PHEVの可能性・・・安東弘樹連載コラム
先日、日本に於いて、ジャガーやランドローバーの車両を正規に輸入販売しているジャガー・ランドローバー・ジャパン(以下JLR)が主催するJLR PHEVサステナブルエクスペリエンスに参加して来ました。
日本ではハイブリッド(以下HEV)車はお馴染みですが、電気自動車(以下BEV)やプラグイン・ハイブリッド車(以下PHEV)は馴染みが薄いというのが現状でしょう。
特に賛否があるとは言え、テスラや日産のサクラなどが増えてきていることも有り、純電気自動車のBEVの方が、まだ馴染みがあるかもしれません。
その「間」にあるのがPHEVということになるのですが、簡単に説明させて頂くと、基本的にはエンジンとモーターが両方付いており、両方で走る事が出来る車です。
例外としては、MAZDAのMX-30 ロータリーEVの様に、走行はモーターだけで行い、エンジンは発電専用、というクルマもありますが、PHEVの更なる特徴として外部の電源からクルマに充電して、それを動力モーターや発電モーターの稼動エネルギーに使う、という定義が出来ます。
日本市場に於いては日本メーカーでは選択肢が少ない、ということもあり、まだまだ市民権を得ていない状況です。
基本的にはエンジンも付いているので充電設備が無くてもPHEVの運用は可能ですが、普段から自宅で充電できないと、その長所を活かすことができず、良い所が悪い所、(エンジンだけで走るとモーターやバッテリーは単なる重り)となり、所有する意味合いがなくなるから、というのが大きな理由だと考えられます。
私自身も、これまで試乗などで経験してきたPHEVですと、自宅に充電設備が有ったとしても今一つ、長所が感じられなかったのです。私は頻繁に長距離走行しますので、燃料満タンからの航続距離が長いディーゼルエンジンの方が効率も良いので、実際に今もディーゼルエンジンのSUVを所有し、その経済性や低速時の高トルクによる乗り味に満足しています。
しかし、ここ2年程で、PHEVの性能が急激に上がってきており、徐々に興味が沸いてきた矢先のPHEVに特化した(1車種だけBEV)試乗会でしたので、満を持して?参加してきた、という訳です。
JLRのラインナップの中にPHEVが増えてきたという認識は勿論あったのですが、スペックにうるさい私は、これまでの同社PHEVではバッテリー容量が小さすぎて、モーターのみによる走行距離が短い為、正直、興味が持てませんでした。
メーカーとして「PHEVもありますよ。」というアピールの為、だけの存在ではないかと思っていた程です。
それが、今回の試乗会で見事に覆されることになりました。
数あるPHEVのラインアップの中で、今回、私が選んだのが、レンジローバー・スポーツP550e(以下RRスポーツ)とジャガーF-PACE400e(以下F-PACE)の2車種です。
私がPHEVのクルマに対峙した時、まず、確認するのはバッテリー容量です。正確に表現すると「走行用バッテリーの総電力量」ということになるのですが、要は航続距離を推定するのに最も指標になる数字だからです。
このRRスポーツのバッテリー容量は38.2kwh。
分かりやすくお伝えすると、日本のBEVとの比較で、軽自動車規格の日産サクラ、三菱ekクロスEVの約2倍。
同じくBEVのHonda e やMAZDAのBEVのMX-30より大きい容量という事になります。38.2kwhというのは最近の欧米、アジアのBEVと比べれば極めて小さい容量ですが、それでもエンジンも付いているPHEVの中では私の知る限りでは最大の容量となります。メーカー公表のモーターだけで走れる距離は100km前後ということになっていますが、このカタログ値が意味をなさないのは皆さんも、よく御存知だと思います。
では実際は、どうなのか。試してみましょう。幾つかあるモードの中で迷いなく私はバッテリーが少なくなるまでは電気だけで走る「EVモード」を選んで出発です。JLRの担当者は「SAVEモード」で走ると効率の良さを実感して頂けます。と仰っていましたが、私は、あくまでモーターだけで、どれだけ走れるかを試したかったので、モードに関しては事前に決めていました。
走る前のバッテリー残量は78%。JLRの担当の方によると「試乗前にバッテリー100%にしてあります」とのアナウンスでしたが、ジャーナリストが次から次へと交代して乗っていく訳ですから、これは仕方がないでしょう。
それでも航続距離は実際の走行距離とバッテリー残量から計算できますので、問題はありません。
エンジンを始動した際の(実際にはエンジンは掛かりませんので、起動でしょうか)モーター走行のみの航続距離は72km。この段階ではカタログ値に近いな。という印象です。
