新型フェアレディZを日産テストコースで試乗…安東弘樹連載コラム
大気の状態が悪く、天候が読めないと言われていた数日間で、新しい日産フェアレディZ(以下Z)の試乗会が北海道の陸別で行われました。
基本2日間の日程で、約5人ずつが一つのグループになり試乗をします。私のグループは陸別に入った夕方に車の詳細な説明のプレゼンテーションを受け、翌朝から試乗というスケジュールでした。
舞台は陸別にある日産の試験場のコース。
陸別は日本で最も寒い地域の一つです。ここで日産は冬期には氷上、雪上のテストを行いますが、冬期以外は、ドイツのニュルブルクリンクサーキットを模した(コース上の行き先案内板もニュル近辺の実際の案内板を模していてドイツ語で書かれています)テストコースで、様々な車両のテストを行うそうです。
私は初めて訪れたのですが、この試験場、全長は高速周回路、オフロードコース等、含めて16kmという走りがいのあるコース設計。
さて、そこを思う存分、新しいZで走る事が出来る試乗会ですので、テンションも上がります。
しかも我々のグループが試乗する日は快晴でした!
実際に走行するのは高速周回路と、カントリーロードと銘打った一般道を模したコースが組み合わされた12km程の長さの行程です。
初日に、車自体のプレゼンテーションを受けましたが、とにかく開発担当の皆さんの熱量が凄かった!(笑)。
勿論、全てのメーカー、全ての車種に関して開発担当の方の熱量を感じる事は多いのですが、ここまで熱いプレゼンテーションは初めてでした。
何しろ、原稿のような物を読む方は一人も、いらっしゃらず、話が長くなると広報の方が諫める、という事の繰り返しになっていたくらいです(笑)。
全てをここに書くのは無理ですが、まず今回のZのテーマは、「伝統と最新技術の融合」ということで個人的には見事に、それを具現化できたのではないかと感じました。
エクステリアについて
エクステリアに関しては私個人的には、文句のつけどころがありません。
フロントグリルの面積が大きすぎる、という意見もありますが、あの形状はラジエーターも含めて冷却には不可欠なデザインと聞きました。私には、機能美を感じるだけでなく、往年のフェアレディZ432や240Zのラリーカーへのオマージュにも見えて、純粋にデザインとしても美しく見えるのです。
色も黄色系のイカズチイエローや、かつての240ZGに設定されたグランプリマルーンへのオマージュの位置づけと思われる、バーガンディーなど、見事に伝統色を現代風に蘇らせているのが、Zファンの心を掴むこと間違いなしです。
伝統と言えば、今回のZの開発コードは「RZ34」、と旧モデルの「Z34」を踏襲しています。厳密に言うとフルモデルチェンジではない、というのが若干ややこしい事になっています。
理由は基本骨格を踏襲しているから、という説明でしたが、これまでも骨格が同じで「フルモデルチェンジ」と謳っているクルマは多数、存在していたので、これがむしろZ開発陣、そして日産の拘りなのかもしれません。
今回のプレゼン用の資料にも「クーペになったS30から数えて6代目」と書いてあります。
旧モデルのZ34と同じ6代目で、53年の歴史を刻んできた、という説明でした。
ただ、先代の3.7L,V6、NA「VQ37VHR」336PSのエンジンから、3.0L,V6ツインターボ「VR30DDTT」405PSエンジンに刷新されています。共通パーツは僅かに有るとはいえ、エクステリアは完全に違うものに見えます。、ユーザーの気持ちとしては、フルモデルチェンジと思ってしまって間違いは無いと思います。
4人のジャーナリストの皆さんと私は、5台が並んだ実車を目の当たりにし、口々に「カッコイイ!」を連呼してしまいました。
かつての名車を現代風にモディファイするのは、欧州メーカーが、これまで得意としてきた分野です。例えば、FIAT500やMINI、先日、生産終了となってしまいましたがVWビートル、アルピーヌもそうでした。先代、先々代のZ33やZ34はその点、デザインは悪くないのですが、個人的には、モディファイに成功したという評価は出来ないと思っています。
