クルマと音楽…安東弘樹連載コラム

皆さんは、クルマを運転している時、音楽を聴きますか?

私は2シーターのスポーツカーに乗る時は、排気音などの様々な「クルマの音」を聴きたいので、ほとんど音楽を聴くことはありませんが、他のクルマに乗るときは、常に音楽をかけて聴いています。

先日、クルマで音楽を聴く「手段」が変わってきた事にふと気付いて、勝手に感無量になってしまいました(笑)。

今回は、私の過去の思い出もあわせて、クルマで音楽を聞く手段の変容について、お話していきたいと思います。

初めての愛車はラジオなしのカセットデッキから

私の初めての愛車は、中古のHONDA CITY TURBO Ⅱ。

時は1987年。そのクルマには社外品のオーディオが付いていたのですが、なんとカセットデッキだけで、ラジオが付いていませんでした(笑)。前のオーナーの拘りかどうか分かりませんが、元々、ラジオを聴く習慣が無かった私は買った時には気付きませんでした。

なんと半年ほど経ったときに、雨の情報を聴こうとラジオのスイッチを探したのですが、何処にも無い!まさかラジオが付いていないとは夢にも思わなかったのですが、その時はインターネットもあまり普及していなかった為、情報を入手出来ないことに焦りを覚えた記憶があります。最も半年も気付かなかった位ですから、実際は、その後もあまり困る事は無かったのですが…。

これが私の、クルマとオーディオの出会いでした。ちなみに何故かその当時は、カーステレオ略して「カーステ」と皆が呼んでいたと記憶しています。

今聞くと、恥ずかしいのは何故でしょう。まさに和製英語全開ですね(笑)。

その後、1991年のTBS入社直前、初めての新車を購入した時は、ラジオは勿論付いていて、カセットテープも標準装備でした。A面からB面への切り替えは勿論、オートリバース(懐かしい)でしたが、レコードアルバムを録音したテープは余白の時間があるので、A面が終ったら早送りをして、テープを終らせてから、B面に切り替えなければなりません。今考えると、何とも牧歌的な作業です。

大学の卒業旅行として、その新車の当時で言うクロカン4駆で中部地方1周の旅(本当は日本1周したかったのですが時間・予算的に無理でした)をしたのですが、アタッシェケース(アタッシュケースは間違いです)位の大きさのカセットテープケースをクルマに積んで旅に出たものです。

今流行りの車中泊もしながらの6日間の旅でした。一回一回、テープを替えながら聴いたカセットは、特にバラードなどの音が小さい曲の時に耳に入ってくる「サー」というノイズが私は好きではなかったのですが、当時はどうすることも出来なかったので、諦めて聴いていました。

しかし最近は、若い人がカセットテープを入れるときの「カシャ」という音や再生時のノイズが、むしろ「エモい」という事で、わざわざ自分のクルマのオーディオをカセットデッキに替える人までいるのです!

そうか、エモかったのか、あのノイズは!当時の私がそう思えるわけはありませんが(笑)。

そして意外と長かったカセットテープの時代から、カーステ(笑)は「CD」の時代へと移っていきます。

当然、クルマ以外のオーディオでは既にCDの時代に入っていましたが、私のクルマに初めてCDプレイヤーが付いたのは1992年に購入した、やはり別のクロカン4駆からでした。

カセットテープのようなノイズが無いことに感動はしましたが、一つ一つ、ソフトを替えなければならないのはカセット時代と変わりません。ただ、CDソフトをジャケットから出して、コンパクトなCDケースに入れる事が出来たので、カセットテープに比べて、音楽ソフトが占める車内のスペースを、格段に小さくできたことは嬉しかったのは確かです。

暫くラジオとCDプレイヤーの時代が続きましたが、次の変革は「CDオートチェンジャー」が付いた事でしょうか。私は6連奏のチェンジャーしか経験はありませんが、12連奏なんて物もあったと記憶しています。
いちいちチェンジャーのマガジンにCDを入れなければならなかったのですが、それでも便利になったなぁと感慨にふけったものです(笑)。

