陸の王者ではなく女王の新型レンジローバー…安東弘樹連載コラム

新しいレンジローバーと初対面、初試乗してきました。

まず、結論。すべてにおいて、圧巻でした。
エクステリア、インテリアの佇まい、作りこみ、精度。そしてパワーユニットの洗練さ。

どこから話して良いか分かりません。
でも、お伝えしなければなりませんので、まずはエクステリアから。

エクステリア

  • レンジローバー フロント

    レンジローバー フロント

  • レンジローバー 鏡のような磨かれたボディ

    レンジローバー 鏡のような磨かれたボディ

鏡のように磨かれたボディに、歪みは全くなく、ドアとドアの隙間も精度が高いのか、映り込んだセンターラインが途中で途切れることなく直線に見えます。

私はかつて、某日本メーカー最高峰のクルマでさえ、僅かながら線がズレていたことを見つけてしまい、少しだけ残念に思った事があるだけにレンジローバーの製造、建付けの精度の高さに感服してしまいました。

もっとも、その日本最高峰のクルマに対して、そんな事を指摘していた方は皆無でしたが(笑)。

デザインはシンプルでありながら存在感はしっかりとあり、正にイギリスが得意とする「アンダーステイトメント」(ドラマティックなことを極めて控えめにさりげなく表現してみせること。)を体現していると感じました。

  • レンジローバー リア

    レンジローバー リア

特にリアから見ると、大きな平面を囲むように長方形の灯火類が配されており、まるでコンセプトカーの様です。他のメーカーにも見習ってほしいとさえ思ったのは私だけでしょうか。

インテリア

そしてインテリア。
こちらもとにかくシンプルですが、豪華、というより上質なしつらえです。

  • フロントシートからの眺め。クルマが起動していないときにスイッチ類が見えないようになっている。

    フロントシートからの眺め。クルマが起動していないときにスイッチ類が見えないようになっている。

  • インストルメントパネル

    インストルメントパネル

エンジンやシステムがONになっていない時はほとんどのスイッチ類は見えません。
これがとても心地よく、しかも車が起動するのと同時に必要最低限の機能の操作ができるようになり、その後から自分が操作したい機能が見えてくる、という仕組みです。

勿論、これは好みがわかれるでしょう。
最初から、スイッチ満載という室内が好きな方もいらっしゃるとは思いますが、“傾向として“そちらはアジアやロシアなどで好まれるようで、ヨーロッパでは、どんどん物理スイッチが減ってシンプルなコクピットがトレンドのようです。
個人的に私は完全にシンプル派と、お伝えしておきましょう。

  • ペルリーノセミアニリンレザーシート(ペルリーノインテリア)

    ペルリーノセミアニリンレザーシート(ペルリーノインテリア)

  • シンプルかつ上品な内装

    シンプルかつ上品な内装

それにしても室内の可動部は“全て“電動。
フロントシート調整は勿論、リアシートのポジション調整やアームレストの上げ下げ、サイドウィンドー内側に付いたサンシェードまで電動です。
レンジローバーで生活していたら、筋力が衰えてしまうのではないかと心配になる位です(笑)。

そうそう、これはエクステリアに入るのかもしれませんが、ドアのステップも電動で、しかも、今回のレンジローバーのステップは薄く作られておりロードクリアランスへの干渉は最低限、しかも薄い分、ステップの出入りが、とても速いのが特徴です。

しかもやはり、ボディ剛性が高いのは当然として内装の作り込み、建付けの精度が高いのか、ワインディングロードを走っていても、「ミシリ」とも「キコ」とも音がすることはありませんでした。

快適装備に関して皆さんが思いつくものは、まず間違いなく全て揃っています。

気になるその走りは…

さて走りに関してです。用意されるパワーユニットは下記の通りです。

  • 4.4LV8のガソリンエンジン(530PS/750Nm)
  • 3.0L直6ディーゼルエンジン・マイルドハイブリッド(300PS/650Nm)
  • 3.0L直6ガソリンエンジン+プラグインハイブリッド(440PS)と(510PS)の2種