それだけに今回のRZ34を見た時には、思わず、完璧なモディファイだと唸ってしまいました。しかも、これまでのZに対して思い入れが全く無い、私の息子に写真を見せた所、「うわ!マジでカッコイイ」と呟くほどで、思い出というフィルターが無くても純粋にデザインに感銘を受けるというのは、デザイン、そのものが優れているという事の証なのだと思います。
その証拠に息子が同じ日産のGT-Rを見た時、「速いから良いけど、もう少しデザインが良ければなー」と言っていた事を思い出しました。私としてはGT-Rが復活して、とてつもない動力性能を有している、というだけで、無条件でカッコよく見えてしまいましたが、フィルターを持たない人が純粋に美しいと思えるデザインというのを具現化するのは並大抵の事ではありません。まずは、そこに感動しました。
インテリアについて
しかし、内装に関しては、もう少しZらしさが欲しかった、というのが本音です。
メーターは最新のフルデジタルディスプレイ式で、視認性が高いのは当然です。メーターフードは2連か3連の山形でかなと期待していました。しかし、普通の直線でしたし、ATモデルのシフトスイッチの形状は、他の日産ファミリーカーと殆ど同じでした。
Zのアイコン、ダッシュボード上の3連メーター(電圧計、ターボ回転計、ブースト計)は、アナログメーター式で、これは良かったのですが、特に正面のメインメーターはポルシェ911等を参考にして頂きたかったと思います。
開発担当の方に、“せめてシフトスイッチの上部に「Z」の文字を刻むだけでも雰囲気が出るのでは無いでしょうか“と提案したところ、「それは、出来ます!」と仰っていて、「もし変更出来るタイミングで、そうなっていたら安東さんの意見を参考にしたと思ってください!」と嬉しい言葉も頂きました(笑)。
シートはZ34と基本的に同じ物だそうで、MTのSTグレードとATのT・STグレードは前後と、リクライニングは電動、上下調整は前部と後部に分かれて、ダイヤルを回す手動調整。
これも650万円のSTグレードは電動でも良かったのではないか、と意見を申し上げた所、「とにかくシートを低く設置したかったので、上下調整のモーターを付けられなかった」との説明を受け納得しました。
さあ、お待たせしました!いよいよ走りの感想を、お伝えしましょう。
最初にドライブしたのは、ベースグレード「フェアレディZ」のMT。ホイールは、このクラスのスポーツカーとしては、やや小径の18インチが標準ですが、デザインも含めて、廉価版の残念な雰囲気は無く、十分に迫力が有ります。
サイズは前後同じ245/45R18。ボディの色はダークメタルグレーという渋いグレー。これはこれで、有りです。
私が5人の中で最初にスタートとなりました。
ワクワクしながらクラッチペダルを踏み、MTのシフトノブを1速に入れ、アクセルオンでクラッチを繋げると、ホイールスピンを伴ってスタートしました。
思わず笑ってしまいましたが、慌ててアクセルを少し戻します。
自分の愛車、ロータスエリーゼの感覚でアクセルを踏んでしまいましたが、Zのトルクはエリーゼの倍近い、という事を思い出して修正しなければならないほど、力強くスタートしてくれました。そのままシフトアップを繰り返し、スタート後の長いストレートで、ストレートエンドを迎える前に、あっという間にスピードリミッターに当たってしまったのです。
デジタルスピードメーターが186km/hを示したところでピタリと速度が固定されてしまいました。これは全モデルで同じ設定の様です。
メーターの誤差も考えると、恐らく180km/hで、きっちりとリミッターが働くのでしょう。
しかし安定しているので速度感が麻痺します。そのまま高速周回路に入るために右にターンするのですが、スピードを落とすこと無く、周回路に進入する事が出来ました。
思わず、また笑顔です。
そのスピードを暫くキープしていると、ドイツ語の地名案内が見えてきて英語のスローダウンの文字が見えてきます。高速道路(疑似の)を降りるとカントリーロードへ。今度はそのサスペンション、足回りの懐の深さを感じました。ロールは、しっかり抑えられていますが、不快な突き上げは少ない、という理想に近い味付けです。
カントリーロードの推奨速度は50km/h~90km/h、という日産の説明を受けていましたが、気付くと100km/hを超えてしまうので、メーターを確認しながらのドライブになりました。
