長距離ドライブで疲れないクルマとは、コンパクトなスポーツカー…安東弘樹連載コラム

  • フリーアナウンサー安東弘樹の愛車であるロータスエリーゼ

    京都にて

私は時々、自分の二人乗りのスポーツカーを運転して千葉の自宅から京都や滋賀、また宮城県の仙台などへ仕事も含めて長距離の旅に出る事があります。

そのクルマは乗り込むのも大変な程、室内は狭くてシートも前後の調整しかできません。背もたれはリクライニングしませんしシート自体の高さも調整出来ません。シートクッションも最低限の厚さしかありません。更にステアリングも完全に固定されています。チルトもテレスコピック調整も出来ません。

唯、私の身長と足の長さ、座高だと一番前から2番目の位置にすると、ステアリングの高さも、ペダルまでの距離も丁度良くなり、アクセル、ブレーキ、クラッチの各ペダルがピタッと合うのです。更にシートのバックレストにしっかりと腰と背中を密着させ、身体全体が包み込まれるようなポジションで座ると、完璧なドライビングポジションに収まります。

無駄に身体が動くような事はありません。

停まっていると窮屈に感じる車内が、正しく座るとクルマの一部に自分がなったような感覚になり、極端に申し上げると、クルマから降りたくなくなるのです。

基本的に私は運転が好き、というより永遠に運転だけしていたい、という希な性質を持っているのですが、このタイトな空間にすっぽりとハマった時は運転を続けたい気持ち以上に、この空間から脱したくなくなる、という境地にまで達してしまいます。

ですから、当然、疲労を感じなくなるのです。

千葉県の自宅から例えば京都の場合、約500キロの距離なのですが、トイレに行きたくならない限り、一度も休憩しなくても済む位、心地よくなってしまうのです。

例えは多少違うかもしれませんが、母親の胎内に居る様な感覚とでも言えるかもしれません。

何より、加減速の際には完璧なフィールを持つトランスミッションを操作してシフトチェンジする、という快感を味わえるのが、たまりません。

重めのクラッチを踏んで、最適と思えるシフトポジションのゲートにレバーを入れ、クラッチを繋ぐ、この一連の行為が私にとっては人生最大の歓びなのです。身体にフィットしたシートとシフトチェンジの快感により、気付くと数百キロを走っている事が多々あります。

唯、加齢のせいか、最近はトイレが近くなり、300キロ位で、どうしてもトイレに行かざるを得ず、断腸の思いで休憩をする事が増えました。

唯、疲労感は無いのです。

同車種に乗っている方には「信じられない」と言われるのですが、「このクルマは長距離運転が疲れる」、と言うドライバーはシートと身体が合っていないか、シート位置が間違っているのではないかと個人的には思っています。

基本的には正しいドライビングポジションで運転している限り、このクルマは疲れません。

仕事柄、様々なクルマを運転する機会はありますが、私としては室内が広くて、ゆったりとしたシートを持つ車ほど、運転する際に身体が動いてしまい、更には当然、車の体積が大きく重量もある為、揺れも大きくなり、風の影響も受けやすく、カーブを曲がるのも不安定になりますし、減速するのにも制動距離は長くなりますので、より神経を使う事になります。

しかし何故か皆さん、大きくて、ゆったりとした車の方が運転も疲れないと思いがちですが、論理的に考えれば、軽くて自分の操作通りにキビキビと反応してくれる車の方が疲労は少ないはずなのです。

それにしても、この考え方に同意してくれる人は少ないのですが…、自分の理論に自信はあります(笑)。

唯、嬉しいのは、レースやラリー経験者には同意される傾向があり、しかも、その裏付けとして、ラリーレイド等、1000キロ単位を一日で走行する競技でも、完全に身体をシートにフィットさせ4点式のシートベルトで、しっかりと固定されているからこそ、走りきる事が可能で、市販車の様な、ゆとりのあるシートでは、まず完走は出来ない。という、正に「正論」で、私の意見に同意してくれるので、私としては、心強い味方?になって下さっています。

恐らく長距離運転の機会が多いヨーロッパメーカーの車は、背中部分の左右の張り出しが大きく、彫りが深い形状のシートが多く、直線が多いアメリカのクルマや、乗降が多い日本メーカーのクルマのシートは比較的平面的な物が多いのは、こうした背景があるのかもしれません。

  • フリーアナウンサー安東弘樹の愛車であるロータスエリーゼの純正シート

    このタイトなシートのおかげで疲れません

そういった事からも長距離を運転する時は、クルマの剛性が担保されているのが条件ですが、シートは、ゆったりとしているものよりも、しっかりと身体をホールドしてくれるものの方が、疲労は少ないと言えるでしょう。

それから、渋滞などを含む、長時間の運転の際にはATよりもMTの方が私は疲れません。
ATの場合は、同じ体制でほぼ固定されてしまい、血液の循環も滞り、エコノミークラス症候群に近い状態になりがちです。
一方で常にクラッチを踏んで、手も動かしているMTの方が身体への負担も少ないのではないか、というのも私の考え方です。

全てを総合すると、大きくて広いATのミニバンやSUVよりもコンパクトで軽く、しっかりと身体をホールドしてくれるシートが備わった、軽くて小さなMTのスポーツカーの方が疲れないクルマという事になります。

勿論、感覚というのは人、それぞれですし、私の考え方が完全に正しいとは申しませんが、今まで、何となく大きなクルマの方が長距離を運転する際には疲れないと思っている方は、一度、しっかりと身体を包み込んで支えてくれるシートを持ち合わせたスポーツカーで長距離ドライブを試して頂きたいと思います。

また新しい発見があって、クルマへの考え方も変わり、今まで以上にクルマ、という物を好きになって頂けるのではないかと信じています。

最近はレンタカーやカーシェアでも徐々にスポーツカーを選べる様になってきました。

もし少しでも「クルマが好き」という感情が、お有りで、これまではスポーツカーには縁が無かったという方も、所有はしなくても、自分の操作に対して、クイックに反応してくれる運転感覚を一度体感しても、バチは当たらないのではないでしょうか(笑)

騙されたと思って、是非、お試しあれ!

安東 弘樹