ゲームチェンジャーになる可能性を秘めた軽BEV 日産サクラと三菱eKクロスEVを試乗しました…安東弘樹連載コラム

  • 日産 サクラ

7月に入り、初の軽自動車規格のBEV、日産サクラ(以下サクラ)と三菱eKクロスEV(以下eKクロス)に続けて試乗する機会を得ました。

私にとっては、待ちに待った瞬間です。

というのも、兼ねてから日本の軽自動車のユーザーこそ、BEVに親和性があると考えてきましたので、その実力を早く試したかったからです。

サクラとeKクロス、基本的にパワーユニットや骨格となるシャシーは共用で、制御や内外装、細かい装備は、それぞれのメーカーが独自に開発したというクルマです。

そのパワーユニットは、三菱アウトランダーPHEVの後輪を駆動する総電力量20kwhのバッテリーとモーターの組み合わせを前輪駆動用にコンバートしたもの。
最高出力は47kw(64PS) 最大トルクは何と195Nm。

出力こそ軽自動車の自主規制のままですが、トルクはこれまでのガソリンターボエンジンの約2倍です。これだけを見ても期待が膨らみます。

一週間ほど先に乗ったのはサクラですが、結論から申し上げると、この2車、本当に素晴らしいクルマでした。

航続距離は両車共にWLTCモードで180km。実質150kn弱だという事は想像できますが、“軽自動車“という前提ですので全く気になりません。

日産サクラ 軽自動車らしからぬ走りの気持ち良さ

  • 日産サクラ

    日産サクラ

サクラを試乗したのは日産本社拠点の横浜近辺でしたが、試乗コースには敢えて急な坂道が多い、港が見える丘公園周辺の住宅街を含めた道が設定されていました。

満を持して、スタートです。

スタートしてすぐに、その加速の気持ちよさに安堵しました。唐突な加速感ではなく、アクセルペダルを踏んだ量だけ、きっちりと加速してくれたのです。減速もまた然りで、この加減速のフィールにおいて、数々の高価格BEVにひけを取らない上質な乗り味が実現されていたことに安心しました。

初めてBEVに乗る人がこの車なら、運転を気持ちよく感じてくれるでしょうし、自分の初めてのクルマであれば、運転自体を好きになってくれるに違いないと確信したのでした。

私が、日本カーオブザイヤーの選考委員になったキッカケは、ある自動車誌のインタビューで「CVTが日本人を運転嫌いにした」というテーマの記事を載せて頂いた事でした。

多くの日本のドライバーが最初に運転する機会が多い軽自動車とかとコンパクトカーは、非力なエンジンとCVTが組み合わせられることが多いのです。アクセルペダルの踏み込み量とシンクロしない加速(エンジンの音だけうるさいのに)、かつアクセルを戻した時に減速もしないそんなスイッチのON、OFFの様な制御のクルマに乗っていると、気付かないうちにストレスが溜まり、そのフィーリングしか知らないドライバーは、いつの間にか運転自体が嫌いになってしまう、という内容の記事でした。

当時は局のアナウンサーでしたが、熱く語った話が4ページにも渡り掲載され、驚いたのを覚えています。その記事を読んでくださった何人かのジャーナリストの方に声を掛けて頂いたのが、キッカケでした。

ですから、補助金を差し引くと、ガソリンの軽自動車と殆ど変わらない価格で買えるBEVが上質な運転感覚を提供できているかどうか、私にとってはとても重要なことなのです。

その意味で、本当に「良かった!」と声に出して呟いてしまいました。

サクラは坂道の多い、横浜の住宅街へ。途中急坂の信号で停止しなければならない場面に遭遇しましたが、軽自動車としては重いとはいえ、1tちょっとの車重に対して、2LNAのガソリン車に匹敵するトルクです。
ガソリンの軽自動車でしたら、発進する時にエンジンが唸るであろう、かなりの勾配の坂道での発進でもサクラは文字通り音もなく(実際はモーター音だけはしますが決して唸りません)涼しい顔で登り始めました。エンジン車の場合、あのエンジンが苦しそうに唸る音を聞いただけで不安になる人も多いでしょう。

思わず顔がニヤけます。
これは、凄い乗り物かもしれない…。

そんな思いを持ちつつ、横浜の坂の多い住宅街を抜け、今度は首都高速に乗ります。短距離の走行でしたので、ACCは試せませんでしたが、日産のプロパイロットですので問題は無いでしょう。

何より首都高速に合流する際にも、これまでの軽自動車でしたら首都高速名物の短い合流車線ではターボ車であっても気をつかいますが、サクラは、いつもの感覚でアクセルを踏むと加速しすぎる位で、余裕の合流です。しかもその加速が、アクセルの踏む量に対してリニアに反応してくれるので、気持ちが良いのです!

