新型セレナ「e-POWER」ハイウェイスターVとルキシオンに乗って気づいたこと…安東弘樹連載コラム
メーカーの試乗会に用意されたのは最販グレードの「ハイウェイスターV」と最上級グレードの「LUXION(ルキシオン)」。
試乗ルートは御殿場を拠点に、箱根のワインディングロードと、新東名高速道路、東名高速道路を走るコースを選びました。
e-POWERの発売は4月20日で、2月末の受注開始から5月21日時点で2万5千台以上の受注数に達した、という相変わらずの人気車です。
ちなみにセレナが誕生してから、全モデルの累計販売台数は200万台を超えたとの事。
正に日本を代表するミニバンの1台と言って良いでしょう。
今回の新しいe-POWERの特徴は、まず「駆動には使われない」発電、充電用のエンジン(HR14DDe)が新しくなり、出力は16%アップの72kw(98ps)へ。駆動用のモーターの出力も20%アップ(163PS/ 315Nm)し、運転してみても、その出力アップを実際に体感できました。
そして運転支援はセレナ初のプロパイロット2.0が装備されたのですが、残念な事に2.0が装備されるのは最上級モデルのLUXIONのみ…。
今回の試乗では、このLUXIONで高速道路を走り、ほとんどの場面でハンズフリーが可能でしたので、これはオプションでも全モデルに装着出来るようにして頂きたいと素直に思いました。
勿論、「素」のプロパイロットでも十分、快適なのですが、一度ハンズフリーを経験してしまうと、どうしても物足りなくなる、という方もいらっしゃると思います。
ちなみに私は、運転支援が無くても、ずっと楽しく運転出来てしまうのですが、一般的には、ハンズフリーによって長距離運転が楽になるのは間違いありません。技術的に装着できない、という事ではないそうなので、是非、今後は検討して頂きたいと切に願いました。
両モデルに共通して言えるのは、乗員が「酔わない」事を目標に刷新したサスペンションによる、乗り心地の良さや運転時の安定感。静粛性が向上した事も含めて、ドライバー、そして乗員も快適なドライブが出来ることを確認しました。
さらに、先代モデルで私が最も気になった、アクセルを踏んだときのエンジン回転の上がり(音)と、実際の加速の時間差(ラグ)が減少したのには好印象を持ちましたが、やはり私個人的には、完璧とは言えず、これがもう少し改善すると、より気持ち良く運転出来るだろうと感じたのも正直なところです。
エンジンは駆動とは切り離されているので、制御次第で、このラグを完全に解消出来ないものなのか、メーカーの担当の方に質問はしてみたものの「頑張ります」との返答でした…。
ただ、現代の日本のドライバーはAT、特にCVTの運転に慣れている方も多く、「気にならない」、という方がほとんど、かもしれません。
標準装備の差と使い勝手から見る残念な点
使い勝手で言うとハンズフリーオートスライドドア(クルマの下に足先を入れて、足を引くと電動で開く)は使いやすいものの、バックドアは手動でしか開閉出来ないので、女性が子どもを抱いたまま、バックドアを閉める事は、かなり難しいと思われます。
ライバルのTOYOTAのミニバン、ノア、ボクシーには電動バックドアが付いているので、これは比較されると、弱点になるかもしれません。
ただ、バックドアの上半分だけ独立して開けられるのは、とても便利で、多くの場合は上半分だけの開閉で事足りる、という方でしたら電動開閉ではなくても不便は感じないでしょう。
細かい事を申し上げると、サンバイザーの裏に付いているバニティーミラーに照明が付いていないのも、少し残念でした。
これまでの、このクラスのMサイズミニバンでしたら、仕方が無いと思えたのでしょうが、今回の試乗車の価格はハイウェイスターVが車両本体価格368万円プラス、メーカー、ディーラーオプションを加えると400万円以上。
LUXIONに至っては、車両本体価格479万円。同オプション込みで500万円を超えます…。
そうなるとミラーの照明も欲しくなるというものです。
今回、LUXIONでの高速道路走行は、プロパイロット2.0の快適性だけで無く、クラスを超えた静粛性で、驚いたのですが、このLUXION「だけ」フロントガラスに加えてフロントドアガラスも遮音ガラスになっていました。ちなみにプロパイロット2.0専用のヘッドアップディスプレイもLUXION専用装備です。