このように多彩なラインアップで、それぞれのユーザーのライフスタイルや好みによって選ぶことができます。

私が今回、ドライブしたのはV8の「ガソリンエンジン」と「ディーゼルエンジン+マイルドハイブリッドモデル」の2種でした。

最初はディーゼルモデルでしたが、とにかくトルクが溢れんばかりで、軽井沢の上りのワインディングロードが、まるで勾配が無いかのように、グイグイ加速していくので、スピードメーターを慌てて確認したほどです。

そしてボディも室内も、ビクともしません。

2.6tの重さの車に羽が生えたように加速する様は恐ろしい程ですが、下品な加速とは違うので、正に静かに、気付くと驚くような速度に達しているという表現が、しっくりくるでしょう。

しかも燃費はトリップコンピューター表示で、下りの復路も含めてではありますが10km/Lを超えていました。

これも驚くばかりです。

興奮も冷めやらぬ内にガソリンモデルへスイッチ。
確かにディーゼルモデルよりも軽く、エンジンが回っているような気はしましたが、ディーゼルエンジンモデルの静粛性が、あまりに優れていた為に、むしろ排気音はディーゼルより勇ましく感じたほどです。
同じコースを走ってみましたが、やはりトルクの出方が素晴らしく、さらに軽く回るエンジンと相まって、同じような快適性でワインディングを上っていきました。

しかし、こちらはV8のガソリンで電動アシストは有りません。
ディーゼルと比べると、さぞ燃費は悪いだろうと思って、ディーゼルモデルと同様に、試乗スタートと同時にリセットしたトリップコンピューターを見てみると、8.7km/Lの表示。

勿論、多少の誤差はあるとは思いますが、マイルドハイブリッドのディーゼルエンジンモデルとの燃費差の少なさに驚きました。

燃料価格の差もあるのでランニングコストはディーゼルモデルの方に分がありますが、この車を購入する層には関係ないかもしれません。
しかし、最近はコストよりも環境負荷を考えるユーザーも増えていますので、それによって、選択をするユーザーも存在するでしょう。

そんなユーザーに訴求するのがPHEVモデルかもしれませんが、残念ながら今回、試乗車としては用意されておらず、そのポテンシャルを知る事は出来ませんでした。

スペックの詳細を知ることも叶いませんでしたが、本国の資料などによるとモーターだけで100kmは走る容量を誇るバッテリーによって、かなりの環境性能と動力性能を両立させているようです。

こちらも早く体感したいものですが、例の半導体不足やロシアのウクライナ侵略、新型コロナウイルス等の影響もあり、なかなかクルマが入って来ないとか、、、

実際にモデルによっては、一旦完売扱いで受注を止めているそうで、早い生産増加を待っている状況です。

ただ、モデルによっては、まだ注文を受けていますので、新しいレンジローバーが欲しい、購入したい、という羨ましい環境の方は急いだほうが良いでしょう。

価格はカタログ上、1687万円~、となっていますが、今回試乗した車はオプション費込みでディーゼルモデルが約2136万円、ガソリンモデルが約2487万円です。
もちろん、驚くほど高額なのですが、その完成度を目の当たりにすると、もはやコストパフォーマンスが良いとしか思えなくなってくるから不思議です。

都心部以外での住宅価格と言ってよい対価を払う価値は、十分にあるとは思いますが、コストをあまり考えずに、このような車を作れるメーカーを羨ましいと実感した試乗でもありました。

レンジローバーの試乗を終えて

レンジローバーでないとどうしても構築することのできない世界観。
それに圧倒され、また将来、その世界観を垣間見ることができるかどうかも深く考えてしまいました。

この世界観を知るには、ただ、この価格を払えるような収入を得るだけではなく、人間としての品格も身に付けなければならない、そんな気がしました。

そうすると私には難しいかもしれません。

でもほんの少しだけ、その一部を見せて貰っただけでも幸せな時間でした。
仕事も人間としての成長も、頑張るしかないですね!

安東弘樹

MORIZO on the Road