マイルドハイブリッドディーゼルエンジンの実力はいかに!…安東弘樹連載コラム
6月のコラムでガソリンエンジンプラグインハイブリッドの長距離走行時の燃費を検証しましたが、今回は元々、長距離走行が得意で普段、私も乗っているディーゼルエンジンのクルマに48Vマイルドハイブリッド機構が付いているクルマの長距離走行における燃費を検証した模様をお届けします。
ヨーロッパで普及するマイルドハイブリッド
日本メーカーでも過去に、ごく僅かではありますが同様の48Vシステムのクルマを製造、販売していましたが現在では日本市場でラインアップされていません。
やはりお馴染みのストロングハイブリッド車が、これだけ普及している為、必要も無いでしょう。
ただ、ヨーロッパではここ数年程で、かなり増えてきており、最もポピュラーな省燃費システムと言えると思います。
日本では「ヨーロッパのメーカーはハイブリッド技術が劣っている」と語られる事が多いですが、それは少し認識違いと言えるでしょう。
日本より年間走行距離が長いヨーロッパ各国のユーザーは当然、一日平均の走行距離も長く、しかも殆どの国で原則、無料と言える、高速道路の利用が多いのも実情です。
制限速度も総じて高く、殆どのヨーロッパの高速道路は130キロ制限で、ドイツでは高速道路アウトバーンの半分に制限速度がありません。ちなみにドイツの隣、ポーランドの高速道路制限速度は140キロ。基本的にEU圏内は自由に往来が出来て、検問なども無く国境を走りながら通過するだけですから、ヨーロッパ全体を130km/h~場合によっては200km/h超で移動する事も可能になります。その速度域では日本で一般的なハイブリッド車は走行性能でも燃費においても、美点が発揮できないのです。
簡単に言うと、その速度域では高コストの超高性能モーターでないと機能せず、そうなるとバッテリーも単なる「重り」になってしまうのです。そのような事情もあり、ヨーロッパではしばらく高速域での長距離走行が得意なディーゼルエンジンが重宝されてきたわけです。またヨーロッパメーカーが販売するEVが超高性能の高価なクルマが多いのも、こうした理由からだと言えるでしょう。
さて少し話がそれましたが、ここで48Vマイルドハイブリッドシステムという物を説明しておきましょう。
48Vハイブリッドとは、48Vと高電圧のバッテリーによってスターター兼発電機として作動するモーターと、さほど大きくないリチウムイオン電池で構成された“マイルドハイブリッド”の事を言います。モーターはエンジン始動のほかに、発進や加速時に駆動アシストすることでエンジンの負荷を低減しつつ、減速時にはそのエネルギーを電気として回収(=回生充電)しますが、モーターのみでの走行はしません。こうした48Vマイルドハイブリッドは非装着車比で最大10~20%の燃費向上が見込めるとアナウンスしているメーカーもあります。
基本となるディーゼルエンジンが、そもそも高速走行に向いているパワーユニットですので、それに、このシステムの「補助」が、どの程度機能するのか、検証が楽しみです。
検証するには、うってつけのクルマなんです
前置きが長くなりましたが、今回の検証に選んだのが、レンジローバー・ヴェラールD200というSUV。2Lの4気筒ディーゼルターボエンジンに48Vマイルドハイブリッドシステムが付いています。
実は、私、このクルマと全く同じエンジンのクルマ(ジャガー・F-PACE)に2年ほど前まで乗っており、そのクルマはマイルドハイブリッドではなかったので、比較するのに、今回借りたクルマは正に打ってつけと言えるでしょう。
ちなみに、F-PACE、高速道路では大体、14km/l~15km/l位の燃費だった事を覚えています。
現在、私が所有しているディーゼルエンジンのクルマは、マイルドハイブリッドではないのですが、SUVより燃費に有利なステーションワゴン形状のクロスオーバーという事もあるのか、高速道路では17~18km/l位の燃費で推移しています。
では、マイルドハイブリッドシステムは、どの程度、エンジンを補完してくれるのか。
更に言えば、前回のガソリンプラグイン・ハイブリッド車、DSオートモービルズのDS7E-TENSEとはベース車同士の比較で、ほぼ同じ価格(700万円台)、同じ重量(DS7 1940kg,ヴェラール1928kg)ですので、本当に、有難い比較状況での検証になりました。
1000km検証の結果は、意外な結果に
今回は前日にインポーターの方から広報車をお借りして、当日は千葉の自宅から検証、スタートです。
今回ですが、1泊2日で、半分?仕事の用事で向かう、奈良県橿原市を往復する1000キロちょっとの行程です。
DS7の時は仕事も含めて3日間で1500キロを走行する事が出来ましたが、今回はスケジュールの都合で2日間の旅が限度でしたので、前回より距離は少し短いですが、1000キロ以上の走行ですので、燃費などを比較するのに問題はないでしょう。
千葉の自宅から京葉道路、首都高速を経て東名高速、新東名高速、伊勢湾岸自動車道、東名阪自動車道、名阪国道、という順路で向かいました。制限速度120キロ区間が有る新東名高速を含めて伊勢湾岸自動車道まではDS7の時と同じ行程です。
120キロ速度制限区間を終えた愛知県辺りで、敢えて見ない様にしていたメーターの燃費計を初めて見てみると、15km/l台を推移しており、正直、もう少し伸びると思っていたので、ちょっと拍子抜けした心持ちではありましたが、考えてみると全長4.82m、幅、1.93m、高さ1.685mの大きさで重さが2トン近いSUVの燃費としては優秀である事は間違いありません。
ただ、同じ場所までの行程で1.6lのガソリンターボエンジン+モーターのプラグインハイブリッドのDS7が16km/l以上であった事を考えると、ディーゼルエンジン+マイルドハイブリッドのヴェラールには、もう少し頑張って欲しいというのが本音です。
