「こういうので良いんだよ、いやこういうのが良いんだよ。」新型シエンタに乗って感じたこと…安東弘樹連載コラム
これは、私が好きな「孤独のグルメ」の主人公、井之頭五郎の名台詞です。
高級レストランではない、庶民のお店で「普通の」食材を「真っ当に」料理して、美味しくした物を庶民価格で提供する。それを食べた時に、思わず出る言葉です。
先日、TOYOTAの新しい「シエンタ」に乗った時に、思わず私の脳裏に浮かんだ言葉でした。
いわゆるコンパクトミニバンであるシエンタが、フルモデルチェンジし、その試乗会に参加したのですが、私の予想に反し、良かったのです。
ちなみに何故、“予想に反して”と申し上げたかと言えば、正直テレビCMを観た時、疑問に思う事が沢山あり、全く期待していなかったからです。
新しいシエンタを小型犬に擬人化し、ペットのように扱う様なCMは、命を預ける「自動車」のCMとしては、あまりにも軽々しいし、クルマを運転するという事は、人の命にも責任を負う、と考えているため、このようなCMは以前から好きではありませんでした。
今回の試乗会でも、その事ははっきりと担当の方に伝えたのですが、「ペットの様に愛して欲しいから」という回答でした。クルマはペットではなく、命を預ける「道具」という大前提の元に、相棒やパートナー、という位置付けだと私は個人的には思っています。
話が逸れましたが、実際に乗ってみた所、「予想に反して」しっかりと「ペット」ではなく「相棒」、と呼ぶに相応しいクルマでした。
まずはエクステリアについて
まず全体のフォルムに塊感があり、ボディがしっかりしている事に感心しました。
細かい所で言うと、これまでのTOYOTAのミニバンで「1番」、と私は感じた程、スライドドアが厚いのです。
中身が全て鉄板、という訳ではありませんが視覚的にも、これまでのTOYOTAのミニバンとは一線を画す厚さで、それを支えるステーも、かなり頑丈そうに見えたのも安心材料です。
そして、その塊感がデザイン全体も魅力的に見せ、若干、細かい意匠は、フランスの某ミニバンを連想させるとは言え、破綻無く、上手くまとめられていました。
写真よりも本物の方が、愛らしくも逞しくも見えたのが嬉しい誤算?です。
インテリアはシートの作りそのものに好感
内装は、もう少し遊びがあっても良いかな、とは思いましたが、意外にスポーティーなステアリングに付いたスイッチを含め直感的に操作できる分かりやすい運転環境が具現化されていますし、収納も実用的。
それから、シートにも好感を持ちました。表面のファブリックの質感も良かったですが、何より、そのものの作りの良さです。
実は以前、某日本メーカーの某開発担当の方が、「我々はコンパクトカーやミニバンではシートアレンジを考えるのが優先で、シートそのものにコストを掛けられないのが現状です。」と正直に話して下さいました。
そんな中、シエンタでは、コストをどの程度掛けられたのかは分かりませんが、前席・後席共に、それなりに厚みもあり、90分間運転していても、腰がムズムズしてくる様な事はありませんでした。
また、ドアポケットに付いたカップホルダーも、様々な大きさの物に対応しており、運転の妨げにもなりにくい工夫がされていると感じました。
そして、本当に細かい事かもしれませんが、ハイブリッド車のシフトノブにも好感を持ったのです。
これまでのTOYOTAのハイブリッド車のシフトノブは、操作をするときに節度感が無い上に、ただつまめるだけの平坦な形状の物が多かったと記憶しているのですが、このシエンタのノブは、レクサスのそれに近く、キチッと握れる形で、操作感もあり、これは安全にも寄与すると思います。
シフトノブからシフトレバーになった、という表現が出来るのではないでしょうか。
ガソリン車に関しては、あまりにも古典的な「ガチャガチャ」とシフトポジションを移動させる、非バイワイヤーのシフトレバーで若干驚きました。
そのガソリン車を走らせてみました
何とマニュアルモード用のゲートが存在し、私は終始、そのゲートに入れっぱなしで運転していたのですが、これがCVTの疑似シフトチェンジらしからぬ、ダイレクトな「変速」をしてくれたのです。
しかも、疑似とはいえ何と「10速!」
これなら、シフトパドルが欲しい、とさえ思いました(笑)。
フル、ではないものの、主要部分はデジタルディスプレイになったメーターも見やすく、知りたい情報をすぐに呼び出せるのも美点です。
ACC等のADAS(運転支援)も一通りの物が備わっており、高速道路で全て試しましたが、お節介が過ぎる、という場面もあったものの、そのお節介度?も調整出来るとの事で、そこにも感心しました。
高速道路での安定性も車格を考えたら完全に合格点です。
これに関しては、担当の方が「今回、乗り心地と走行安定性の両立の為に敢えて15インチと、小径のホイールのみの設定にしています。」と仰っていましたが、それでも高速走行時に安定している、という自信の表れかもしれません。
そんな好印象を持って試乗から帰ってきて、改めてエクステリアを見たら、何と魅力的に見えるではありませんか(笑)。
完全に、今まで羨望の眼差しで見ていたフランスのミニバンの様に見えるのです!
