2020-2021 日本カーオブザイヤー 発表…安東弘樹連載コラム

去る12月7日、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー(以下COTY)が発表されました。

私を含めた60名からなる選考委員の投票によって今回はSUBARUレヴォーグが栄冠に輝きました。しかも2位を大きく引き離しての戴冠です。

確かに新しいレヴォーグはボディ骨格から煮詰めなおし、走りを徹底的に磨き、私の嫌いなCVTさえ大きくブラッシュアップし、サーキット走行さえ、こなす様になっていたのには驚きを禁じ得ませんでした。何しろ初代レヴォーグのCVTは、シフトパドルを使ってステップ疑似変速をしながらワインディングロードを数分走っただけで油温が上がってしまい、変速を受付けなくなり更にはクルマをスローダウンさせなければなりませんでしたので、正に隔世の感、と言ってよいでしょう。

当時、そのことをメーカーの方に指摘した所、「あくまで街を軽快に走るためのステップでありスポーツ走行は想定していません」という説明を受け、正直納得できなかったのを覚えているだけに、新しいモデルの試乗会で、ショートサーキットとはいえ、何週か走り終えても、何も問題が起こらなかったことに正に脱帽です。

やはりクルマ好きで運転好きな方が多いだけに、今回、多くの選考委員が最高の10点を付けたのには納得しました。ちなみに選考委員は25点の持ち点の内、イヤーカーにふさわしいクルマに10点、残りの15点を4台に分けて採点します。

さて、私ですが、10点を付けたのはプジョー208/e-208でした。

2017年にCOTYの選考委員になって初めて輸入車に10点を付けたことになります。

2017-2018 COTYの時はSUZUKI スイフト
2018-2019 COTY TOYOTA カローラスポーツ
2019-2020 COTY MAZDA MAZDA3
というのが私のイヤーカー選出の足跡です。

実はすべてMTモデルを運転して、その楽しさに魅了され、もちろん、それだけではないクルマ自体のデザインを含めた魅力に対して迷いなく選出してきました。

しかし今回は非常に迷ったことを、まず白状?します(笑)。というのも、実は私が10点を付けようと思っていたクルマが10ベストカーに選ばれなかったからです。

それがHonda eだったのですが、将来はモビリティの中心的な存在になる可能性が高いEVであるだけではなく、多くの方に愛されそうな可愛い?エクステリア、サイドミラーの映像を始め、インフォメーションを全面モニターで表示する革新的な内装、さらにはRRレイアウトによる、気持ちのよい加速感や群を抜いた回頭性等、クルマとしての魅力に溢れていたからです。

実際にドイツのカー・オブ・ザ・イヤーはHonda eが獲得したのですが、これは日本車初の快挙でした。

それだけに日本のCOTYでベスト10にも入らなかったことにショックを受けたのは確かです。

しかも日本でのCOTYは全く電動化していないレヴォーグが獲ったことから、ヨーロッパとクルマに対する価値観が変わってきたことも感じました。

私自身はエンジン車のMT好きなのですが、良い悪いではなく、多くのジャーナリストが、レヴォーグの安全性能を最大限、評価しながら、まだ走りのよさに感銘を受けて高評価を与えたことに嬉しさと同時に意外性を感じたのも確かです。

そろそろ、私が10点を付けたプジョーの話もしましょう。

評価の理由はまず、このコンパクトなボディでしっかりと担保されているボディ剛性。それによる優れたドライバビリティー。嫌味がないのに先鋭的でかつ質感の高い内装。しかも高価な素材をふんだんに使っている訳ではないのに、高い質感を演出している事に脱帽です。

これは好みが分かれますが、メーターを上から見る程、小さなステアリングも私は、とても好きで、とにかく機敏にクルマが動くのです。高速道路を走れば不思議な程、重厚感に満ち、コラム固定のシフトパドルを操り、このクラスでは贅沢な8速トランスミッションを駆使してワインディングロードを走っても楽しい、と、この一台にクルマの魅力がギュッと詰まっていると感じました。

驚くような燃費ではありませんが、それでも2日間存分に乗って、実質燃費はカタログ値に近い17Km/Lと期待を超え、これはターボ付きの軽自動車の実質燃費を凌駕すると言ってよいでしょう。そして、何と言っても、そのEV版がラインアップされていることも評価した理由の一つです。