「これはゲームチェンジャーになるぞ」という気持ちが湧き上がって来ました。

エクステリアも設定色も含めて私の好みにピッタリです。シンプルな造形ですが、存在感も有り、人を威圧しない。
クルマを都市景観の一部として見た時に、頷ける造形や色なのは嬉しい限りです。

  • 日産サクラ インストルメントパネル

    先進的なメーター類とファブリックな表皮

  • ドア内張もファブリック

スピードなどの走行情報、ナビやオーディオを含めたインフォメーションはフルデジタル表示になっており、先進的で全体的に統一感がありクリーン。ドアの内張やダッシュボードはファブリックで覆われ、人を優しく包んでくれるような印象でした。

気になる事を挙げるとすれば、ECO、STANDARD、SPORTのドライブモードの切り替えスイッチが何故か右膝近くにあり、運転しながら見るのは困難な場所に設置されている事。もう一つは、運転席側のサンバイザー裏に付いているバニティーミラーが、助手席側には付いていない事、位でしょうか。

実はバニティーミラーというものは女性だけでなく、男性にとっても、必要な事が多いです。夫婦やカップルで乗る際に両側に付いている方が親切、というより最近は軽自動車でも必須かもしれません。ちなみに私が所有している軽自動車のジムニーには、両側にバニティーミラーが付いています(笑)。
万が一、鏡一枚の有無で、サクラを買うのをやめた、なんて事になったら勿体ないというものです。

  • 日産サクラ

そして価格ですが、上位グレードは約294万円で補助金を差し引くと(自治体によって変わりますが東京の場合)200万円を切る事になります。

これは上位グレードのガソリン軽自動車と、ほぼ同じと言って良いでしょう。
むしろ最近の上級思考の「高級」軽自動車と比べたら少し安い位です。

三菱eKクロスEV 充電時間が短い

  • 三菱eKクロスEV

    三菱eKクロスEV

  • 三菱eKクロスEV インストルメントパネル

    三菱eKクロスEV インストルメントパネル

さて、サクラに比べ価格が1万円弱安い、約293万円の設定になっているのが三菱のeKクロスEV。
基本的に運転フィールなどは同じで、やはり感心しました。こちらは首都高ではなく高速道路も走る事が出来ました。私が以前、住んでいた新浦安にあるリゾートホテルを拠点にした試乗会でしたので、湾岸線から東関東自動車道まで足を伸ばし、制限速度100km/hの区間では、高速走行時の安定性も試す事が出来ました。

その区間ではマイパイロットと銘打ったACCも問題なく機能し、100km/hでの余裕の走りも確認できました。やはり合流時には安心の加速です。実はこの加速感、この日試乗会におもむいた時に運転していた自車(2L4気筒のディーゼルターボ車、最大トルク400Nm)と同じ感覚で驚いたのですが、考えてみるとeKクロスの車重は約半分で最大トルクも約半分の195Nm。つまりトルクウェイトレシオは、ほぼ同じなのです。妙に納得してしまいました。

  • 三菱eKクロスEV 充電中

72%の状態から20分で94%まで回復

そして復路では、途中の市川PAで充電も試しました。急速充電器の筈が何故か4kwhしか出力が上がらず、困惑しました。それでもクルマ側の電力容量が小さいため20分で72%から94%まで、回復しました。

日本ではBEVと軽自動車の相性が良さそうだ

このクルマのサイズにこの電力量、というのは日本のドライバーの走行スタイルにフィットするのではないか、という事に気が付きました。大容量のクルマで充電した場合、回復量の少なさに絶望する場面が多い事は容易に想像できます。
確かに私の様に1日1000kmの走行が頻繁、というドライバーがもしBEVに乗り換えようとする場合、100kwh超の電力量で航続距離600kmという1000万円超のクルマを買わなければなりませんが、軽自動車にその航続距離を求める人はいないでしょう。

日本の多くのドライバーにとっての長距離運転、例えば都心から箱根までの片道100km弱のドライブだとしたら、目的地近辺で充電できれば日本の、脆弱と言われる急速充電器でさえ、通常30分で、一泊すれば200Vの普通充電器でも間違いなく一晩で満充電になりますので基本的には困る事はないと断言できます。

こうなると、少なくとも戸建てに住んでいる方で軽自動車購入を考えている方が、BEVの軽自動車を選ばない理由が見当たりません。

◎運転していて、特に加速はこれまでのガソリン軽自動車と比較したら異次元。

◎常に自宅で充電できる為、ガソリンスタンドに行く必要が無くなる。
その充電ですが、電力が逼迫する昼間ではなく電力需要が少なくなる夜間に充電すれば、電気代も節約できる上、電力バランスの均衡化にも寄与する。

◎そして災害時には蓄電池としても活用出来る。

更に言えば、今回eKクロスで充電してみて、近所のコンビニに急速充電器が設置してあったり、急速充電器が設置してある日産の販売店が近所にあったりする場合、このクラスのBEVであれば、自宅で充電できなくても運用は可能なのではないかとさえ思ってしまいました。

ちなみに、最新のある調査では、現状のエネルギー構成で環境負荷を最大限に減らす(CO2排出だけでなく他の大気汚染物質の削減も含めて)為には、日本の全ての自動車保有台数のうち40%がBEVになるのが最も効率的だそうです。
逆に言えば、それ以上BEVが増えても、かえって環境負荷が増える、という事です。そこで私が注目するのが、日本の軽自動車比率が40%だという事実です。

軽自動車を、これから購入する、という皆さん、まずは騙されたと思って、一度最寄りの販売店に行ってみて、これらのBEV軽自動車を試乗してみてください。

後席の足元がフラットなので広々としています

あ、最後にeKクロスEVの方には、助手席側にもバニティーミラーが付いていました!
(でも、エクステリアはサクラの方が好きだし…。)

  • 三菱eKクロスEV リア

以上、eKクロスEVでした。
もし私が、どちらかを購入しようとしたら、最後まで悩むでしょう。

そして軽自動車の老舗、SUZUKIとDAIHATSUは、この2つのBEV車を見てどう出るか。
これからのBEV軽自動車の進化がとても楽しみです。

安東 弘樹