新型ランドクルーザープラド、ディーゼル復活 開発者に聞く

パワフル&低燃費。プラドがプラドであるために

2014年末にシリーズ世界生産累計800万台を突破。トヨタで最も長い歴史を持ち、世界中のお客様から信頼されているクルマ。それがランドクルーザーである。60年以上の長きにわたり、その一貫した開発思想である「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」を犠牲にすることなく、時代時代のお客様のニーズに応えながら、オン&オフロードでの快適性や、乗用車では考えられない性能・機能を実現してきた。
​​​​​​​​​​​​​​ランドクルーザープラド​は、ランドクルーザーシリーズの中で、市街地・高速での走行安定性、室内の快適性を考慮したライトデューティ用途のクルマである。もちろんライトデューティといっても、けっして柔(やわ)​なクルマではない。ランドクルーザーの一員として、高い信頼性、耐久性、悪路走破性を兼ね備えた、まぎれもない本格派4WDである。2009年にモデルチェンジした現行のランドクルーザー​プラドは、最も売れている中近東をはじめオーストラリア、ロシア、日本など世界中で、圧倒的なオフロード性能を秘めた高級SUVとして評価され、今もなお高い人気を保ち続けている。

​​​​​​​​​そして、2015年6月、トヨタはランドクルーザープラドを一部改良し、トヨタ初、新開発のクリーンディーゼルエンジンを投入する。トヨタは、ランドクルーザープラドにラインナップされていたディーゼルエンジン仕様を2007年に販売中止したのを最後に、国内でのディーゼルエンジンを搭載した乗用車の販売を終了していた。以来、8年ぶりのディーゼルエンジン復活となる。

​​​​​​​​​今回の改良について、ランドクルーザープラド開発責任者の小鑓貞嘉チーフエンジニアにお話を聞いた。

ランドクルーザープラド チーフエンジニア(開発責任者​)の小鑓貞嘉氏

SUVブーム復活の予兆

昨年(2014年8月)、国内では2004年に販売終了していた「ランドクルーザー“70”シリーズ」を、誕生30周年を記念して、1年間の限定ながら再び発売しました。記者発表には多くのマスコミのみなさまとともに、平日の昼間にも関わらず会社や学校を休んでまで全国から大勢のランドクルーザーファンの方が集まってくださいました。本当に胸が熱くなるほど感動し、嬉しかったです。また、新聞や自動車専門誌に留まらず、経済誌やファッション・ライフスタイル誌等でもランドクルーザー“70”シリーズを大きく取り上げていただき、ちょっとした話題になりました。

販売台数についても、当初の予想をはるかに上回るご注文をいただきました。国内での販売が終了して10年が経っても、多くのお客様から「ランクル70でなければ困る」という声を伺っていましたので、ある程度の台数は期待していましたが、まさかこれほど多くのご注文をいただけるとは考えてもいませんでした。特に、驚いたのは年齢や性別に関わらず、非常に多くの方々に興味を持っていただいたことです。なにせ、ランドクルーザー“70”シリーズは、マニュアルトランスミッション専用のマニアックなモデルな上、とにかく機能第一主義で設計され、近頃のデザインの潮流からするとスタイリッシュとはいえない武骨なデザインです。それにも関わらず、実際に街中で運転している方を見ると、意外にも若い方だったりします。調べてみると、お買い求めいただいたお客様の中心は30代で、女性比率も7~8%位いらっしゃいました。正直、びっくりしました。また、昨年同じタイミングでランドクルーザープラドの特別仕様車を発売しましたが、「本当はランクル70が欲しかったけど、いざ運転してみたら自分にはちょっと無理!」という方が代わりにランドクルーザープラドを購入いただくケースも多くあり、大変ご好評いただきました。

国内の市場でいえば、かつて1980年代後半から90年代にかけて4WDブームがありましたが、「今またSUVブームというカタチでそれがちょっと戻ってきているのではないか、その起爆剤になれたのではないかな」と自負しています。そして今後、この灯を絶やさず、もっと大きくしていきたいと思っています。

ランドクルーザー“70”。ランドクルーザーシリーズの中でも、過酷なヘビーデューティー仕様モデル。1984年に誕生し、国内では2004年に販売終了したも​のの、海外では継続して販売されている。​​2014年に誕生30周年を記念して、1年間限定で国内販売を再開し、2015年6月生産分をもって、販売終了する。

エンジンとオートマチックトランスミッションを一新

今回のランドクルーザープラドの改良を一言でいえば、動力系の一新です。デザインや装備については一切変えていません。私は2010年からランドクルーザープラドを担当し、2013年にマイナーチェンジを実施しました。その際、デザインと装備を大きく変更したので、今回は動力系に絞って改良を加えました。

直4 2.7Lガソリンエンジンに、Dual VVT-i(吸・排気連続可変バルブタイミング機構)を採用し、燃焼効率を上げるとともに、圧縮比のアップなどのチューニングによって高出力化を図りました。また、ランドクルーザープラド初となる6速オートマチックトランスミッションを採用し、滑らかでスムーズな変速フィーリングを実現しました。エンジンの改良と6速オートマチックトランスミッションの組合せにより、燃費性能もJC08モードで従来の8.5km/Lから新型は9.0km/Lに向上しています。

これまでは直4 2.7Lガソリンエンジンの他に、V6 4.0Lガソリンエンジンの設定がありましたが、日本市場には合っていないと判断し、今回の改良では4.0Lエンジンを廃止しました。その代わりと言ってはなんですが、トヨタの乗用車としては初となる新開発のクリーンディーゼルエンジンを投入しました。

