカーに進むのではなくて、自動車メーカーでそれを活かしたい」と考えて、トヨタに入社しました。もちろん、ゆくゆくはチーフエンジニアになってクルマの開発をやりたいと思っていました。
私の愛車遍歴は、学生時代はホンダのCR-X。トヨタに入社して最初に買ったクルマは、スキーが趣味だったこともありハイラックスサーフです。その後は、元々早いクルマ、ドリフトしながら疾走するようなキビキビ走るスポーツカーが好きなので、MR-Sや日産フェアレディZと乗り継ぎました。また、妻の所有ですがシルビアやBMWも家にありました。「家にフェラーリをおいて、晴れた休日にドライブする」というのが夢でしたが、現実はなかなか難しいです(笑)。子どもが生まれて、家族が増えたので、11年前に初代アルファードを購入し、今でもずっと愛用しています。いま我が家にあるのはこの1台だけです。やっぱり、なにかと便利です。
最初の配属は海外技術部でカローラを担当しました。カローラやカムリなどグローバルで生産しているクルマは色々な部品を現地調達していますが、国内の図面を持っていっても様々な事情でその通りには作れないことがあり、それを現地で開発するのが海外技術部の仕事でした。
もちろんゼロから部品の図面を起こすわけではありませんが、色々な設計変更が必要ですし、何よりも、現地で製造するためには現地の人たちとしっかりコミュニケーションする必要があります。「この部品は-30℃で何万回耐えればいいのか?」といった各論の質問に的確に応え、一つ一つその場で仕様を決めていく。現地に出張するのはいつも一人なので自分がそのクルマの開発リーダーみたいな立場になります。 海外の人はあいまいな指示では絶対に首を縦に振らない。かなりタフな仕事で、相当鍛えられました。
また、現地調達する部品は国によって違います。内装部品、外装部品、サスペンションの部品、エンジンのコンピューターなどその度に部品について勉強しなくてはいけない。おかげさまでこの時期にボディやシャシーなど色々な知識と技術を吸収できました。更にはモノづくりをするためには細かいところもしっかり段取りしていくことの必要性を現場で学ぶことができました。
カローラは約6年間担当しました。南アフリカやブラジルをはじめ、色々な国に行きましたが、この時の経験は開発責任者となった今、すごく役に立っています。
新型車にたくさんの電子制御システムが採用されている理由
国内に戻ってからはカムリの担当になり、オーストラリア向けのカムリの製品企画の仕事を経て、現在所属している製品企画部門に異動して、現行モデルの一つ前のカムリの開発に企画段階から参画。2006年のラインオフまで一通り経験しました。
その後、技術管理部に異動して「将来の技術部をどうしていくべきか?」を考える仕事を1年くらいしました。その中で、当時のレクサスLSのチーフエンジニアと一緒に、「クルマの制御システムをしっかりマネジメントして、同時に新しい技術を生み出せる仕組みを作る」という目的で新たに制御システム開発部を立ち上げ、この部署に移りました。
制御システム開発部では様々な電子制御システムを開発しました。今回の新型アルファード/ヴェルファイアには、トヨタ初となる停止状態から高速域(車速0km/h~100km/h)まで、全ての速度域で制御するオートクルーズや世界初の技術を取り入れた駐車支援システムである‘インテリジェントパーキングアシスト2’、左右確認サポート&シースルービュー機能付きパノラミックビューモニターなどたくさんの新しい技術を入れていますが、これらは当時、この部署で開発していたものをベースに作り込んだ機能です。
従来のオートクルーズは低速域になると制御が自動的に解除されますが、新しいオートクルーズでは全ての速度域においてシームレスに制御します。高速道路での渋滞など、停止と発進を繰り返す場合にも連続して制御してくれるのですごく楽です。
