第42回日本カーオブザイヤー、私は悩みに悩みました…安東弘樹連載コラム

正に、この原稿を書いている今日2021年、12月10日(金)夕方に第42回日本カーオブザイヤーが決定し、発表されました。

今回の日本カーオブザイヤー(以下COTY)は日産ノートシリーズになりました。実は、私も自分がイヤーカーに選び10点を付けた車と最後の最後まで悩んだのがノートシリーズだったのです。そういう意味では個人的にも納得の結果となりました。

というのも2017年から日本カーオブザイヤーの選考委員を拝命しておりますが、これまでの4回は自分がイヤーカーに推薦した車が実際のイヤーカーになった事が無く、正直自分の選択は正しかったのか疑問に思う事が少なくなかったからです。納得していなかったという意味ではないのですが、「そうかな~…」という感覚が無かったと言えば嘘になります。

自分の選考に自信が無い訳ではありませんが、自分のマニアックぶりが一般のユーザーの感覚と違っている場合、選考委員でいる資格が有るのかという根幹に関わる問題になりますので…。

ちなみに今回、全選考委員の採点の結果は、ご覧の様になりました。

順位 車種 ポイント
1 日産 ノート/ノート オーラ/ノート オーラ NISMO
ノート AUTECH CROSSOVER(日産自動車株式会社)
335
2 トヨタ/SUBARU GR86/SUBARU BRZ(トヨタ自動車株式会社/株式会社SUBARU) 264
3 ホンダ ヴェゼル(本田技研工業株式会社) 227
4 三菱 アウトランダー(三菱自動車工業株式会社) 206
5 フォルクスワーゲン ゴルフ/ゴルフ ヴァリアント(フォルクスワーゲン グループ ジャパン株式会社) 168
6 トヨタ MIRAI(トヨタ自動車株式会社) 104
7 シボレー コルベット(ゼネラルモーターズ・ジャパン株式会社) 81
8 メルセデス・ベンツ Cクラス(メルセデス・ベンツ日本株式会社) 51
9 トヨタ ランドクルーザー(トヨタ自動車株式会社) 45
10 BMW 4シリーズ(クーペ/カブリオレ/グラン クーペ/M4クーペ)(ビー・エム・ダブリュー株式会社) 19

この中で私がイヤーカーに選んだのは、三菱アウトランダーPHEVでした。全体の4位。またしても微妙な位置ですね…。

しかし、今回アウトランダーに点数を入れた方の多くが10点を付けていたのが特徴です。COTYの採点方法としては、それぞれの選考委員の持ち点25点のうち、イヤーカーに相応しい車に10点、残りの15点を4台に振り分けて採点する、というものですので、実は、場合によっては10点を付ける選考委員は少ないにもかかわらず、多くの人が2番目の8点や7点を付けた結果、イヤーカーに選ばれるケースもあるのです。

そういう意味では私と同じ感性?の選考委員も多かった事になりますので独りよがりの選考ではないと言えるでしょう(笑)。

私がアウトランダーを選んだ理由はCOTYのホームページにも書いてあります。ここにも載せますと…。

「総電力量のアップによりモーターによるカタログ値走行距離は80km以上になり、充電設備が自宅に有れば、実際に使う際にもモーターのみでの走行が殆どになると思われます。そのような環境性能だけではなくS‐AWCと呼ばれる運動制御システムや7種類のドライブモードにより、オンロードもオフロードも安心して走行できる懐の深さも評価の対象になりました。また充実した装備や室内の質感の高さにより、運転して同乗して、常に幸福感や所有している喜びを感じる事が出来る、稀有なクルマだと感じました」

と書きましたが補足をさせて頂きます。

総電力量は20kWhとなりました。純EVのHONDA eが35.5kWhですので、PHEVとしてはかなり大きな容量と言えるでしょう。それによって上級グレードのカタログ値EV走行換算距離はWLTCモードで83キロになっており、実際の走行シーンでも少なくとも50キロは走ってくれるのではないでしょうか。

この距離ですと80パーセントの日本のユーザーはモーター走行だけで一日を過ごす事ができる事になります。いざという時には当然、エンジンが仕事をして、駆動は勿論、走りながら充電もしますので、限りなくEVの様に使える上、長距離走行の際は精神的に余裕をもって旅にも出かけられるでしょう。さらにV2Hのシステムを使えば災害時には自宅に給電も出来ますので、様々なシーンで頼もしい相棒になってくれそうです。

