新しいガソリンスタンドの形…安東弘樹連載コラム

最近、「ガソリンスタンドが減り続けている」という事は、多くの方が認識されていると思います。理由には、自動車の燃費が良くなっている事に加え、特に地方におけるガソリンスタンド経営者の高齢化等も挙げられます。

加えて2010年に施行された改正消防法によって、ガソリンタンクの漏洩防止対策に対してのコストが掛かるようになり、スタンド経営には向かい風が吹いている為、仕方がないのかもしれません。

更に今後、そもそも燃料を直接は使わないBEVも増えていくでしょう。しかし大手石油会社を中心にガソリンスタンド改革が進んでいるのも確かです。某ガススタンド大手企業のHPを見てみると、燃料と電気を併売するスタンドも確実に増えてきているのが分かります。

最近は、コンビニやカフェなどを併設しているスタンドも珍しくなくなりましたが、これはガソリンや軽油を供給するのと同時に、充電設備も持ち合わせているスタンドには非常に都合が良く、30分ほど時間が掛かる充電中に、併設のお店で飲食や買い物もして貰える訳です。

しかし食事をするには、1回に30分しか充電できないという現状の時間では少し短いかもしれません。これは充電器の数が増えるのが前提ですが、そろそろ30分単位でしか急速充電が出来ない、というのは変えなければならない時期に来ていると私は思います。

バッテリー容量の大きなBEVが増えていますし、出力と充電可能時間を明確にして、大きく表示し、大容量バッテリーを搭載している車は大出力の充電器で1時間程度、充電を。また、容量は小さいが、空に近い状態になっている車は小出力の充電器で、1時間。逆に半分程度以上、充電されている状態の車は従来通り30分、また15分、という単位で充電出来ても良いかもしれません。

さらに、今は充電料金の設定が「時間単位」ですが、これからは実際に充電できた量に課金すべきでしょう。現状況では、充電量は正に運次第で、30分で10kwしか充電出来なかった場合も、30分で30kw充電出来た場合も同じ料金、という極めて不公平な状況です。

これは、まだ20kwh~40kwh程度のEVしか存在していなかった時の名残で、今後、100kwhレベルのEVが増えていく事を考えた場合、そもそも充電器の出力を上げる必要がありますが、インフラが急には整わない事を鑑みると、せめて時間は選べる様にするべきだと思います。

例えば、バッテリーに、電気がまだ十分に残っている場合は、充電時間15分で十分な場合もあるので、それぞれフレキシブルに対応出来る充電器があれば、無駄も廃する事ができます。出力も違う充電器に一律30分で料金を課金するシステムからは、流石に脱却するべき時期でしょう。

最近は、出力の違う充電器が混在している所も増えてきたので、時間も15分、30分、60分と選べる様になる事を切に願います。その塩梅はスタンドによって決めれば良いと思います。たとえば、都市部では急速充電では短い時間で良い、という方が多いかもしれませんし、逆に郊外では、長く充電したい方が多いかもしれません。

そもそもガソリン燃料は、給油する量をリットル単位で任意で決められる訳ですから、電気も同じようにするのが道理というものです。当然、燃料の場合は給油した量によって支払う料金も変わります。電気に関しても運次第、というのは、早急に改善してほしいものです。

EV チャージングステーション

そして、新しいスタンドの形として紹介したいのは、ある石油会社が電子会社と共同で3年ほど前から運用している「Delta EV Charging Station (デルタ EV チャージングステーション)」です。横浜のガススタンド跡地を利用し、駐車場と急速充電器、6kwの充放電器をセットで提供し、カフェも併設。横浜中華街に近い、という立地も活用して、新しいクルマの使い方の提案もしています。

例えば、中華街で食事をしながらEVに充電するのですが、一般的な充電設備と違い、有料駐車場でもあるので、30分経ってもクルマを移動させる必要はありません。また災害時の停電時には電源ともなる事から、正にガソリンスタンドから、エネルギースタンドへの転換の実験的な施設と言えるでしょう。

実は、私も近いうちにBEVかPHEVを購入しようと考えているのですが、その際には「故郷」の横浜ですし、早速利用してみようと考えています。ただ、充電器の数、出力を増やす場合、当然、元の発電を考えなければなりません。

現状の発電状況で環境負荷を考えた場合、様々な試算がありますが、今の乗用車の20%~40%がBEV、もしくはPHEVに代わる位が最も効率的、というのが有力な説だと言うことです。

ちなみに、これは、“多くのEVを自宅で充電すること“が前提ですので、自宅での発電を何でするか、が大きく影響します。私の場合、ソーラー発電器を自宅に設置していて、毎月、1万5千円分を発電している計算になります。その場合、私の毎月の走行距離の大半の分を発電してくれているので、環境負荷は、かなり減らせることになります。

それもあって、近い将来、1台はBEVに乗り換えようかと考えている次第です。

何故か、日本では、「内燃機関 対 電気自動車」の様に対決構造で語られる事が多いのですが、この事自体が非常に残念な事です。

モビリティのパワーユニットには、それぞれ長所と短所があります。実際に鉄道は、「電車」とディーゼルカー等の「気動車」が、それぞれの長所を生かして運用されています。個々の電車が充電する訳ではありませんが、車も、将来的には道路に埋め込まれた非接触の充電器で充電しながら走る様になるかもしれせん。勿論、そうなったら発電については今より考えなければなりませんが、夢物語、という程ではないそうです。

そうなったとしても、ならなくても、少なくとも10~20年以内に、世の中の車が電気自動車だけになる、というのは現実的ではありませんので、ガソリンスタンドも皆無になるのは、相当、先の話になるでしょう。

それまではBEVもPHEVもFCVも共存しますので、「ガソリンスタンド」ではなく、これまで通り洗車や簡単なメンテナンスもやってくれる「エネルギースタンド」として、我々と共に存続してくれるのではないでしょうか。

これまでより、ゆっくり休憩しながら充電も給油もする、スタンドになるのだとしたら、クルマに乗る同士、コミュニケーションを取るのも良いかもしれません。まだEVに乗った事が無いドライバーは、BEVやPHEVの良さや不便さ、またリアルなランニングコストなどを直接、ユーザーに聞けるかもしれません。

逆に、最近出現し始め、これから増えて行くであろうEVネイティブ(生まれてからBEVにしか乗った事が無い人たち)に、内燃機関のクルマの音や独特の振動などの魅力を伝える事もあるかもしれません。

そう考えると、新しいモビリティの形が増える度に、新しい経験やコミュニケーションが増えていくので、私は少なくとも楽しみにしています。

昨年、日産サクラ/三菱ekクロスEVが販売された事で、少し、BEVへのハードルが下がったという人が増えました。

特に、この2台は自宅での普通充電が中心になると思いますが、たまにはカフェに行く感覚で、急速充電器で15分だけのコーヒーブレイクで気分転換、というのも良いのではないでしょうか?そこで、もしかしたら給油に来たガソリン車に魅了されるかもしれません。そんな「エネルギースタンド」が増えるのが楽しみです。

参考:デルタ EV チャージングステーション
https://evstation-yokohama.ezqc.jp/

安東弘樹