更にLUXION「だけ」の標準装備を、お伝えすると、自宅などの駐車位置を記憶させておくと、白線などが無くても、ボタン一つで自動的に駐車するプロパイロット パーキング(ハイウェイスターVにはセットオプション)があります。
さらにパワーオフの状態で車外から専用キーの起動ボタンを押すとクルマが始動し、前後の操作ボタンを押すとクルマが動いて、ボタンを離すとクルマが止まる、という、プロパイロット・リモート・パーキング(完全にLUXIONのみ)、等が挙げられます。
その装備の分の価格が100万円の違い、と考えると、どのように判断すれば良いか、若干、悩んでしまいます。
それからシートを含めた剛性などは、かなり上がってきたとは言え、以前、私が所有していたVWのミニバン「シャラン」と比べると、「線が細い」と感じたのは確かです。道路状況や速度域が違うので、これはセレナに限った事では無く、日本のミニバン全てに言える事ですが、日本市場に於いては、利便性などとトレードオフになるので仕方が無いと言えるかもしれません。
また、これも私個人的には、サンルーフやパノラマルーフが必須なのですが、新型セレナには全車で設定が無い、というのも残念です。さらに言えばe-POWER車は4WDの設定が無く、ライバルのハイブリッド車との比較で不利になる可能性が否めません。
新型セレナの美点
次に美点をまとめて、お伝えすると、まず、シンプルなのに存在感のあるフロントマスクは、威圧感を抑えていながらクールな造形という、絶妙な塩梅だと私は思います。
内装も全体的にシンプルで、日産お得意の段差付き一体デジタルインパネも見やすく、メーター自体も情報を的確に伝えてくれます。高速道路での疲労低減にも寄与しているでしょう。プロパイロットを含めたACCの操作も直感で操作出来ますし、インターフェースに不満はありませんでした。
運転していて特に感動したのが、日産のワンペダルモード、「e-Pedal Step」。
アクセルを戻すだけで回生ブレーキが強く掛かりますので、箱根のワインディングロードも、ほとんどブレーキを踏まず、下っていけます。加速したいときもアクセルを踏むだけ。これは新しい運転体験と言えるでしょう。
そう、それからこれは“個人の好み”、ですが、今回設定された利休(リキュウ)という、少し落ち着いたベージュのボディカラーが私は好きでした。
残念ながら私が試乗したクルマではなかったのですが、今回の試乗会の拠点となった御殿場のホテルの駐車場に並んでいる、リキュウ色のセレナの写真を撮っていなかった事を後悔しています。
燃費について
最後に燃費の話をしておきましょう。今回はe-POWERのみの試乗ですので、期待していたのですが、箱根のワインディングを主に走った、ハイウェイスターVが約30kmの行程で17.2km/L。
そして、箱根の山道の途中にある、休憩所の駐車場で、他のジャーナリストの方とクルマを乗り換えた為、箱根の山道の下りと高速道路はLUXIONで走りました。こちらは約60kmの行程で17.5km/Lという結果に。
これを、どのように判断したら良いのか悩むところですが、レギュラーガソリンとは言え、この高止まりしたガソリン価格を考えると手放しで喜べる、という程ではないかもしれません。
私が普段乗っている、重量、約2トンのディーゼル車で平均15km/L、高速道路では、17km/Lと考えると、燃料費(ディーゼルは軽油ですので)の価格差でランニングコストはディーゼル車の方が抑えられるという事になります。
もっとも、市街地の一般道を主に走る、というユーザーでしたら、また燃費も変わってくるかもしれません。これはドライバーの使い方次第ですので、皆さんに判断は委ねましょう。
今回のセレナの商品コンセプトが、「家族との遠出を最大限楽しむためのミニバン」ですが、装備等で気になる所はありつつも、“ドライバーが楽しめるミニバンでもあった”とお伝えして、結びたいと思います。
安東弘樹
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