そして、走行性能に関してですが、メーカー主催の試乗はサーキットで行われ、特に制限速度も設定されていなかったため、ある程度のペースで周回しましたが、上背のあるSUVとは思えない安定感を発揮してくれました。そして三菱得意のAYC(アクティブヨーコントロール・駆動力移動制御)を中心とする高度な機構によって、とにかく、サーキットのコーナーでも良く曲がってくれます。細かい説明を記すと文字数を要してしまうので割愛しますが、オンロードでもオフロードでも、しっかりとトラクションをかけてくれて、破綻の無い走行を実現してくれるのです。

そして私が「ユーザー」として嬉しかったのが、先代とは一線を画した、内外装の質感アップです。

最近の三菱共通の「顔」ですが、メーカーの方曰く、このアウトランダーは顔とも言えるフロントフェイス、骨格も含めて最初から一貫して設計したので全体的に纏まったデザインに出来た、とおっしゃっていました。私が、「他のモデルとは違うんですね」と少し皮肉を込めて?申し上げたところ、「我々からは言えませんが、まあそういう事です」と笑っていました(笑)。

そして内装です。

正直、先代のアウトランダーは、最上級グレードでも頑張って何とか高級そうに見える工夫をした、という印象でした。

ところが新型のそれは形状は直線基調でシンプルなのですが、とにかく手に触れる部分の質感が高く、シートに関しても、「手を抜かずに良い物を作りました」というメッセージが伝わってきたのです。

シート表皮の質感、実際の装備に関してもそうです。前席と後席のシートヒーターや、採光の面積も広く、開閉も可能な電動パノラマガラスサンルーフなどによって、家族や友人等を乗せて、道を選ばず楽しく移動している「映像」が浮かんで来ました。

しかも新型はPHEVでありながら7人乗りも選べるという多くのユーザーの「悲願」も達成しています

それにしてもメーカーの、あらゆる部門の担当者の皆さんが試乗会の時も自信に満ちていたのが非常に印象的でした。

様々な開発部署の方とはリモートでの懇談でしたが、それでも「我々の渾身の作品を見てください」という気概が伝わってきたのです。

正直、嬉しくなりました。

今の自分の家族用の車は非常に気に入っていて気付けば走行距離が2年半で6万8000キロほどになっています。次の車のローンの頭金を作るには、そろそろ売却しなければなりません。というのも車検前に5万キロを超えると完全に「過走行車」という事になり、ましてや7万キロ、8万キロとなると、日本市場では価格が、かなり下がる事になりますので、過走行の私は自ずと買い換えのサイクルが短くなってしまいます。ローンの頭金の事など考えなくて良い状況には当分、なれそうにはありませんので、いつも、そのタイミングを必死で考えているのです。

そんな状況で、次の車にアウトランダーPHEVが候補になったのですが、異常な暑がりで冬でも日中、建物にいる時間が長いときは半袖で過ごす私にとって夏場には必須のシートベンチレーター(またはシートクーラー)の設定が現状では無い事を知り、地団駄を踏んでいます…。

しかし、それだけ、この車に魅了されたという事です。

そのアウトランダーとイヤーカーを悩んだノートも私には、とても魅力的に映りました。

シリーズハイブリッド車特有の、加速とエンジン音がシンクロしない感覚だけは気になったものの、モーターによる加速感や、しっとりとしたステアフィール等が私には合っていました。更にノートオーラや同ニスモの上質な内装、ハッキリと見やすいデジタルメーターや液晶モニター。そしてコストパフォーマンス。

いやー、今回は本当に悩みましたが、最後は室内空間の余裕や、PHEVのモーターだけで走行できる優位性に軍配を上げました。

今回は、殆どの選考委員が「本当に悩ましい」と言っていましたので、近年希に見る激戦であったと言えます。

点数だけを見るとノートの圧勝に見えますが、実際は全員が悩みに悩んで配点した結果、たまたま、この点数の差が開いた、と言えます。

しかし、このように我々が悩む、という状況は良い事なのでしょう。それだけの車が揃ったという事です。

さて今回はノミネート車の中にFCVも含めたEVが4車種、PHEVが4車種入っていましたが、最終的にCOTYに選ばれたのはハイブリッドとはいえ充電する機能はない、ある意味、これまでと同じ価値観で乗れる車でした。

100年に一度の変革期と言われる自動車業界。
来年は、どの様なクルマが選考委員を悩ませるのでしょうか。

今から楽しみです。

安東 弘樹

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