私の評価基準(日本カー・オブ・ザ・イヤー2022-2023)…安東弘樹連載コラム

2022年12月8日、2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤーが発表されました。

カー・オブ・ザ・イヤーは『日産サクラ/三菱ekクロスEV』。K CARオブ・ザ・イヤーも受賞し、二冠達成となった。

  • 左から日産サクラ/三菱ekクロスEV

  • インポート・カー・オブ・ザ・イヤーは『ヒョンデIONIQ5
  • デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーは『BMW iX
  • テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーは『日産エクストレイル
  • パフォーマンス・オブ・ザ・イヤーは『ホンダ シビックe:HEV/シビックタイプR

に決まりました。

驚いたのは改めて授賞ラインアップを見ると“6部門中4部門がBEV(バッテリー電気自動車)”であった事です。

特にカー・オブ・ザ・イヤー(以下COTY)を軽自動車が授賞したのは初めて、しかもK CARオブ・ザ・イヤーとの2冠となりました。

ちなみに私は、ヒョンデのIONIQ5に10点を付けたのですが、理由は、このコラムに書いた通りで、COTYのサイトにも書きましたので、読んで頂ければ幸いです。

ただ、少し残念なのは、相変わらずCOTYに対して、選考委員が忖度ですとか、何かクルマの魅力以外で決めているのではないかとの見方が根強くある事です。
しかし、クルマ好きを代表して、そんな選考委員は少なくとも現在はいない、と思います。

私が得点を入れたクルマとその理由

私が今回、「IONIQ5」を評価したのも、純粋にクルマ好きとして、何と言っても運転が楽しい事、動力性能やデザイン、実質航続距離、装備、※V2Hや※V2Lにも対応させてきた努力、圧倒的なコストパフォーマンス、更に充電性能などを実体験しての結論でした。(※V2H:Vehicle to Home クルマから家への電気供給・※V2L:Vehicle to Load クルマから電気機器への電気供給)

更に2番目の得点を入れたのが、「日産サクラ(以下サクラ)/三菱ekクロスEV(以下ekクロス)」。これも運転が楽しかったことが最大の理由です。この3車種は、環境負荷を考える前に、運転していて笑顔になってしまったのです。

私の評価基準は「運転が楽しく、乗っていて幸せな気持ちになる事」ですので、正にそれに合致した結果の評価でした。

笑顔という意味では、勿論、「日産フェアレディZ」と「CIVIC TYPE R」も同様でしたので得点を入れさせて頂きました。この2台も運転していて楽しかったのは言うまでもありません。

しかし、内外装や装備にまで宿る新しい価値の提供と、これまで経験したことの無い爽快な加速感等で、BEVに高得点を付けていた、という感覚です。

勿論、例えば「サクラとekクロス」にも欠点というか不安に思う事もあります。
両車共に軽自動車用の安全基準のままですが、両車の実重量は1100kg弱と普通自動車のコンパクトカー並です。トルクに至っては195Nmと2LクラスのNAエンジン並。

それでも衝突試験などは軽自動車と同じ基準で行われますので、これで“安全”と判断して良いのか(これは日産V35 GT-R開発の水野和敏さんが言っておられました)も素人の私には判断できません。

加速が良いだけに万が一、加速している状況での衝突時の衝撃は、これまでの軽自動車の比では無い事は想像出来ますし、新たな基準を考えた方が良いでしょう。

実際に、特に幅が広いIONIQ5は、4WDモデルが、605Nmという一昔前の6Lエンジン並みのトルクである事も考えて、この位のボディサイズで安全を担保したそうです。(実際はデザインや他の要素もあります)

また、そのIONIQ5に関しても、販売店が無い事へのユーザーの不安を完全には払拭できない可能性もありますし(実際のユーザーからはほとんど不満の声は無いそうですが)、修理などを行う契約工場の満足度も現状、未知数です。

