BMWi7、ATTO3、テスラモデルYなどに乗って感じたこと…安東弘樹連載コラム
先日、JAIA(日本自動車輸入組合)主催の輸入車試乗会に参加してきました。
各輸入車メーカーのインポーターが自社の最新輸入車を揃え、ジャーナリストや媒体を集めて試乗する機会を与えてくれる、という毎年恒例の会です。
参加メーカーは14社ですが、ブランドは21種類(ブランドの数え方によって前後します)。合計63台の輸入車が大磯ロングビーチの大駐車場に勢揃いしました。
その中から一人5台のクルマを選び、試乗する事になります。
クルマ好きとしてはポルシェGT3やケイマンGT4 RS、ランボルギーニ ウラカン STO等にも乗りたかったのですが、ジャーナリスティック?にクルマを選ぶ事を考え、これまで試乗したことが無いクルマを中心に5台を選びました。
その選んだ5車種は、以下の通り。
- BMW i7 xDrive60 Excellence(以下i7)
- BYD ATTO3(以下ATTO3)
- BMW ALPINA XD4(以下XD4)
- FIAT 500e(以下500e)
- Tesla Model Y(以下モデルY)
自分でも驚いたのですが、上記の基準でクルマを選んだ結果、なんと5台中4台がBEV(バッテリー電気自動車)になってしまったのです。
それもそのはず?今回用意された63台の内、最も多かったのがBEVで23台。ガソリンが17台、ディーゼルが6台。残りがFCV等の他のパワーユニットという構成になっており、改めて輸入車メーカーの電動率の高さを実感しました。
日本市場向けのラインアップでさえ、この様になるのが驚きです。
しかもエンジン車の多くはスポーツブランドのポルシェやランボルギーニ、ALPINA等のクルマで、それを除くと、多くがBEVという現状を目の当たりにし、改めて世界の流れを感じました。
ただ、ヨーロッパなどでもウクライナ情勢も含めてのエネルギー不安から、BEV一辺倒では無くなっていますので、今後の自動車のパワーユニットに関しては、混沌としてきているのも事実です。
実際に試乗した印象
では、それぞれのクルマの印象を、お話ししましょう。
〇BMW i7 xDrive60 Excellence
最初に乗ったのは、BMWのフラッグシップBEVのi7。一言で申し上げると“圧倒的に未来のクルマだった”と言ったところでしょうか。ドアは、ハンドルを引くのでは無く、ボタンを押すと自動で開き、シートに座ってブレーキを踏むか、ダッシュボード、ドア側にあるドアマークに触れると静かにドアが閉まります。そう、「ヨイショ」という動作は何一つ必要無いのです。
スタートボタンを押して起動。ウェルカムサウンドが鳴り、クリスタルで出来た小さなシフトノブを手前に引くとDに入り、あとはアクセルペダルを踏むだけ。詳細は省きますが、走行中もステアリングに手を添えていれば、ほぼクルマが制御してくれます。しかし、ひとたびアクセルを踏み込むと、544馬力745Nmのモーターが滑らかに、振動も無く、チューニングされた電子音を伴って、恐ろしい加速を始めます。
航続距離は650km。勿論、カタログ値通りには走らないのは当然としても、クルマに乗り込んだ時に94%の充電量で走行可能距離が400km程度の表示になっており、正直、少し失望しました。しかし60km前後の行程の試乗を終えて帰ってきたら、何と走行可能距離が420kmに増えていたのです。
西湘バイパスから箱根新道の勾配のある登り坂を上がり、どんどんバッテリー残量が減っていくのかと思いきや、想定より減りは緩やかで、むしろ帰路で箱根新道を下っている時には、みるみるバッテリー残量と航続距離が増えていきました。結果、出発時より航続距離が20km以上増えていた、という不思議な状況になっていたのです。BEVならではの特性だと言えます。
ずっと空中を浮いている感覚で気持ちは良いのですが、運転支援が優秀なだけに、あまりの心地よさに眠くなってしまうのでは無いかと心配になりました。
そして極め付けは、駐車システムです。最初にクルマが停まっていた場所を記憶していて、その場所から200m以内に近づくと自動駐車のアイコンが現れ、それをタップすることで、あとは自動で駐車位置に停めてくれます。
実際に体験しましたが、駐車位置に人が近づいてきたので、駐車途中でクルマが止まってしまいました。それが無ければ間違いなく所定の位置に停めてくれたでしょう。これまでの自動駐車とは一線を画す「使える」機能であった事を、お伝えしておきます。
