ユーザー版日本カーオブザイヤーの必要性

日本カーオブザイヤーの選考の時期が近づいてきました。唯、選考にあたって、ここ数年本当に頭を悩ます事が増えました。

何しろ、クルマの心臓にあたる、パワーユニットの種類も、あまりに増え、クルマのコンセプトも多様化し、ユーザーがクルマに求める内容も多岐に渡るようになってきたからです。

パワーユニットだけを見ても、ほんの10年前までは、少なくとも日本においては、せいぜいガソリンかディーゼルかハイブリッドかの3種類位しか存在せず、車の良し悪しは、多少の好みや評価基準の違いは反映されるものの、例えば選考委員の中でも、ある程度は絞られたのだと思います。

ところが今やパワーユニットだけを見ても、ガソリン、ガソリン・マイルドハイブリッド、ガソリン(ストロング)ハイブリッド、ディーゼル、ディーゼルマイルドハイブリッド、ガソリン・プラグインハイブリッド、純電気自動車(以下EV)、など、多岐に渡り、恐らくもっと詳細に挙げれば種類は書ききれなくなるでしょう。

ま、ハイブリッドシステムだけを見ても多種多様で、クルマに詳しくないユーザーは、さぞ混乱しているに違いありません。

恐らく、多くの販売店は、詳しい説明を割愛して、「ハイブリッド車です!」とアピールしているであろう、という事は容易に想像できます。

これは批判している訳ではなく、当然のことだと理解しているつもりです。

この多様化している車を同じ土俵に上げて評価をするのは、そろそろ限界なのではないかと、最近は考えるようになりました。

かと言って、EVオブザイヤー、PHEVオブザイヤー、と細分化するのも、クルマの本質を評価する、というポリシーからは遠くなるという現実も理解しているつもりです。

しかし、どうにも難しいのです。

特にテクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーやパフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー、等の部門賞に関しては、EVのパフォーマンスに内燃機関のクルマが敵わなくなってきた昨今、それこそ、どのように評価してよいのか…。

その評価を完全にユーザーから理解して頂くのは不可能に近いでしょう。
またEVに関しては環境負荷に対しても賛否が分かれるようになってきていて、これも評価が非常に難しいところです。

私はシティーコミューターとしては非常に高く評価していますが、それこそ大きな出力を有するSUVタイプのEVに関しては、環境負荷云々の前に安全上も含めて、今の時代に必要なのか、その存在意義まで疑問に思う事もあるのが正直なところです。

勿論、EVでも大きくてパワーのある車を必要とするユーザーが存在するのは確かですし、そんなユーザーからすれば、素晴らしいクルマ、という事になるのも理解できますが、それを手放しで評価して良いのかも悩むところです。

これまでの内燃機関のクルマであれば、その類のクルマは燃費が悪く、環境負荷は「純粋に」高い、という判断ができたのですが、EVの場合は、その判断も難しくなります。

またユーザーの価値観も多様化して、子どもどころか大人まで、「自動車」と聞いて思い浮かべるクルマの種類も今や、人によって異なるのではないでしょうか?

例えば子どもだけで考えても、「自動車」のイメージは、1980年代以前はガソリンで走るセダンが圧倒的に多く、その後はハイブリッドのハッチバックやミニバンが主流になった様ですが、今は、一人一人の子どもによって「自動車」のイメージはバラバラなのではないかと思います。

そんな事一つとっても、評価の難しさを表しています。

それから、経済格差の問題も評価を難しくしていると個人的には思っています。

1億、総中流の時代であれば、それこそ「中流」と言われる層が購入するクルマの中での評価ができますが、そんな日本でさえも近年、欧米並みとは言えませんが、格差が広がっている中、200万円のクルマと1000万円を超えるクルマを、どのように評価すればよいのか。

2年連続で輸入車が日本カーオブザイヤーに選ばれた時のネットの反応は、殆どがネガティブなものとなり、しかも辛辣な意見が大半だったのが印象的で、良く覚えています。私の記憶では8割以上がネガティブな意見でした。

私は、それらのクルマをイヤーカーに選んだ訳ではなかったのですが、高評価であったのは事実で、2番目の得点を入れたのですが、他の選考委員も、同様の方が多く、結果総得点が最も高くなったと記憶しています。

様々な価格帯で、そのコストパフォーマンスを考えれば良いのでしょうが、これも、また環境負荷という評価基準が年々重視される様になってきている為、コストを掛けられる高価な車の環境負荷が低い場合、そのコストパフォーマンスについてでさえ、どのように評価するのが適切なのかという問題も生じてきています。

語弊があるかもしれませんが、これまでは、低価格のクルマの方が高価格のクルマより、環境負荷は低い場合が多く、ある意味公平に評価をする事が出来たのですが、最近は、逆転現象も起こっており、さらに評価を複雑にしています。

もっと気楽に、「良い!」と思えるクルマを評価すればいい、という意見もありますが、それでなくても日本カーオブザイヤーのプレゼンスが低くなっていると言わざるを得ない昨今、更に真摯に真剣に選ばなければ、その傾向に歯止めがかからなくなるのは必定です。

そもそも、このような章典など必要が無い、と言われて返す言葉が無くならない様にするためにも、クルマに対する経験値が高い方が多い選考委員が、少しオーバーですが命がけで車に向き合う必要が更に増していると私は感じています。

その上で私が、こんな事を申し上げるのは、矛盾するかもしれませんが、選考委員が選ぶクルマと同時に、日本カーオブザイヤーの事務局が主催して、全ての日本在住ユーザー(もっと言えば自動車ユーザーでない人も含めて)にアンケートを取り、純粋な人気投票を行い、それを併せて発表するのも良いのではないかと、個人的には考えています。

一般ユーザーに対してはカーオブザイヤーにノミネートされた車の内外装の写真や機能などをわかりやすく表示した投票画面であれば、デザインだけで選ぶ方もいれば、スペックで選ぶ方もいらっしゃるでしょう。

選考委員と一般ユーザーの選考の違いが、どれくらいあるのか、また実は一致するのか、考えただけでもワクワクします(笑)。

この多様化した時代に、一般ユーザーが、どのような車を評価するのか、選考委員やジャーナリスト、更にメーカー、インポーターも知った方が、更に日本の自動車の発展に繋がると私は確信しています。

これまでも雑誌やWEB媒体、SNS上、毎に同様の投票は存在していましたが、どうしても、その媒体毎の特色が出てしまいます。

それを排して、自動車に興味が無い方にも簡単に投票して頂けるようなフォーマットを作り、各ポータルサイトに投票を呼び掛けるだけでも、かなりの数の票が集まるのではないでしょうか。

これはあくまで個人的な考えですが、あえてこうして公にする事で皆様のお考えも知りたいと思います。

日本カーオブザイヤー、選考委員版
日本カーオブザイヤー、ユーザー版

この二つを同時に発表することで、そのプレゼンス自体が向上すると私は考えています。

ユーザー版も自由に、その理由を書き込めるようにすれば、それこそメーカーやインポーターにとっても貴重な意見を知る機会になるのではないでしょうか。

現状では、得られる情報というのは、それぞれのメーカーに接触があるユーザーの意見が大半を占めていると思いますが、「街で見かけて、素敵、と思っていた」などの意見をクルマの送り手が知る意義は深いと思います。

あ、自分の選考を楽にする為の提案ではありませんよ(笑)。

日本の基幹産業である「自動車」の発展を心から願うばかりです。

安東弘樹

MORIZO on the Road