それからバッテリーやモーターの劣化などのデータも、諸外国では既に1年以上の販売実績があるものの、数年先にならないと十分なデータは取れないと思われます。

この様に、数年先への不安は否定できないものの、現段階でのユーザー満足度は両車ともに高いのは確かです。

私も、まだ完全に答えの出ないBEVの環境負荷の高低を考えた上で、メーカーの国、ましてやメーカー、インポーターの方々などへの配慮を完全に排し、「純粋にそのクルマ単体が楽しいか、幸せな気持ちになるか」という自分の評価基準のみで考えた結果の採点である事を改めてお誓い申し上げます。

以前も申し上げましたが、実際に私は、選考委員の中で最もメーカー、インポーターの方との交流が少ないと断言出来ます。(良いか悪いかは分かりませんが)

BEVの環境負荷について

それでは、改めてBEVの環境負荷についてお話しします。今回多くの選考委員がサクラ/ekクロスを評価した理由として、“軽自動車ならではの利用環境の範囲に於いて、現実的に最適なバッテリー容量により、充電に対しての負担が軽い”というのを上げていました。

これも以前のコラムで書きましたが、BEVを昼間に仕事や送り迎え等の用途に使い、夜間に充電すれば、様々な負担が軽減されます。電気というのは電力需要が短時間に集中するよりも平坦に需要が推移した方が効率的で、だからこそ夜間の料金が安くなるのですが、そのバランスを取れるBEVの「過度では無い」夜間充電は電力需給のバランスの観点からも理に適っています。

これが大容量バッテリーのBEVですと、夜間だけでは充電時間が足りず、日本のSA等での今の急速充電インフラでは経路充電もままならず、まだ現実的な運用は難しいと言わざるを得ません。(その日本の急速充電器へのローカライズもIONIQ5は優れていました)

そこを軽自動車規格で、日本にフィットしたBEVを少なくとも補助金込で現実的な価格で提供してきた事を多くの選考委員が評価した、という事だと思います。

これで、ステアリングに回生量(力)を変えられるパドルが付いていたら、私も最高点を付けたかもしれませんが、走行モードスイッチが運転席右下にあり、走行中に変えるのが困難だったことが私にとっては、若干の減点材料になりました…。

今年のカー・オブ・ザ・イヤーを終えて

それにしても今回のCOTYは、ノミネート48車種の中に8種類のパワーユニットが混在し、価格も100万円未満のグレードがラインアップされるSUZUKI アルトから3700万円(乗り出しは恐らく5000万円近くになるでしょう)のフェラーリ296GTBまで、とにかく同じ基準では比較できないクルマを評価しなければならない状況でした。

来年は、どのようになるのか、たった1年後を予想するのも困難になっています。

実際に昨年末に、COTYの4部門がBEVになる事を予想していた人は、あまりいなかったのではないでしょうか?

既にヨーロッパでは、その傾向が顕著だったものの、日本では、もう少し先になるのではないかと私自身も思っていました。

ただ、日本でのBEVのシェアは1%未満です。これが来年、どうなっていくのか。COTYを取った「サクラ/ekクロスEV」も改善されたとはいえ、まだまだ供給がスムーズに出来ている訳ではありません。本当の意味でのゲームチェンジャーになるかどうかは供給体制が整うかにも掛かっているでしょう。

実はBEVの授賞は2回目ですが(2011-2012COTYで日産リーフが授賞)1回目の時とは意味合いが違うことに異論を挟む方はいないと思います。前回は、その志に敬意を表して、という理由であったと考えられますが、今回は実用的に薦められる、という意味での授賞となっています。

そういう意味では、実質、初めてのBEV、しかも初めての軽自動車(規格)の授賞と言って良いでしょう。

改めて、読者の皆様もCOTY受賞車、「日産サクラ/三菱ekクロスEV」を実際に見て、触れてみて、乗ってみて、ご判断頂ければと思います。

さて、次回、私が選考委員であるかは分かりませんが、もし続けられていたら、更に悩む覚悟を今からしておきます!

(写真:日本カー・オブ・ザ・イヤー)