環境に優しいかどうかは、火力発電が供給電力の主流になっている日本では、結論は出にくいですが、純粋にEVは運転が楽しいのです、スペック以上にシームレスな加速感は、一度乗ると病みつきになります。しかも早朝や深夜であっても周りに気を使う必要もなく限りなく無音で家を出発できるのも、EVの魅力の一つでしょう。

そして意外にも既にEVに乗っていて家庭に充電設備があるユーザーから聞くのが「ガソリンスタンドに行かなくていい事を、こんなに便利に感じるとは思わなかった。」という意見です。これは実際に所有してみないと分からないですね。私はガススタンドで給油するのが嫌いではないので、今一つ、ピンとこないのですが、少なくとも3人から同意見を聞いたので、きっと間違いではない筈です。

実際にEV版のプジョーe-208にも乗ってみて、ガソリン車と同じ楽しさを感じ、思わず笑顔になっている自分に気付き、10点を付けることに決めました。

あ、そうそう、コンパクトカーなのに後席まで広がるパノラマルーフも望外に解放感があり、気に入った点です。

唯、一つだけ残念なのが、SUV版の2008シリーズには装備されているシートヒーターが日本モデルの208にはオプションでも選択できないことなのですが、本国では装備されているモデルがある、とのことですので、寒い日に心地よく身体を温めてくれる装備の「来日」を待ちましょう。

その他、今年から新しくなった部門賞
デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーは、Honda eに最高得点を。
テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーは、Honda eとAUDI e-tronに最高得点を。
パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーはALPINA B3に最高得点を。
KCAR・オブ・ザ・イヤーは、DAIHATSU タフトに最高得点を付けたのですが、それぞれの理由に関しては恐縮ですがCOTYの公式サイトをご覧いただければと思います。
残念ながら?実際に受賞したクルマと私が選んだクルマが一致したのはパフォーマンス部門だけでした(苦笑)。

実は前述の、私が、これまで日本カー・オブ・ザ・イヤーに選び、10点を付けたクルマが実際にCOTYに選ばれた事が1回も無い、という状況が今年も続いてしまいました。

今年は輸入車の中で最も高得点だったプジョー208/e-208がインポート・カー・オブ・ザ・イヤーには輝きましたが、私としては、「また他の多くのジャーナリストの皆さんと意見が違ったか」と苦笑せざるを得ません。

ただ、私が選考委員に選ばれたのは、専門家としてのクルマの評価というより何度も申し上げていますが「素人の常軌を逸したクルマ好き」として評価することを求められている、と勝手に思っていますので、これからも年間5万キロはクルマと対話している自分のセンスを信じて、何にも左右されずクルマと向き合っていこうと思います。

今年は「王道の」クルマがイヤーカーに選ばれました。「これが最後の純内燃機関のクルマの受賞になるだろう」という声も多く聞きます。

では来年は、どんなクルマが世に出現し、我々を楽しませてくれるのか楽しみではありますが、もしかしたらクルマを「専門家」が「評価」する時代も終わる可能性も近いかもしれません。しかし、そうなるまでは、大好きなクルマのため、粉骨砕身、責務を果たしたいと思います。

最後に、COTYが話題になる時、「選考委員は金品をメーカーやインポーターから受け取っているので、接待オブ・ザ・イヤーだ」等と揶揄するコメントが、毎回見受けられますが、神に誓って申し上げます。そのような事は全くありません。それどころか選考委員としての報酬は有りませんし、メーカーやインポーターがメディアやジャーナリスト向けに主催する試乗会に行く際の交通費も当然のことながら自前ですので、利益供与どころか、試乗会場が遠方の時は痛い出費になっています。海外試乗会の際にはさすがに交通費や宿泊費は出る様ですが、私は仕事柄、海外の試乗会の経験がないので、そこは分かりません。

強いて言えば、お昼をはさむ時間帯の試乗会の時にお昼ご飯が出るくらいでしょうか。

少なくとも私が選考委員になってからは、そんな状況です。

クルマも社会も多様化する時代。今、クルマが一番面白い時代に我々は存在していると言ってよいでしょう。さらに面白いだけではなくこれから人によってクルマに求める価値も大きく変わってきますので確かに「カー・オブ・ザ・イヤー」そして、それを選ぶ「選考委員」という存在も必要なくなってくる日も近いかもしれません。ただ、それだけに末期の「選考委員」として時代の変革を見届けさせていただければ幸いです。

安東 弘樹

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