運転がすこぶる楽しいミニバン…安東弘樹連載コラム

先日、FIATの新しいミニバン「DOBLO」(ドブロ)に乗ってきました。この車、正確に申し上げると、ステランティスという多国籍自動車製造会社(FIAT、クライスラーなどを中心とした多くのブランドを持つ)が製造するミニバンです。

ちなみにシトロエンからは「ベルランゴ」の名前で、プジョーからは「リフター」の名前で既に販売されています。パワーユニットを含むパワートレインは共通で、外観や内装は、それぞれのブランドで独自性を出しています。そして、ブランドによって、特性が分かれている事からグループ全体の戦略を垣間見る事が出来るのです。

プジョー、「リフター」はラグジュアリー指向で価格も5人乗りが436.8万円~。
シトロエン、「ベルランゴ」は、個性的な外観でファッション指向、価格は422.7万円~。
そして今回販売が始まる、フィアット、「ドブロ」は実直な実用指向、という事で価格も最もリーズナブルな399万円~という設定になっています。

ドブロはフロントバンパーも無塗装の黒の樹脂製。しかし安っぽさを感じる事が無いのはデザインの妙、でしょうか。

エンジンは3車共通で1.5L(1498cc)のターボディーゼル。スペックとしては130PS/3750rpm ,300Nm/1750rpm。ディーゼルらしく低回転から豊かなトルクを発生させます。

そして私がお伝えしたいのが、“とにかく運転が楽しいクルマだ”という事で、運転を始めてから、ずっと降りたくないと思って試乗していました。

実際に乗ってみて感じたこと

シフトダイヤル

今回、試乗のコースとして選んだのは青山近くの拠点を出発して、主に首都高速を走るコース。

走り出してすぐ、スペック以上に力強いトルクを感じるディーゼルエンジンに、にやりとします。

8速ATは変速ショックも少ない、と言いたい所ですが、実は、クルマに乗って、シフトダイヤルをDの位置に回し、すぐにシフトセレクターの下にある「M」(マニュアルモード)ボタンを押して、それ以降2時間の試乗を終えるまで、終始ステアリングコラムに付いている固定式のシフトパドルを使ってマニュアルで変速をしていました。

そのため、オートモードの変速マナーを確認するのを忘れていました…。

しかし、アクセルの踏み込み量に完全にシンクロして、思いのままに加減速が出来る。このエンジンとトランスミッションの組み合わせで、追い越しや首都高速道路に合流する時の加速なども、スポーツカー並のレスポンスでドライバーの運転に応えてくれます。

ステアリングパドルを使い変速を自分でしていると、ゾーンに入っていくのが分かります。思わず、「いやー、楽しいな、このクルマ」と呟いてしまいました。

大きな空間を持つミニバンにもかかわらず、コーナーでの路面追従性を含む安定感に優れ、安心して曲がって行けます。ピョコピョコ跳ねる事もなく、柔らかい乗り心地の良さではないのですが、しっかりと乗員を支えてくれる乗り味でした。

3兄弟?の中では最も軽いのも影響しているのか、他の2車種に比べて軽快に感じた事も、お伝えしておきます。

  • インストルメントパネル

2時間弱の試乗を終えて、充足感に包まれながら、我に返り、トリップコンピューターの燃費を確認すると6.2 L/100㎞。日本式に換算すると軽油1リットル当り16kmちょっと、という事になります。

しかも今回、首都高速で発生したばかりの2つの事故に巻き込まれ、何と2件共、大破したクルマのすぐ近くを通り過ぎることになったため、走行時間2時間弱の内1時間は、この渋滞を抜けるために費やしました。実質、普通に走れた時間は1時間未満、という状況での燃費ですので、これは大したものです。

満タン法で計れば、もう少し悪い数字になるとは思いますが、もしスムーズに走れていれば、相当、燃費は良くなったでしょう。

実際に、広報の方に実燃費を尋ねてみると、高速中心だと軽く20km/lは超えるという事ですから燃料の軽油が割安な事を加味すれば、ランニングコストが抑えられるのは確かです。