それだけ安定していて速度感が希薄なのです。これは公道では気を付けなければならないな。と思わず声に出して呟いてしまった位です。
排気音も大きすぎず適度に入ってくる、と言いたい所ですが、普段エリーゼに乗っている私からすると、もう少し車内に音が入ってきても良いのでは無いかと思いました。ただ、同乗者の事を考えたら、これ位が良い塩梅なのかもしれません。
コース2週のあっという間の20分間の試乗が終わり、続いてステアリングを握ったのがSTグレードのAT(9速)モデルです。タイヤは19インチ。タイヤサイズは前255/40R19、後ろが275/35R19という異なるサイズです(手前が18インチ、奥が19インチ)。
このモデルではスタート時にローンチコントロールを試しました。
スポーツモードにセット、左足でブレーキを強く踏み、両側のシフトパドルを引き(プラス、マイナス)右足でアクセルを床まで思いっきり踏んで、6秒以内にブレーキとパドルを一気にリリースすれば、軽いホイールスピンを伴って、ロケットスタートです。
実は、この9速AT、海外市場向けのフルサイズピックアップトラック用のトランスミッションをZ用に少し味付けを変えて積んでいるそうで、元々重量が有るトラック用なので耐久性や信頼性は十分担保されている、との説明を受けました。納得です。
今回は試すことが禁じられていましたが、実はMTにもローンチコントロールは付いているそうなので、購入した方は試してみては如何でしょうか?!
STグレードの走りは、ベースグレードを更にシャキッとさせた印象で、私は19インチの方が好きでした。(本音を言えばMTのSTグレードに乗りたかったです)
しかし、他の方に訊いてみたところ、意見は真っ二つに割れました。18インチのベースグレードの方が乗り味に深みがある、と仰っていた方もいて、それには深く頷いた自分もいます。
しかも私が、もしZを購入する場合、リアのスポイラーが無い代わりに斜めに「FairladyZ」の文字が入る、ベースグレードを選ぶかもしれません(笑)
これもS30時代のオマージュで、見た瞬間に、これは良い!と膝を打ってしまいました。
パワーユニットを含めたパワートレインは、全グレード同じです。ベースグレードとVersion Sは、シート調整が全て手動になってしまいますが、価格を考えてもベースグレードはお買い得かもしれません。
ちなみにグレード別の価格は、
ベースモデル:5,241,500円(MT・AT共通)
Version S:6,063,200円(MT)
Version T:5,687,000円(AT)
Version ST:6,462,500円(MT・AT共通)
そして240台限定のProto Spec が6,966,300円(MT・AT共通) となります。
残念なのはProto Specを含めて受注数が予想を遙かに超えてしまい、7月末までで一旦、受注を停止する事が決まった事でしょう。
しかも受注再開は、未定だそうで、早くZに乗りたいという方は、暫くお預けになってしまいます。
価格が発表されたとき、高価過ぎる、という意見が多かったのは事実ですが、405PSのスポーツカーを524万円~650万円(特別仕様車以外)で買える、とうのは驚異的と言えるでしょう。
これもZ34の骨格を使うという判断の賜物かもしれませんし、正直、内装を見てもコストダウンの苦労が伝わってくる所もあります。
でも個人的には、実車のZを見た時、駐車場に停まっているだけで、クルマに対する知識が無い子どもでも、思わず振り返ってしまう日本の車は、本当に久しぶりだと思いました。
実際、あまりクルマに詳しくない俳優さんやタレントさんが、私がクルマに詳しいと知ると、新しいフェアレディZってカッコイイですね!と言ってくる事が多々、有るのです。
こんな事は久しぶり、というか初めてかもしれません。
それだけに現在の状況、半導体不足や紛争、コロナウィルス感染拡大などが悔やまれてしかたがありません。
でも、そう思わせる、新型フェアレディZ。
感慨深く、北海道を後にしました。
安東 弘樹
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