〇BYD ATTO3
続いてはATTO3。まずエクステリアですが、印象としては、TOYOTAの新旧ハリアーとVW ID.4を足して3で割ったような極めて保守的な形状で、あまり心が「ときめかなかった」というのが正直なところでした。しかし、クルマに乗り込んでみると、まるで違うクルマのように新しい意匠に溢れており、ワクワクしました。
素材に新しさはありませんが、デザインの力で安っぽさはありません。手が触れる箇所は全てソフトパッドになっており、プラスチック剥き出しの部分も殆どありません。しかもドアポケットにはギターやベースの弦をモチーフにしたカバーが付いており、実際に音が鳴ります(笑)。
シフトレバーはガンダムの操縦桿風?でテンションが上がりました!縦、横が変えられるモニター画面も楽しく、室内の雰囲気はまるでイタリア車の様です。
走ってみると310Nmと十分なトルクで軽快に加速してくれました。直前に乗ったi7のトルクが745Nmでしたので、さぞ、物足りなく感じるだろうと思いましたが、BEVの特徴として絶対的な動力性能がなくても加速感がダイレクトな分、エンジン車よりスペックの違いを感じにくいのかもしれません。
低速域で「ブーン」という音を敢えて出しているらしいのですが、室内で聞いていると若干、不快で、これはすぐにでも無くして欲しいと思いました。
サイズは全長4455mm・全幅1875mm・全高1615mmで、日本でも取り回しに苦労する事は少ないでしょう。カタログ上の航続距離は485km。家や家電に給電出来るV2H、V2Lにも対応している為、補助金も満額でます。車両価格は440万円ですが、自治体にもよりますが実質350万円前後で購入することが可能です。
しかも元々、バッテリーや半導体を生産している会社だけに、クルマ自体の生産はスムーズに出来ている様で、納車まで時間を要さないとの事。私自身も、すぐにBYDのクルマを購入するかと問われたら、少し考えますが、コンパクトサイズのBEVのSUVを探していたら十分に購入希望リストにはいるかもしれません。
〇BMW ALPINA XD4
続いてXD4です。
私はALPINAのクルマを3台、乗り継いだ経験があり、ある程度はその魅力を理解しているつもりです。手放した後も何度か試乗する機会があり、その滑らかで、かつパワフルなエンジンや「マジック」と称される足のセッティングなどの良さから、いつかは、また、ALPINAに乗ってみたいとも思っていました。
唯一のエンジン車であり(ディーゼル)SUVとは言え、あのエグゾーストノートを響かせて、滑るように走る感触を楽しみにXD4に乗り込んだのです。
室内は、ALPINAの真骨頂。派手では無くとも“高級”である、という意味を教えてくれるようなしつらえ。シートや室内の至る所にあしらわれるステッチなど、まさに盤石といえる質感です。
しかし、ふとメーターを見た時に、若干の古さを感じてしまいました。フルデジタルメーターではあるものの、周りのフードはプラスチックで覆われ、各種インディケーターもデジタルではあるものの、フォントが若干古く感じたのは、同じBMWのi7に乗った後だったからだと、思い直し、エンジンを掛けました。
ディーゼルとは言え、3L直6クワッドターボのエンジンは、その振動の少なさや回転の滑らかさに定評があります。以前、このエンジンのクルマに乗った事がある某俳優さんも絶賛していましたし、私も同じく直6の「ツインターボ」のディーゼルでさえ、その滑らかさに驚いた経験がありますので期待も膨らみます。
しかし、またしても、i7の後に乗ったことが災いしたのか、エンジンを掛けた瞬間の盛大な振動と音に驚いてしまいました。あれ?こんなはずではないのに…。
きっと走り始めたら800Nmの怒濤のトルクと滑らかな足に痺れるに違いない! そう思って西湘バイパスに乗ります。大磯ロングビーチの駐車場から一般道経由で西湘バイパスに乗る為には、短い距離しか無い合流道で、一気に流れに乗る速度に加速しなければなりません。
先程のi7ではアクセルを軽く踏むだけで同時にトルクが発生し、一気に加速。安心して合流する事が出来ました。
しかし、このXD4の場合、アクセルを踏んで一瞬、溜めがあり、その後から暴力的な加速に入りますので、合流の瞬間が少し遅れて、その後は一気に凄いスピードに達してしまいます。よく言えば、豪快な加速感を楽しめますが、悪く言えば、リニアに加速できないので、一般道では少し怖いかもしれません。その加速に至るタイムラグが当たり前だった「BEVを知らない時代」では、違和感はありませんでしたが、BEVに慣れると“違和感“として身体が受けとる事に驚きました。
