ル・マン24時間レース 2連覇!ですが… 安東弘樹連載コラム

今年もル・マン24時間レースでTOYOTA GAZOO Racing優勝、これで8号車はル・マン2連覇となりました。

レース終盤の23時間経過時点では、小林可夢偉選手がドライバーの1人である7号車がトップを走っていましたが、タイヤトラブルに見舞われ、残り1時間で8号車が逆転。最終的に7号車は、2位でチェッカーを受けることになります。

これで、WEC(世界耐久選手権)2018-2019シーズンのチャンピオンは、8号車となり、中嶋一貴選手は、サーキットレースでは初めての日本人世界チャンピオンとなりました。

知人(私としては友人と言いたいのですが何かおこがましく、あえて知人とさせていただきます 笑)であるドライバーが、ル・マンを連覇し日本人として初の世界チャンピオンになったのは心から嬉しく、レース後、すぐにラインでメッセージを送って感動を伝えました。

いつも激戦の後にも関わらず、すぐに返信をくれるのが一貴選手らしいのですが、やはり今回は7号車を想い、複雑な心境だったようです。

そして、今回のタイトルの最後に“ですが”と付けたのには、2つ理由があります。

GAZOOのサイトを読んでいる皆さんはご存知だと思いますが、WECでは去年からTOYOTA GAZOO Racingの2台のクルマの同等ライバルチームは、存在しません。

一昨年までに、ポルシェやアウディなどのメーカーワークスチームが撤退し、実質的なトップカテゴリーがトヨタ1チームになり、“勝って当然”という環境でのレースになっているのが、理由の1つ。もちろん、耐久レースは自分達との闘いでもありますし、ましてや、24時間レースでは何が起こるか分からない中での勝利には価値があります。

ですから、祝福は惜しまないのですが、去年から元F1世界チャンピオンのフェルナンド・アロンソ選手が“勝てる可能性が極めて高い”TOYOTAのドライバーになり、実際に去年は見事に優勝し世界3大レース(インディ500レース、F1モナコGP、ル・マン24時間レース)のうち、2つのレースでの勝利をものにしました。残る1つのインディ500レースにもスポットで参戦し3大レース制覇にむけて邁進しています。

これまで、この3大レースを制覇したのは、グラハム・ヒル、ただ1人ですから、これを是が非でも実現させたい気持ちは、強く理解できます。

だからこそ、何が申し上げたいかというと、彼の個人的な野望に利用されたような感覚が、どうしても拭えないのです。それがライバル不在のレースを残念に思うことを増大させているのを否定できません。

もちろん、モータースポーツというものは、世界中のすべてのドライバー、チームが勝つために闘っているので、速いドライバーをチームに迎えるのは当然のことであり、それによって結果が出るのは素晴らしいことです。

ただ、これまで数年間に渡ってTOYOTAで共に闘ってきた、アンソニー・デビッドソン選手らが、あっさり押し出され、機を見てF1を去った、元世界チャンピオンがシートを得て勝ってしまうのを見て、モヤモヤした何かが残ってしまいました(苦笑)。

アロンソ選手が“持っている”のは間違いなく、実際に勝つのも並大抵のことではないのですが、ライバルがいなくなった途端に彼が来て、ル・マン24時間レース勝者の称号を得てしまったのを見た、あくまで私「個人の感想」です(笑)。

さらに、撤退したライバルメーカー達のほとんどが、フォーミュラE選手権への参戦、もしくは参戦を表明していることから、これは以前にもコラムで書きましたが、日本メーカーの半周遅れを感じ、ますます、アロンソ選手の1人勝ち、という気持ちが倍増してしまうのです。

そして、そのことを裏付けるかのように、TOYOTAル・マン連覇、サーキットレースでの初めての日本人世界チャンピオン誕生という偉業を成し遂げたにも関わらず、日本での報道は、それはそれは寂しいものでした。

いわゆる、ストレートニュースで一報は伝えられたものの、情報番組で特集が組まれる訳でもなく、何しろ、少なくとも私の仕事現場で、その話をする人も皆無で、話を振っても「へー、そうなんだ」というくらいの反応しか返ってこないので、怖いほどの孤独を感じました。

以前、「日本社会ではナショナリズムが絡まないと、すなわち日本代表がチームで闘っている、もしくは日本人選手が世界のトップで活躍しないと、そのスポーツに関心を持ってもらえない」と書きましたが、モータースポーツとなると、日本人選手が世界ナンバーワンになっても関心を持ってもらえないのかと、絶望している昨今です。

日本では完全に、「一部」の“モータースポーツファン”だけが楽しむスポーツになったと言わざるを得ない状況になってしまったようです。

これが、“ですが”の2つ目の意味で、正直、打開策が見当たりません。

日本では、一般的な価格帯の中で、ワクワクできるクルマが無くなって、単なる道具になってしまったから。とか、経済が停滞しているから。など、様々な要因があるとは思いますが、根本を考えると、日本人は元来、農耕民族で、速く移動する、という概念が少ないアジア人共通のDNAレベルの話になってしまうかもしれません。

80年代~90年代辺りにブームになったのは、西洋文化の象徴のような華やかなモータースポーツとバブルの浮かれた世相がマッチしたことと、潤沢な資金が「余っていた」企業が、それにのって、お金を注ぎ込む余裕があったからにすぎないのでしょう。

実際にロケなどに行く際、いわゆる、ロケバスに乗って10人前後で移動することが多いのですが、私がモータースポーツの話をしても、興味があるのは多くて1人で(笑)、ほとんどの場合、孤独感を味わうことになります。

しかも、その内の数人は、はっきり「私はスピード恐怖症です」といった言葉を口にするのです。男性に多いのも特徴で、そのたびに、日本でモータースポーツが根付くのは無理かもしれないと思うのです。

さらには、連日、報道される、車による悲惨な事故、事件。異常ともいえるクルマに対する数々の課税。現実とかけ離れた制限速度(特に許せないのが安全な道路での低すぎる制限速度と危険な道路での高すぎる制限速度)。

フリーランスになって以降、自分の「クルマ好き」をアピールすることが増えたのですが、退社直後こそ、普通のバラエティ番組などで、クルマの話を取り上げてくれましたが、最近は「めちゃくちゃ面白いのですが、クルマの話だと無条件で視聴者が離れるので、それ以外でお願いします」、などと言われることが増えました。

何かTOYOTA、ル・マン優勝の話題なのに悲観的な話になってしまいましたが、完全に諦めた訳ではありません。

クルマの話以外で。と、言われても、何とか突破口を探して、出来るだけ様々なメディアを通じて間接的にでも「クルマの楽しさ」を伝えていこうと思っています。

現在、2つ持っているラジオのレギュラー番組では、ことあるごとに、クルマについて語ることができますし、もっともっと仕事を頑張り、影響力をつけて日本でクルマやモータースポーツの楽しさを広げていく所存です。

ただ、国の方針やメーカーの方向性の転換なくしては、実現できないのが現実でしょう。

国には、税制面でも道路行政においても現実的にクルマを楽しめる土壌を作っていただきたいですし、メーカーには“インスタ映え”するような、誰もが「おー!カッコイイ!」とか「カワイイ!」と胸をときめかせるような、“無理をしてでも買いたくなるような”クルマを世に出していただきたいと切に願います。

トヨタ8号車が優勝した瞬間、様々なことが頭をよぎり、それを今回は素直に書かせていただきました。

安東 弘樹

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