WEC第1ラウンド大勝利の陰で、買いたいけど買えないモノを考える…安東弘樹連載コラム

以前、このコラムで、今年のWEC(世界耐久選手権)が盛り上がりそうです。という話をさせて頂きましたが、その第1ラウンドが終わりました。

今年から多くのワークスチームが一挙に参戦し、群雄割拠の様相を呈していますが、初戦、アメリカ・セブリング・インターナショナル・レースウェイでのスターティンググリッドはまさに壮観!

トップカテゴリー、ハイパーカークラスのワークスチームだけでも9台が並ぶ光景にはワクワクさせられました。ポールポジションこそフェラーリに譲ったものの、結果としては、ディフェンディングチャンピオンのTOYOTA GAZOO Racingが見事なワンツーフィニッシュを決め、シリーズ連覇に向けて、幸先の良いスタートをきりました。

日本人ドライバーも、ハイパーカークラスで優勝した小林可夢偉選手(兼チーム代表)、2位の平川亮選手、そしてLMGTEアマクラスで3位のケッセルレーシング、木村武史選手、計3名が表彰台に上がる等、長男とリアルタイムで観ていた私も(途中、仮眠有り笑)気持ち良く?朝9時過ぎに寝られました。

残念ながら海外でのレースは観に行けませんので、今から9月に行われる第6ラウンド、WEC富士6時間耐久レースも楽しみです。

しかし、第1戦のTOYOTAの勝利の余韻に浸りながら、富士の観戦チケットを買おうとして販売サイトを見たら、何と全ての席が完売になっているではありませんか!!

「え?やはり今年のWEC人気は凄い!」と思って呆然とし、今年は観に行く事は出来ないのか…と諦めかけたのですが、よく見ると、どうやら去年のチケット販売のサイトのままになっている様でした。暫くネットで調べてみたら、今年のチケットは7月から販売されるとの事。

いやー、安心しました。それにしても紛らわしいので、終わった販売用サイトは閉じていただきたいと思います(笑)。

今年から参戦チームが増えて、人気が上がっているのは確かなので、半年前から完売もあり得るし、それは嬉しい事だと思いましたが、良くも悪くも違ったようです。7月のチケット販売開始以降も注視して、スケジュールと相談しつつ早めに購入したいと思っています。

それにしてもリアルに今年はチケットを買えず、もう観戦が出来ないと思いました。

買いたいけど買えないモノ

そして、買えないものと言えば、最近は「新車」です。
世界的な半導体不足やコロナウィルスの感染拡大の影響による工場の閉鎖・休業などの影響も未だに残っており、更に世界の港湾の混雑など、クルマ業界が特に打撃を受けたままになっています。

コロナ禍以前は、生産やデリバリーがスムーズにいっていた日本メーカーの量販車でさえ、最近は納車が滞っています。某日本メーカーの新型SUVも、受注が好調な事がかえって納車を遅らせており、受注の際にはユーザーに、2年弱の納期を覚悟して欲しいと説明しているそうです。それでもキャンセルが殆ど無いのが救いで、「改めて、お客様に感謝しています」とそのメーカーのメディア担当の広報の方は、おっしゃっていました。

比較的、日本メーカーのクルマを購入するユーザーは、“納車までの時期に拘る“、というか”車検のタイミングで”、という方も多く、シビアな方が多かったのがこれまでの特徴でした。しかし、前述の日本メーカー広報の方曰く、最近は世界情勢を理解して下さる方が増えた、という事で、一時は多かったキャンセルも減ってきたそうです。

それにしても納車までの時間が、かなり掛かるメーカーが多いのは確かです。実は私も最近、久しぶりに中古車を購入しました。以前の愛車の走行距離が9万㎞に迫ってきましたので、やはりローンの頭金を捻出させる為に10万㎞を超える前に売却しなければ?なりません。

しかし、購入しようにも私が気になる新車は、一番早くても1年半待ち…そのため今回はユーズドカー(中古車)を購入するに至った、という訳です。

ちなみに、納車までかなりの時間が掛かり、資金を貯める期間が確保出来るから、という理由で予約金を入れていた、あるクルマは、“数年の内に生産されるかどうか不透明“との情報を得て予約をキャンセルしました。資金を貯める時間が必要とは言っても、数年内に生産できるか分からないという事が分かった以上は、キャンセルせざるを得ませんでした。

そう。今は買いたいけど買えない、というクルマが増えているのです。

昨年末に受注を開始した新型プリウスも早くて数ヶ月、グレードによっては2年以上待たなければならず、もはや車検の時期に合わせて、購入というのは不可能です。かつて、プリウスを買って納車まで2年間待たなければならない、という事は無かったと思いますので、現実に買いたいけれど買わなかった、という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

人気があるクルマだけかと思いきや、今は殆どのメーカーで同じような事が起こっています。生産している工場や同じメーカーのクルマでも車種によって差が激しくなっているのも特徴で、購入する車種を変えなければならない、という、少なくとも私がクルマを買い始めてからは初めての事が起こっています。

例えば、自宅の近所にテスラの販売拠点と充電設備が出来たので、訪問してみてそれぞれの車種の納車時期を訊いてみたところ、早いものは1ヶ月で納車可能。しかし一部のモデルは早くて2年。しかもそれも約束できない、との事でした。

その理由は生産している工場の違い。上海で製造しているモデルは、地政学的な理由も含めて、早く納車出来るそうですが、別の工場で生産しているモデルは、他の地域が優先されるそうで、日本には、いつデリバリーされるか分からないとの事。場所だけでは無く、そのモデルの需要がある地域によっての差もあるそうです。

私が興味をもったモデルは、納期が2年以上先のものでしたので、それを聞いて、購入の可能性は無くなりました。

考えてみると、これまで、希少なクルマでオプションに拘り、オーダーメードの様な注文をして1年間待った、という経験はありましたが、それでも納車の時に生存しているか本気で心配し、その不安から注文書に判を押す時には緊張したものです。

それが今は、特別なクルマではなくても、数年待つのが珍しくなくなっており、まさに買いたいのに買えない、という状況になっている事に驚きます。

でも、もしかしたら「クルマ」なら、まだ良いのかもしれません。

全ての物価が上がっていますが、これは一時的なものではなく、世界的にエネルギー不足や食糧不足、資源不足になってきているのが理由です。これが食料や水等、生活必需品にまで拡がっていく可能性を示唆しているデータや、それに基づく予測も出てきていますので、我々は真剣に備えなければならないのかもしれません。

しかも、様々なモノの不足が、ウクライナへの軍事侵攻やコロナが終息しても、急速に回復するかどうかも分かりません。

今回、勘違いとはいえ、好きなレースを観に行く事も出来ない、経済的な理由以外に買おうと思ったクルマも買えない、という初めての経験に、卵が売り場から消えるという事も重なって、高度経済成長時代以降は、お店に行けば殆どのモノが買える、という状況は奇跡だったのだと実感させられました。

WEC第1戦の嬉しい結果に喜びながら、WEC富士のチケットを買おうと思って買えなかった事から、そんな事を考えてしまいました…。

しかし気を取り直し…?

改めて、TOYOTA GAZOO Racing おめでとうございます!!
今後も応援していきます!

安東弘樹

(写真:トヨタ自動車株式会社)

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