これはBEVに慣れている人にしか分からない感覚ですが、多くのジャーナリストが同様の感想を述べていたので、私だけが特殊なのではないようです。過給によるラグが極めて少ない「クワッドターボ」でさえ…、自分でも寂しい気持ちになりました。
最大トルクはXD4:800Nm、i7:745NmでXD4の方が上なのですが、トルクの出方が違うのか、i7の方が滑らかで圧倒的な力感をもって加速したと身体が記憶しています。
誤解が無いように申し上げますが、XD4が古くて悪いクルマ、という事では無く、違う種類のクルマ、ということを実感したという感覚でした。
〇FIAT 500e
続いてはFIAT 500eの試乗です。コンパクトBEVの世界的標準車である500eは42kwhの総電力量の駆動用バッテリーで、航続距離は335km。実質的にはおそらく250kmでしょう。
寒い日でしたが、敢えて屋根を開けて乗ってみました。やはり寒かったのですが、開放感が気持ち良いのも確か。
エクステリアは可愛いし高級感すらあります。内装も、素材は普通ですが、ATTO3と同じく、デザインのお陰で安っぽさは無く、内側からボタンを押して電磁ロックを解除して開くドアの感触も上々。
220Nmの最大トルクでも合流はスムーズ。私としては回生力を、いちいちモニターに出して切り替えなければならないのが残念ですが、キビキビと走るコンパクトカーとしては、こんな愛すべく相棒は他にないと思いました。
しかし…、価格がコンパクトではありません。サブスクとはいえ、500eの価格は473万円~、私が乗ったOPENは520万円…。いくらなんでも…と正直思いましたが、サブスクという方法が、どのように受け入れられるか、未知数です。皆さんは、どのように感じますか?
〇Tesla Model Y
最後はモデルY。これまでモデルS、モデルX、モデル3の試乗経験はあるのですが、Yは初めてです。
実は内装の作り込みなどには失望する事が多かったテスラですが、徐々に質感も上がり、ギミックも増え、元々、パワー一辺倒だった走りの質も向上してきた事、更に実質航続距離の長さやスーパーチャージャーによる圧倒的な充電能力に関しては評価出来ます。が、何かが、購入意欲を沸かせてくれません。
特にモデル3とモデルYに関しては、コストダウンが目に見えてしまうのが残念です。今回も、どうしても馴染めないスピードメーターの位置(中央メーターの右上端に数字が出るだけで正面には何も無い)や質感は上がったとは言え、簡素な室内の作り等の印象は従来のままでした。
そして回生力の切り替えが走行中に出来ない事も、ストレスを溜めるのです。まあ、走行中に回生力を変えてエンジンブレーキのように使い、加減速をコントロールするようなドライバーは希有だと思いますが。しかし、実際に「IONIQ5」のように自在に操れるBEVもあるので、どうしても比較してしまいます。
そして、両手を使わないと上手く開けられないドアハンドルも馴染めません(慣れれば問題ないそうですが)。モデルSやXですと、キーを持ったまま自動でドアが開くので問題はありませんが、3とYは手動のため、私はスムーズに開けられない事が多いのです。
今回乗ったパフォーマンスグレードは笑ってしまう程の動力性能(0-100km加速3.7秒、最高速度250km/h)を持つにも関わらず750万円(今なら補助金65万円が適用の為、実質685万円)という圧倒的なコストパフォーマンスを誇り、上海工場で生産している為、1ヶ月以内での納車が可能なことなど、他のメーカーのクルマに比べてアドバンテージは、かなりあると思いました。
前述しましたがヨーロッパでも“BEV一辺倒“では無くなってきたとは言え、純粋にユーザードライバーの感覚として、BEVの気持ち良いドライバビリティーを認めざるを得ないと感じた輸入車試乗会でした。
ただ、会場の大磯から自分の愛車、ロータス・エリーゼに乗って帰宅した際には、「やっぱりエンジン+MT車の運転の快感を上回るものは、この世に無いな」と実感したのも確かです。
しかし、官能性のないエンジンにダイレクト感が希薄な2ペダルのトランスミッションが付いたクルマとの比較では、今後はBEVを購入しても良いのかな、と思いながら帰路についた事を正直に申し上げます。
安東弘樹
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