日本車とドイツ車の違い…安東弘樹連載コラム

日本で人気の輸入車と言えば、やはりドイツのクルマという事になるでしょう。
雑誌、Webサイトなどで、どちらのクルマの方が良いか?好き?等の議論が白熱しますので、日本車とドイツ車は宿命のライバルなのかもしれません。そこで、日本車とドイツ車の違いについて、最近試乗したトヨタ クラウンとVW T-ROC Rで考察してみました。

私個人的には、どちらが良い、という観点は無く、でも決定的に違う、という感覚を持っています。これまでの所有車の中では、若干、ドイツ車の方が多いのですが、本当に「違う造り」という言葉が、一番、しっくりします。
そんな事を痛感したのが、一ヶ月ほど前、TOYOTAの新しいクラウンの試乗会に参加した3日後にVWのT-ROC Rの試乗の機会を得た時でした。

まずクラウンですが、乗ったのは、今後に掛けて全部で4種類、展開される、クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートの内の、クロスーバーでグレードはG アドバンスドレザーパッケージ。2.5LのNAエンジンに新開発の「バイポーラ型、ニッケル水素電池」を搭載したモーターで駆動もする、所謂シリーズ・パラレルハイブリッド車。

ちなみにスペックはエンジン単体で186PS 221Nm フロントモーター202Nm、リアモーター121Nmです。「システム出力」は公表されていません、担当の方に訊いても、そこは特に出していない、との事です。

そして今回のクラウンは初めての「FFベース」の4輪駆動、という事もお伝えしておきます。カテゴリーとしては、文字通りのクロスオーバーに分類されると思いますが、他のグレードを考えるとSUVというくくりにしても問題は無いと思います。

私は、スタイリングに好感を持ちました。歴代クラウンとは一線を画す、見事なプロポーションで「美しい」、とさえ思いました。内装は明るいベージュで私が最も好きな内装色なので、とても落ち着き、シートも悪くない。

インパネやコンソール部分のデザインが若干、ゴチャゴチャしており、手に触れる部分の質感が、もう少し高い事を想定していましたので、プラスチック類の素材や使い方などに工夫があればと思います。また後席に荷物を積んだ際にドアを閉めた時の音が、バタン!という高級車らしからぬ音で拍子抜けしたのですが、試乗会スタッフ(メーカーの方ではない)が、「これはオートクロージャー(半ドアの時に自動的にドアが閉まる機能)ですので静かにドアを閉めて頂いても問題はありませんよ」と私の心の内を読んだような助言を頂きました(笑)。

さて走り出します。高速道路に乗る前の低速域では、ハイブリッドの制御の緻密さや、そのブレーキタッチの自然さに感心して、その辺りから、私の混乱が始まりました。ここまで読んで頂いた方も、お気づきかもしれませんが試乗が始まって、すぐの、ここまでの段階で、ポジティブな感想とネガティブな感想が交互に襲って来るのです。

混乱しつつも高速道路に乗り、合流レーンで加速した時も、必要にして十分の加速性能、という感覚と、いや待て「この試乗車は570万円+オプション価格だぞ。だったら、もっと胸のすく様な加速感が無いとダメなのではないか?」と混乱が続きます。交通量が若干多い首都高速から空いている横浜横須賀道路に入り、制限速度内で巡航している時には乗り心地も良く、フラットライド感に感心しながら運転していたのですが、気になったのが遅い車を追い越す時などの加速時(エンジン高回転時)にフロアに伝わってくる振動でした。フットレストに乗せた左足がビリビリする感じです。

その二つのショックも癒えぬうちに?高速道路を降りて湘南の住宅街を抜ける登坂路でもトルク不足を感じて、またしても混乱。別に遅い訳では無いのですが、グイグイ力強く上っていく、という感覚が無い…。
一方で、日差しが強い日だというのに、ベンチレーターが付いたシートは快適だし、高速道路から退出路のきついコーナーでは、ライントレースが気持ち良く、破綻無く曲がってくれました。でも高速道路をビターっと吸い付くように走る感覚は希薄…。

私の心は、モヤモヤしていました。決して不快では無いのに、何か引っ掛かる、といった状態でしょうか。確かによく出来た、またデザインも含めて所有欲も満たす、おもてなし満載のクルマである事は間違いありません。

VW、T―ROCですが、価格的に比較するのは(643万円)Rというスポーツグレードが妥当だと思います。こちらは2L、4気筒ターボエンジンに4MOTIONと名の付いた4輪駆動システムが組み合わされているコンパクトSUV。エンジンの最大出力は300PS、最大トルクは400Nmと、コンパクトな車体を十分以上に速く走らせます。

実際に高速道路を走ったときの加速力と盤石の直進安定性は、「流石、ドイツ車」と唸らずにはいられませんでした。岩のような剛性感に満ちた車体で、これなら200km/hの巡航も余裕でこなしてくれるでしょう。高速域のコーナリングも盤石で、不安感は微塵もありません。

しかし、低速域では若干、固さを感じるのも確かですし、ゆったりとした乗り心地は期待できません。不快な突き上げがある訳ではないのですが、高速域では、あんなにも安定しているのに、何処か落ち着かない、というのも正直な感想でした。

シートは黒一色で、スポーティーで良いのですが、前席(運転席、助手席)にシートヒーターは付いているものの、600万円を超える価格にもかかわらず、電動シート調整は運転席だけで助手席は手動調整。クラウンには装備されているベンチレーターはオプションでも用意されません。装備という意味でクラウンに見劣りしてしまいます。

しかしドアの剛性感、開閉時の音も含め、気密性などは明らかにT-ROCに軍配が上がります。

クルマ、というモノに対する考え方の違いを、短期間に両車に触れる事で実感する事が出来ました。ある程度のスピードまでで、ゆったりと移動の空間を快適に過ごす事に特化した日本車と、長距離を高速度で、圧倒的な安定感を伴って運転自体を楽しみながら、違う方向で快適に過ごす事が出来るドイツ車。本当に笑ってしまう程の違いです(笑)。

実は今度のクラウンは日本専用ではなくグローバル展開する、という事で、このクラウンが、他の国々で、どう評価されるのかが楽しみで仕方がありません。

ちなみに燃費はそれぞれ高速道路を中心に走って、クラウンは20km/L弱、T-ROC Rは15km/L前後、といった所でした。

燃料はクラウンがレギュラーガソリンで、T-ROC Rがハイオクですので、ランニングコストはクラウンに大きなアドバンテージがあります。高速道路を走る機会が多く、かつ、その中でも長距離走行する方は、高速走行時の疲労が少ないT-ROC R、そうでないなら、クラウンが良いと思います。

ただし、クラウンには、もう一つのパワートレーン、2.4Lターボエンジンと後輪に搭載したeAxleを組み合わせた新開発のデュアルブーストハイブリッドシステムを採用したRSグレード(640万円)があります。スペックはエンジン単体で272PS 460Nm、フロントモーター292Nm、リアモーター1691Nmと試乗したGを圧倒していますので、RSに乗ったらクラウンの印象が変わるかもしれません。

クルマ造りの根幹は変わらないとは思いますが、グローバル展開する新生クラウンの神髄を、このグレードで再確認するのを楽しみにしています。

それにしても部品サプライヤーが、これだけグローバル化しても、完成したクルマは、しっかりと、お国柄を反映しているのに、改めて感心しました。

みんな違って、みんな良い、これが核心かもしれませんね。

安東弘樹