そして、その次に出てきたのは、そう、短命に終った「MD」です。

でもこれが私は好きで、デジタルの綺麗な音なのに、カセットテープと同じように好きな曲を録音出来る!しかもスマートに好きな曲を呼び出せるなんて!
早送り・巻き戻しが必要ないなんて、素晴らしい!と心から人類の叡智に感謝しました(笑)。
これでカセットと同じように、色々なCDから好きな曲を録音して自分の好きなプレイリスト(当時は、こんな呼び方はしていませんでしたが)を作ったものです。

ここまでは、音楽ソフトを直接プレイヤーに挿入して音楽を聴く、という時代でした。

私のクルマ歴では圧倒的に、このソフトを直接挿入して聴く時代が長く、1988年から30年以上、その時代は続きますが、ついに2019年、自分の1台のクルマから音楽ソフト再生装置が消滅し、今となっては使う人が少なくなった、「デジタルオーディオプレイヤー」を繋いで音楽を聴くようになりました。

しかし、自宅でPCを使い、そのプレイヤーに楽曲をダウンロードして、それをクルマで再生するため、半分は自分の好みが反映される音楽の聴き方とは言えるでしょう。

今も、このオーディオプレイヤーを使って音楽を聴いていることが多いのですが、その後の時代がついにやって来ました。

時は経ち、無限に音楽が聴ける時代へ

Bluetoothで繋がれたスマホ経由で、サブスクで無限に音楽が聴ける時代の到来です。

勿論、自分好みの曲を多く聴くことにはなりますが、同乗者の好みを訊いて、その場ですぐに再生出来るので、以前のような「準備」は一切必要ありません。

もはや音楽を聴くために必要な「物」すら必要のない時代になりました。
最近ではApple Car Play など、クルマのナビにサブスクアプリが最初からインストールされているものもあります。(スマホ連携要)

これは勿論、便利ではあるのですが、何だかこれまでの地道な作業が懐かしくなる時もあります。

例えば、好きな相手の曲の好みを訊いて、あらかじめその楽曲を録音しておいて、車で流すと相手がその気持ちに感動する、何てことは今後、無くなるでしょう(今もほとんどありませんが)。

逆に音楽センスに失望されるリスクも無くなりますが、音楽の好みが露呈することで、悲劇を「事前に」回避出来た可能性も否定できません(笑)。

ただ、面白いのは流石、保守的な日本人に合わせてか、今も日本車の多くにCDプレイヤーが残っている事です。輸入車では既に10年ほど前からCDプレイヤーが絶滅していますが、クルマのオーディオでもお国柄が出るのは興味深いですね。

さて、私は幸い?これまでのクルマのオーディオの歴史を全て経験してきました。

これは私にとって幸福な事で、全ての機器に郷愁を感じることが出来るのは勿論、全ての機器を操作できる、という訳です。

クルマの運転においても、1949年に販売が始まったシトロエン2CVの癖のあるMTの運転も楽しめますし、最新のEVも楽しく乗れます。オーディオで言えば、カセットテープからポータブルメディアプレイヤー、サブスクに至るまで、何の抵抗なく扱えて楽しめる。

もしかしたら我々の世代の「特権」かもしれません。まあ2CVの運転を楽しめる人は同世代でも希有かもしれませんが。少なくともオーディオに関しては、異論がある人はいないでしょう。

今後はクルマのオーディオが、一体どのように進化していくか、想像は出来ませんが、これからもクルマと音楽の関係は続くのではないでしょうか。

私も運転が出来る内は、その進化と共にクルマで音楽を楽しんで行こうと思います。

あ、将来は運転が必要なくなるかもしれませんね。そうなったら走るオーディオルームの様になるのでしょうか。でも、それは少し寂しいと思う安東でした。

安東弘樹

MORIZO on the Road