そして‘インテリジェントパーキングアシスト2’。従来のカメラを使って駐車場の白線を認識する技術に、超音波センサーで障害物を検知する技術を組み合わせることにより、駐車位置の自動識別ができ、また、障害物を検知・回避しながら、複数回の前後切り返しを行って駐車をアシストすることができ、より狭いスペースでも駐車できるようになりました。世界初の画期的な駐車支援システムです。制御システム開発部にいた3年間、ずっと駐車支援の在り方について検討してきましたが、その集大成といえる自信作です。「低速域の自動運転支援の在り方はこうあるべき」という私なりの考え方をカタチにしました。実車で体験いただければ、きっと、驚き、感動していただけるはずです。
従来にない新しい高級の概念を創造する
2010年に製品企画の部門に戻ってきて、新型アルファード/ヴェルファイアの開発責任者としてフルモデルチェンジを担当することになりました。その時、最初に決めたことは、「これから開発するクルマはミニバンの頂点(最高級大型ミニバン)を極めるのではなくて、大空間高級サルーンという新しいジャンルのクルマを作る」ということでした。
それは言い換えれば、ミニバンを言い訳にしないということ。そもそもバンというのは貨物車という意味です。新型アルファード/ヴェルファイアは“ミニバン”という呼び方ではない、“新しい大空間の高級サルーン”として生まれ変わることが進むべき方向性であると確信し、「GRANDELUXE(最高の質的贅沢を極めるクルマ)」をコンセプトに開発に取り組んできました。そして、開発の要所要所で判断に迷った時は、常にこのコンセプトに立ち返り、「質的な贅沢に値するのは?」と、判断の拠り所としてきました。
高級サルーンといっても、アルファード/ヴェルファイアのお客様が求める“高級”はメルセデスベンツSクラスやBMW7シリーズのそれとは異なります。また、時速300キロでアウトバーンを疾走するような動力性能も必要ありません。大きなボディなのにすごく運転が楽で、疲れない。乗り心地がよくて、音も静か。そしてとても広く、大きくて、使い勝手がいい。そんなユーザーフレンドリーなクルマをお客様は求めている。それを最高のカタチで提供することで得られる満足感、最高の質的贅沢。単純な見た目の豪華さや高級から一歩踏み込んだ至福の歓び。それが新型アルファード/ヴェルファイアが目指した「GRANDELUXE」という新しい高級の概念です。
それを一番わかりやすく実現しているのが先ほどご説明した全車速オートクルーズであり、‘インテリジェントパーキングアシスト2’、左右確認サポート&シースルービュー機能付きパノラミックビューモニターです。
海や山へレジャーにお出かけしたり、故郷に帰省する時など、家族や仲間とのドライブに高速道路の渋滞はつきものです。そんな時、アクセルやブレーキ操作から開放されて「あー、なんて贅沢なんだ」と実感してもらえるはずです。
そして、駐車が苦手な人でも、ボタン一つで自動的に駐車してくれ、面倒な設定も必要ありません。狭い所で切り返しをする必要があれば、車両のモニターに表示される指示に従ってシフトレバーのDとRの切り替えをするだけで、あの大きなボディのクルマがぴたっと駐車枠の真ん中にまっすぐ駐車できます。「GRANDELUXE」を実感いただける、至福の瞬間だと自負しています。
もちろん、こうした先進装備が実現する“最高の質的贅沢”だけが「GRANDELUXE」ではありません。一例を挙げれば、前後に最大1160mmスライドできる世界初の助手席スーパーロングスライドシートがもたらすくつろぎの空間と使い勝手。「助手席を特等席にしてみよう」というこれまでになかった発想で開発した新機構です。これによって多彩なシートアレンジが可能になり、サーフボードも積めるスペースも生まれました。その他にも同様にこだわった、たくさんの新開発や改良が新型車には盛り込まれており、クルマ全体が「GRANDELUXE(最高の質的贅沢を極めるクルマ)」に仕上がっています。
また、高級サルーンでありながらも、これまで同様にお求めやすい価格のグレードをしっかり作ることにもこだわりました。
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