満を持して、クリーンディーゼルエンジンとして復活

今回、開発したクリーンディーゼルエンジンは、現時点で世界一厳しいといわれる日本の排ガス規制をクリアした環境対応型エンジンです。

私は、ランドクルーザープラドに最も相性がいいエンジンは、ガソリンエンジンよりも、低回転で最大トルクを発揮できるディーゼルエンジンだと思っています。​また、国内で、古くからのランドクルーザーのお客様、ランクルファンの中には「ランドクルーザー=ディーゼル」という考えをお持ちの方が多く、2007年にディーゼルエンジン仕様の販売を中止して以降、そうしたお客様からディーゼル復活を求める熱烈なラブコールも当然、私の耳に入ってきており、今回、待望のディーゼルを復活させることができました。

2007年に国内でのディーゼルエンジン車の販売は中止していたものの、海外では継続して販売しており、また、次世代のクリーンディーゼルエンジンを目指して、開発は継続していました。そもそも、エンジン開発というのは車両にくらべるとはるかに時間がかかり、最低でも10年以上は使えるものを開発する必要があります。さらに、日本の厳しい排ガス規制をクリアするためには、膨大な開発期間とコストが必要になります。日本の小さな市場だけでこのコストを賄うことは難しい。そのため、海外の市場が、日本並みに排ガス規制が厳しくなるまで待つ時間が必要でした。そして、いよいよ欧州の排ガス規制が日本並みに厳しくなってきました。これが変化点でした。

直4 2.8L 1GD-FTV(ディーゼルエンジン)

新開発の尿素SCRシステム

2014年9月、欧州では新しい排ガス規制「ユーロ6」が施行され、日本と同じレベルにまで規制が強化されました。そして欧州では2017年により厳しい排出ガス規制値が設定される見込みで、さらなる排ガスのクリーン化が求められています。

一方、ランドクルーザープラドのように高いオフロード性能を求められるクルマには、スポーツカーや乗用車のように最大出力ではなく、坂道を上るときにギアを下げなくても低回転のまま、ぐいぐいと力強く上っていく太いトルクが必要です。

今回、ランドクルーザープラドに投入されるクリーンディーゼルエンジンは、ディーゼル本来の強みである低回転・高トルクのパフォーマンスを落とすことなく、尿素SCRシステムの採用により、今後の厳しい排ガス規制にもクリアできるように見据えて新開発しました。

尿素SCRシステムは、トラックなどの大型車両で多く採用されています。ガソリンエンジンと比べると、尿素水の補充の手間と費用も必要となりますが、トルクを犠牲にすることなく、高負荷の時でもNOxやPMをしっかり削減・浄化することができます。

新開発のクリーンディーゼルエンジンは、2.8Lでありながら、従来のV6 4.0Lガソリンエンジンを上回る最大トルクを実現することができました。燃費もJO08モードで11.8km/Lと低燃費で、軽油なので燃料費も安く、車両購入時にはCEV補助金(クリーンエネルギー自動車補助金)やエコカー減税が利用できます。

[1GD-FTVエンジン システム図]
排気ガスを、DPR触媒でPMを、尿素水噴射と尿素SCR触媒でNOx​を削減。​​

使い方に合わせて選択が可能

トルクの立ち上がりの瞬発力が優れているハイブリッドという選択も考えられますが、大きな荷物を積んで長時間にわたり悪路を走行するなどの負荷を考えると、現時点ではランドクルーザープラドにはクリーンディーゼルエンジンの方が適していると私は思っています。

とは言っても、高回転で乗用車のように走りたいお客様には、2.7Lガソリンエンジンの方が気持ちよいかもしれません。価格的にもお求め易いですね。どちらのエンジンを選ぶかは、お客様の使い方次第だと思います。

また、余談ですが、海外ではこの2つのエンジンに加えて、V6 4.0Lガソリンエンジンも改良されています。それは総排気量でトルクを補うという考え方。総排気量が大きくなれば、自ずとトルクも高くなります。「総排気量の大きなクルマでエンジンを高回転まで回して砂漠を疾走したい」という中近東の砂漠文化に向けた設定です。なんといってもガソリンの方が水よりも安いという所ですから(笑)
今後、順次、ランドクルーザープラドの改良モデルは世界各国に拡がり、エンジンとオートマチックトランスミッション機構が新しいモノに置き換わっていきます。そして世界中のさまざまな道で活躍する新型プラドを見ることができるようになるはずです。あわせて、多くの人にそのハンドルを握っていただき、プラドならではの楽しさを体感していただきたいと願っています。

取材・文:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)

小鑓貞嘉(こやり さだよし)
京都市出身。 1985年トヨタ自動車入社。シャシー設計部でハイラックス、ランドクルーザープラドのサスペンションを担当。1996年に製品企画部門に異動し、ダイナ のフルモデルチェンジに携わり、2001年からランドクルーザー、タンドラ(北米向け車種)のプラットフォーム開発に従事。
2007年からランドクルーザーのチーフエンジニアとして開発を指揮。会社生活29年間、一貫してフレーム車に関わる開発業務を手掛ける。大学時代に自動車部で始めた国内ラリー競技の魅力にはまり、トヨタ自動車に入社後も含め18年間参戦。
I LOVE CAR,LAND CRUISER!