深刻な半導体不足…安東弘樹連載コラム

先日、某番組のロケで、ある輸入車販売店にお邪魔しました。
いわゆる、プレミアブランドメーカーの販売店ですが、そこで驚く様な話を聞きました。
そのブランドの中でも中間グレードの車種、(価格は1000万円前後のクルマです)を購入する場合、半導体不足の影響で、仕様や装備が、かなり限られ、何と、この価格帯にも関わらず、今、注文できるクルマは、シートの位置調整が電動ではなく「手動」になるそうです。シートカラーのバリエーションも、これまでは3色から選べたものが、今は1色しか選べず、それでも納期は1年ほど掛かるとか。

販売店スタッフの皆さんは、困惑を隠せない様子でした。

これも半導体不足の影響というのが驚きです。

シートの色などは関係が無さそうですが、全体的に生産を減らさなければならない為、細かい仕様を受け付けていると、納期の目途が立たなくなるのが理由、との説明を受けました。

特に私は納期よりも、自分の好みの仕様に拘り、1年位は、クルマが来るまで待てるタイプなのですが、今は、そもそも、その様な注文は出来ず、仮に、「どうしても」と言って、細かい「自分仕様の」クルマを注文した場合、来年、2023年内の納車は不可能だと言われました…。要は2年以上、待たなければ、クルマを手にする事は出来ない、という事です。

勿論、半導体不足の事は認識していましたし、影響を受けているのも知っていました。
しかし、販売の現場で、この様な話を聞くと実感として、その深刻さを理解する事が出来ます。

ところが、メーカーによって、その影響に差がある事も分かってきました。

自分が乗っているクルマの1台が、「いつもの様に」購入して2年半で走行距離が7万キロを超え、場合によっては次のクルマを考えなければならない状況になってきました。日本では、走行距離が8万キロを超えると極端に売却価格が落ち、10万キロを超えると、それこそ売却そのものが難しくなる、というのが特徴です。クルマそのものを見て自分で吟味する、というより、走行距離や年式等、データで判断するユーザーが多いのが、その理由かもしれません。本当は、キチッと整備され、適度に走ったクルマの方が程度は良いのですが、「とにかく走行距離が少ないクルマが好まれる」と、ユーズドカー情報誌の編集の方も、おっしゃっていました。

そういった事から、私の様に短期間に長距離を走るユーザーは、1台のクルマに長く乗るか、ある程度の走行距離のうちに売却するかの2択を迫られるのです。

結果、私は10年以上乗るか、最初の車検の前に売却するかの、どちらかになり、全体的には後者の方に偏ってきました。何故なら、ローンを組まなければ次のクルマを購入する事は出来ませんので、頭金の資金を得る為にも、そのような自転車操業を続けざるを得なかったのです(苦笑)

話が逸れましたが、その様な事情から、様々な次期愛車候補を物色し始めて居るのですが、「影響は皆無」というところは無いにせよ、メーカーやブランドによって、その深刻さに差が有る事が分かってきました。

ある輸入車メーカーは、全てのオプションが選べ、仕様の選択も、これまで通り出来る、という事でした。納期までの時間は通常よりも長く掛かってしまうとはいえ、半導体不足による損害は最小限との事です。

もう一つの輸入車メーカーの場合、基本的にオプションは全て選択出来るのですが、フルディスプレイのメーターだけ装備出来ず、アナログの物理メーターしか選べない車種が有るとの事。但し、フルディスプレイのメーターが世界的に標準装備の車種は購入できるそうで、要は、標準装備のクルマに優先して半導体を割り当てる為、これまでオプションで選べていた車種は、全てアナログメーターになってしまう、という事です。

当面、「何年待っても良いから」と注文しようとしても、標準装備の車種以外はフルディスプレイメーター装着車の受注自体が不可能になっているそうです(コンピューターが受注を受け付けないとの事)。

そして、ある日本メーカーのクルマの「見積もり」をして頂いた際には、やはり半導体不足の影響で減産を余儀なくされている、との理由から「納期が不透明ですので、取り敢えず早めに注文して頂いて、待って頂くしか有りません」と言われました。「目安だけでも分かりませんか?」と伺った所、「早くても1年以上、としか申し上げられないです」との返答が返ってきました。

これには苦笑いするしかありません。

私のクルマは車検が切れるまで、半年しか有りませんので、ひとまず車検を通すのは確定しました。という事は、このクルマには、かなり長く乗る事になりそうです。

それぞれのメーカーの方に改めて伺った所、メーカー毎に半導体を供給して貰っているサプライヤーが違う為、その影響も変わってくるとの事。しかもそのサプライヤーの工場の場所によっても、状況が違うそうです。

というのも、工場が設置されている国のコロナウィルス感染状況によって、それぞれのサプライヤーの生産量が大きく変わる為、自動車メーカーによってクルマの供給に差が出る、という訳です。

今回、理解できたのは、自動車、というものが一つの部品の不足によって様々な、しかも深刻な影響を受け、それが全世界に波及する、という事です。

第二次世界大戦後、特に我々「西側諸国」は産業もテクノロジーも進歩し続け、生産性も上がり、より便利で豊かになっていく、と信じて疑いませんでした。

しかし、21世紀になってから、宗教間の考え方の相違だけではなく経済格差に起因すると考えられるテロや環境破壊などで少しずつ、その陰りを感じ始め、だからこそ新しい形の進歩や発展を模索していたのだと思います。

自動車の変革も、その一つでしょう。しかし、そこに来てのパンデミック。
私は無神論者に近いと思いますが、何か大きなメッセージを「何か」が伝えようとしているのではないか、とすら感じてしまいます。

大げさな表現に聞こえるかもしれませんが、経済的に許される範囲で、とは言え、これまで自分の好きな車を好きな仕様で購入できた事が、如何に幸せであったのか実感しました。

そして、それは当たり前の事では無かった事も理解出来ました。

内燃機関であろうと、電気自動車であろうと、クルマという物は、正に「無数」と言える程の種類の素材で構成された部品の集合体です。

そう考えると、これまで、数あるメーカーがユーザーの要求するクルマを自由に供給出来た事は「奇跡」だと言えるかもしれません。

更に言えば、もしかしたら、これまでの「お金さえ払えば何でも手に入る(先進国と一部の国に限られますが)」という世の中は終焉を迎えるかもしれません。

そこまで考えてしまった、今回の半導体不足による自動車産業への影響でした。

勿論、人類の英知に希望を託したいとは思いますが、「完全に元に戻る」、というのが想像出来なくなっている自分もいます。
不思議と絶望はしていないのですが、新しいクルマとの向き合い方や新しい生活様式になっていくのは確かでしょう。

クルマ好きの皆さんは、どの様に感じていらっしゃるでしょうか?

安東 弘樹