走行安定性に関しては比肩出来ないと思っていた日本のミニバンが、ここまで来てくれた、と感じたからこそ、そう見えたのかもしれません。
実際に、そのデザインの力もあるのでしょう。
最近では、HONDAのステップワゴンのデザインに魅了されましたが、少なくともコンパクトセグメントのミニバンの「カタチ」に好感を持ったのは初めてかもしれません。
しかも走りの質感に好感を持ったからこそ、だと思います。
ただ、残念な事が二つ。
①テールゲートの開閉が手動のみ
これは価格帯を考えたら仕方が無いのかもしれませんが、テールゲートが全てのグレードで手動のみ。電動テールゲートはオプションでも設定がありません。
実は、様々なオプション「ギア(装備)」を説明して下さった女性スタッフが、「シエンタ」のテールゲートを何度も開閉しなくてはならず、その度に、悪戦苦闘している姿を見たからこそ痛感しました…。
私も、勿論、実際に開閉しましたが、一応「筋肉アナウンサー」のイメージが有る私でさえ、テールゲートを閉める際には、かなり力を要しましたので、小柄な女性の場合、少なくとも片手で閉めるのは完全に不可能です。
このクルマの想定使用状況は、お子さんの送り迎え、お買い物等でしょう。
例えば買い物を済ませ、荷物を持ってお子さんをクルマに乗せる際、まずは荷物を後ろのラゲッジルームに入れてからお子さんを乗せる事になります。
お子さんの手を繋ぎながら、テールゲートを開けて閉める必要があるのですが、手を繋いだまま閉めるのは、まず無理です。
両側のスライドドアは電動開閉で、更に足をクルマの下部にかざせば、開くシステム。ここまで備わっているのに、一番閉めにくいテールゲートが手動のみというのは残念、としか言えません。
②パーキングブレーキが足踏み式
もう一つが、パーキングブレーキが、これまた最近では、珍しい、足踏み式、という事…。
すなわち、坂道でのスタートアシストも不可能です。
オプションとはいえ、パーキングアシストまで用意されるのに、流石にこの時代に、足踏みパーキングブレーキというのは、いかがなものでしょうか?
と、TOYOTAのある広報の方も、仰っていました。勿論、誰が言ったかはイニシャルも書かないでおきますが(笑)
最後に実際の燃費を書いておきます
今回は首都高速道路走行(軽い渋滞含む)が70%、一般道走行が30%程度でした。
ハイブリッド車がトリップコンピューター上で22.5km/l
ガソリン車が、同、15.7km/l となっています。
私の経験上、コンピューター表示と満タン法による計測の誤差は、大体10%位ですので、ハイブリッド車が実質20Km/l、ガソリン車が14km/lという所でしょうか。
良くも悪くも驚きはありませんが、最新のクルマとしては、もう少し伸びて欲しいというのが正直な感想です。
ただ、総合的にはしっかり使えて、家族と楽しく走れるミニバンという予想以上の印象を持ちました。
色も先代とは異なり、アースカラーが中心で町にも自然にも、うまく溶け込むのではないでしょうか。
日本独特の「コンパクトミニバン文化」も悪くないのかもしれない。
「こういうので良いんだよ。いやこういうのが良いのか。」
そんな事を考えながら、ロータス・エリーゼに乗って試乗会場を後にしました。
安東弘樹
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