試乗会の拠点となっていた千葉県、木更津市にあるクルックフィールズ、というエネルギー園内循環型の施設を出て木更津のカントリーロードを走り始めます。空いている一般道は電気モーターにとって最も効率よく走れる環境ですので、順調に走行し、バッテリーも減るのは緩やか。
しかし数キロ走った後、高速道路に入り、速度を上げると電気消費は一気に上がり、バッテリー残量は目に見えて減っていきます。高速道路を15km程走って、パーキングエリアに入った時にはバッテリー残量は、ちょうど半分の50%になっていました。電気を28%使って22kmの走行。計算すると航続距離は80km弱ということになるでしょうか。
以降、高速道路を5kmほど走行してインターチェンジを降り、帰路は一般道を15kmほど走り、拠点に到着しました。
結局、エンジンは掛からず、総走行距離50km弱を完全に電気だけで走りきってしまいました。最後の最後で、エンジンのフィールも知りたかったので、故意に3L直6ターボエンジンを掛けましたが、それでも静粛性は保たれ、モーターとの協調も優れているので、かなりの加速力です。
一度、エンジンの味も確認して、すぐにEVモードに戻して、到着した時のバッテリー残量は24%。78%でスタートしたので50kmを54%使って走破したことになります。やはり高速走行時には電費が落ち、高速道路を降りた後に電費が回復したことが、よく分かりました。
この結果は自宅で充電できれば、殆どのシーンでエンジンが掛かること無く運用出来る事を示しています。しかもRRスポーツは輸入PHEVの中では少数派ですが急速充電にも対応しています。
即ち、長距離走行時には高速道路のS.A.などでの経路充電も出来て、いざという時にはエンジンで「普通に」走行出来ますので、これは「実際に使える」PHEVだということを実感しました。ただし、全長4960mm×全幅2005mm×全高1820mmの大きなサイズと2.8tの重量。そして車両価格1685万円という大きな壁が立ちはだかりますが…。
この価格を払える方は、自分のクルマによる環境負荷を減らす為にも素晴らしい選択になる事を、お伝えしておきましょう。
続いてジャガーF-PACE400e
続いて、もう1台のF-PACEですが、文字通りRRスポーツより一回り小さく、軽いPHEVです。バッテリー容量は19.2kwhとRRスポーツの半分ほど。それでも軽自動車BEVと同等の容量です。2L直4ターボエンジンとの協調により、十分な動力性能でした。
F-PACEの方はスタート時98%とフル充電に近い状態。カタログ上のモーターのみによる航続距離は68kmです。
では実際は、どうなるのか。スタートです。先程のRRスポーツと全く同じ道を辿りました。
やはり一般道で電費が良く、高速道路では電費が落ちますが、先程のRRスポーツより軽快に走れる分、心なしか電費が良い様な気がします。内装も高級感とスポーティーさが両立していて装備もRRスポーツと比べて遜色なく、走っていて楽しいのは断然、F-PACEの方でした。
ただ、やはり容量が半分、という事で計算上の電費は20%ほど良いのですが、50km弱の行程で、ほぼ電気を使い切ってしまいました。最後は、やはりエンジンとの協調を確かめたかったので、わざとラフにアクセルを踏み、電費を悪くしてエンジンを始動させましたが、2.2tの車重に対して十分な動力性能を発揮し痛快な加速も確認出来ました。
しかし、こちらは「急速充電」には対応していないので、長距離を走る時は、航続距離や効率の面ではディーゼルエンジンの後塵を拝してしまうでしょう。自宅で充電が可能で普段、主に通勤や買い物などに使う、という方でしたら50kmは無充電で走行が可能ですので十分、有効に使えるというクルマでした。
更に、考えようによっては充電インフラに左右されない、とも言えます。
試乗を終えて思うこと
今回、両車に乗って、環境負荷の軽減や経済的なメリットも生じる、使えるPHEVが、ようやく市場に出てきた、と感じました。
ただ、F-PACEでも価格は1150万円と「皆さん、どうぞお買い求め下さい」と言えるクルマではありません。今回のPHEVラインナップの中でも、もう少しリーズナブル?な883万円というクルマもありましたが、平均的な価格帯で今回の両車並に実際に使えるPHEVが登場するまでは大きく普及する、というのは難しいかもしれません。
だからこそ日本メーカーのPHEVのラインナップが少ないというのが現実です。
更に日本の経済状況が30年間、停滞したままの中で異常な円安が続いているのも影響の一つでしょう。
883万円、というのは多くの欧米先進国の現在の平均年収に近いのですから…。
様々な事を考えたPHEV試乗会でした。
安東弘樹
安東弘樹連載コラム
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