しかし、検証はまだ、これから。ディーゼルに有利な高速道路での走行は続きますので、今後の燃費の伸びに期待しましょう。
高速道路での走行フィールですが、流石にディーゼルエンジン。低速からトルクが発生するので追い越しの際には勿論ストレスなく速度を上げられますし、巡行するのがとにかく楽でした。加速の際にはエンジンの過給プラス、モーターもアシストしてくれますので、エンジン単体のクルマより、少しだけスムーズな「気がしました」。こればかりは、比較対象のクルマに、すぐに乗り替えて運転しなければ実感は出来ませんが、「気がした」のは確かです(笑)。
それにしても以前、検証したDS7のスペックを見るとシステム全体として300PS、520Nm。それに対して今回のヴェラールは204PS、430Nmとかなり見劣りするのですが、体感としては、ヴェラールの方が力強く感じられたのです。これはDS7の方が常にシステムとしての最高スペックを発揮している訳ではなく、場合によっては300Nmのエンジンだけで走っている場面がある為、と想像出来ます。
アクセルを踏み込まなければならない状況はヴェラールの方が少なかったので、それだけに好燃費に期待が膨らみます。
そして装備に関してですが、今回借りたヴェラールには何と500万円!を超えるオプションが付帯されており、現在考えられるほぼ全ての装備が満載でした。
ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)等の走りに関する安全快適装備はもちろん、最新のものが付いており、乗員に対するホスピタリティーに関する装備も書ききれないほどですが、あえて列挙すると、ステアリングコラムも含めて動くものは基本、全て電動調整式。フロントシートヒーター、シートクーラー、マッサージ機能、パノラマガラスルーフ、リアシートヒーター、リアシート電動リクライニング、前後左右、独立して温度調整が出来るエアコン、なんと、車内Wi-Fiも装備されていました。またシート表皮には非常に肌触りの良いリサイクル素材が使われており、最近のヨーロッパにおける「アニマルフリー」(動物由来のレザー等の素材を使わない)の流れを感じます。
DS7に付帯していたオプションは特別外装色だけでしたので、ベース車の価格が近いと言っても、購入価格には大きな差がある事をお伝えしておきます。
さて肝心の燃費の事をお伝えしましょう。
燃料タンク容量が60lとDS7より大きい事もあり、往路550キロ弱ではタンクには余裕が有ったため給油は行わず、帰路の途中、822キロちょっと走った所で給油をしました。トリップコンピューターの数字は走行距離822.5km 平均燃費は15.5km/lと表示されています。実際に燃料を入れて満タン法で計算してみた所、15,2km/lという結果でした。
DS7が同じ様な状況で16km/l前後でしたので、ここまでの所、ガソリン+モーターのプラグインハイブリッドに軍配が上がっています。
しかし、DS7の燃費はバッテリー残量が0になった後半に失速し、最終的には15.3km/lという結果になりました。
ここからのディーゼルエンジンマイルドハイブリッドの巻き返しとなるのか、個人的にも非常に楽しみにして、帰路につきます。
ゴールは品川にある、このクルマを借りたランドローバージャパン本社ビル。
本社近くのガソリンスタンドで2回目にして最後の給油をします。
燃費計の表示は一回目の給油時よりも良い16.0km/lになっていました!
一回目の給油時は燃費計が15.5km/lで実測が15.2km/lでしたので、これは少なくとも先程の給油時より向上しているはずと思い期待して給油、そして計算!
結果は…、15,0km/l!!ん?何で?おかしい!しかし何度計算しても同じでした。
実際の燃費とクルマの燃費計表示の乖離が増えてしまっていたのです。
まあ確かに夕方の東名高速上りは渋滞気味でしたし、一般道に降りてからもかなりの渋滞でしたので、無理もありませんが、1000キロちょっとを走っての総合燃費は15.1km/lとなり、僅かながらガソリンプラグインハイブリッドに負けてしまいました。
燃料代を比較すればハイオクガソリンと軽油の違いがあるので、ディーゼルの圧勝ですが、正直、もう少しディーゼルマイルドハイブリッドに期待していたのは確かです。
何と言っても普通のディーゼルエンジン(以前の私の所有車)とあまり変わらなかったのが残念なのですが、改めて重量を比較すると以前の私のクルマの方がベース車で100kgほど軽かった上に恐らく500万円を超えるオプションによって今回借りたクルマは重量もベース車よりも相当、増えていた事は想像できます。
更に私の現在の所有車と比べると重量や体積、また、それに伴う空気抵抗も大きい事から、妥当な数字だったかもしれません。
改めて、オプションを含めると2トン以上のSUVの燃費としてはかなり褒められる結果ですし、燃料が軽油である事を勘案すれば、ランニングコストは、かなり抑えられるでしょう。
やはり気になるプラグインハイブリッド
この結果を受けて、俄然、気になっているのがディーゼルエンジンベースのプラグインハイブリッドです。
現在、日本市場で購入できるディーゼルプラグインハイブリッド車は
メルセデス・ベンツのE350de Sportsの一車種のみ。
近々に日本車の中で最もモーターだけで走れる距離が長くなる予定の(カタログ上はプリウスPHVより長くなる予定)新型レクサスNXプラグインハイブリッドとの比較もしてみたいと企んでいます。
まだまだ1000キロ単位の走行検証が出来るBEVの登場は先だと思いますので、それまではプラグインハイブリッドが、どれ位のポテンシャルを発揮してくれるのか、今後も検証を続けたいと思います。
安東 弘樹
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