当分は燃料の高値水準が続くと思われますので、これは本当に有り難い要素ですね。

実用性はいかに

ただ、ミニバンは運転が楽しいだけでは、ユーザーに選ばれません。ユーティリティーが備わってこそ、の存在です。そういう点では、時に日本のユーザーは世界一厳しい目を持っていると言って差し支えないでしょう。

何と言っても、日本でミニバンといえば、電動スライドドアが必須になります。最近は多くの軽自動車のミニバンでさえ、電動スライドドアは標準装備になっています。

  • 左後方から見たDOBLO

  • DOBLOの後部座席

ドブロは勿論?手動スライドドア。かつての様に、思いっきりドアを閉めないと半ドアになってしまう様な事は無く、滑らかで開け閉めしやすいとは言っても、やはり片手で子どもを抱きながらの開閉は難しいと思われます。

これは、元々のクルマの成り立ちがコマーシャルバン(商用車)から派生しているクルマなので仕方がありません。しかも多くの欧米人は体格も良く、力もある事から、必要性をあまり感じないとの説明を受けました。

特にアメリカでは、開閉に時間が掛かる電動スライドドアは、セキュリティ上も好まれないと、かつて他の欧州ミニバン試乗の際に、広報の方から解説を受けた記憶もあります。しかし、日本市場で販売する、という事を考えたら、かなりのディスアドバンテージになるのは間違いありません。

勿論、インポーターもそれは承知で、違う種類のユーザー層を想定しているとの事ですが、正直、私の様な運転マニアでさえ、かつて二人の息子が、まだ小児だった時、人生で一度だけミニバンを購入した際、電動スライドドアのVW・シャランを購入した経験があります。

クルマを選ぶ際、運動部に所属した経験が皆無の私の妻は、スライドドアを開け閉めする自信が無い、と言って、電動ではないスライドドアのクルマは全て却下となりました。

フランスやイタリアのミニバンは、“子育て世代の移動手段”というより、“大人が趣味を楽しむ為に、ガンガン使うクルマ”という位置づけと考えた方が良さそうです。

しかし、それでも私が残念だったのは、頭上近くにある後部座席用のアシストグリップが無いことです。

運転が楽しいだけに、後席に座った人が、しっかりと身体を支えるアシストグリップは必須だと思うのです。運転席と助手席には大きく頑丈そうなグリップが付いているだけに、少し驚きました。これも商用車である所以かもしれませんが、グリップを付けるための土台が見えるだけに、今後に期待しましょう。

ちなみに頭上近くのアシストグリップを持ってクルマの乗り降りをする方が多いと思いますが(私も使ってしまいます)、本来は乗車中に身体を支えるモノで、一気に力が掛かり、クルマへの乗降時には使わないのが前提なので、皆さん、お気を付け下さい。

その為、運転席にはアシストグリップが付いていないクルマも多いのです。

話が逸れましたが、もう一つ。ヘッドライトが今時?ハロゲンのものが標準でLEDライトがファクトリーオプションリストにも無かったので驚きましたが、これは販売店アクセサリーという形で装着する事は可能だとの事。少し安心しました。

それにしても、このドブロ、趣味を楽しむための道具(ギア)として、また、運転そのものも趣味として楽しみたい方には、頼もしい相棒になってくれるに違いありません。

勿論ADAS(先進運転支援システム)も標準的なものは全て備わっていますし、ボディ剛性も担保されています。それから7人乗りで全長が4770mm、ホイールベースは2975mm、 ストレッチされたDoblo Maxi(ドブロ・マキシ)もラインアップされていますので、大人数で趣味を楽しみたい方の強い味方になってくれるでしょう。

また希少性もあって、知る人ぞ知る、というクルマが好きな方! 次期愛車の候補に挙げてみてはいかがでしょうか。

安東弘樹